ケニアの最新経済概況 コロナショックから3年弱を振り返る
世界的なリセッションの波が押し寄せる中、IMFは22年10月に来年の世界経済見通しの最新版を発表しました。
それによると、23年の世界の実質GDP成長率は2.7%と今年の3.2%(予想)から更に下落。地域別ではユーロ圏0.5%、米国1.0%と欧米での低成長が目立ちます。一方でサブサハラアフリカはアジアの新興市場国と発展途上国の4.9%に次いで3.7%の予想となっています。
今回は、サブサハラの中では日本企業の注目度が高いケニアについて、マクロ指標を分析しながら、コロナ以降の2年半を振り返ってみたいと思います。コロナショック、ウクライナ侵攻と激動の時代を迎えている世界の中でのケニアの今が伝われば幸いです。
1.マクロ経済
はじめに、ケニアの実質GDP。2021年の実質GDP(constant 2015)は$90Bn(日本は$4,433Bnなのでケニアの約50倍)。サブサハラアフリカではナイジェリア、南ア、エチオピアに続いて3位につけます。成長率は7.5%と他国同様20年のコロナショックからのリバウンドが確認できます(20年の成長率は▲0.3%)。なお、その前の10年は5%前後で推移していました。22年の予想は5.3%、23年はIMFによれば5.1%となっており、底堅い成長が予想されています。
一人当たりGDPは20年に足踏みしたものの、21年には遂に2,000ドルに到達。10年で倍増しました。今後、個人消費が大きく伸び始める3,000ドルを目指していくことになります。アフリカが来る!と言われ始めて久しいですが、いよいよそんな時代に突入する兆しが見えつつある気がしています。
図表1:ケニアの実質GDPと一人当たりGDPの推移
ケニアのGDPは約40%を農業が占めています。中でも輸出産業として確立している稼ぎ頭はお茶と切り花。
お茶(主に紅茶)で、植民地時代に主に英国人によって開拓され、今でも一大産業です。2021年の輸出総額は1,308億シリングで輸出総額の17%を占めます。
切り花は90年代から伸び始めました。低緯度で標高が高いこのハイランドエリアでは年中高品質な薔薇が育つこともあり、一大産業に上り詰めました。主な仕向け地はヨーロッパですが、日本の輸入量も多く、日本が輸入している薔薇の約50%はケニア産です。21年の輸出額は1,656億シリング。2019年にお茶を逆転してトップに躍り出てから差を広げています。
図表2:ケニアの輸出総額推移と内訳
図表3:ケニアの2大産業の切り花とお茶
しかしながら、前政権がBig 4アジェンダに掲げていた製造業の低成長は大きな課題です。製造業がGDPに占める割合は2030年までに20%を目指していましたが、むしろ減少しています(2016年9.3%、2021年7.2%)。
政府はSEZ(経済特区)やEPZ(輸出加工区)の整備を進めておりますが、中国やインド勢との熾烈な競争、COMESA加盟国(エジプトなど)からの輸入品との競争等により、結果がついてくるには時間がかかるでしょう。
一般的にはケニアの製造コストは決して安く収まりません。特にエネルギー、人件費、原材料費、電気、ガス、重油等は産業用途でもインセンティブが乏しく競争力は低いです。また、人件費も一人当たりでは東南アジアと同レベルかそれ以下ではありますが、生産性が低く多能工化されていないので、結局のところ東南アジアでは1人で回せるような仕事を複数人でやらなければならない場合も多く、人材の底上げは永遠の課題です。
その結果、国際収支は大幅な赤字が続き、対外債務は大きく膨らんでいます。
図表4:ケニアの経常収支の推移(2017年〜2021年)
公的債務は21年末時点で7.1兆シリング。名目GDP比で77%です。そのうち、53.4%をしめる対外債務は3.8兆シリングの残高を記録し、名目GDP比で41%と上昇トレンドが続きます。
図表5:ケニアの公的債務の推移(2017年〜2021年)と債権者
このような厳しい状況の中でも、赤字幅を縮小させることに貢献しているのが、観光とディアスポラ送金です。
観光については、コロナ前に年間200万人程度で推移していましたが、2020年には58万人と70%減。21年には87万人まで回復し、22年は通期の予想が146万人とコロナ前の7割まで回復しており、明るい兆しが見えています。ケニアはコロナ前、1,000億シリングを超える観光収入を記録していました。昨今の世界的な観光業界の復活を鑑みれば、コロナ以前の水準に戻るまで時間はかからないでしょう。
図表6:ケニアの観光者数と観光収入の推移
ディアスポラ送金は海外在住のケニア人による本国への送金(仕送り等)です。これは急激に伸びており、実に薔薇の2.5倍、お茶の3.2倍、観光の4.5倍の資金が流入しています。外貨準備高を支える柱と言って過言ではありません。
図表7:ケニア向けディスボラ送金の推移(2017年〜2021年)
2.激動の2022年
足もとではケニアにも高インフレの波が押し寄せています。
CPIは従来5~6%で推移していましたが、22年5月以降は7%を超える高水準に。10月は9.6%まで上がってきました。特に食料品、物流コスト、エネルギー価格が大きく影響を与えています。
図表8:ケニアのインフレ率の推移(2020年11月〜2021年10月)
図表9:セクター別ケニアのインフレが及ぼす影響
インフレ圧力を受けて、ケニア中銀は22年9月に政策金利を8.25%に引き上げました。同年5月に7%から7.5%に引き上げて以来、今年に入って2度目の利上げです。ケニアのような新興国でもインフレ抑制は喫緊の課題です。
図表10:ケニアの政策金利の推移(2021年10月〜2022年9月)
また、為替は22年に入り、対ドルで約20%のシリング安。まさにフリーフォール状態です。
図表11:ケニア通貨シリングの対米ドル為替相場
外貨準備高は減少が続いています。東アフリカ共同体が定める輸入月数である4.5か月を下回り、目下ケニア中銀の基準である4か月をも下回るのが現実的な状況です(下回れば、2011年8月以来)。なお、19年4月以降2度の大きな上昇がありますが、いずれも国際機関による融資によるものであり、構造的(貿易赤字、債務返済等)に減少トレンドを止められない状況が続いています。
図表12:ケニアの外貨準備高と輸入カバー月数の推移(2019年4月〜2022年10月)
ケニアの株式市場であるNairobi Stock Exchangeには61社が株式を公開しています。時価総額は約2兆シリング(22年10月31日現在)。そのうち50%以上を通信大手のSafaricom(Mpesaを展開している会社)が占めることで有名です。
そのSafaricomですが、21年半ばから22年10月にかけて株価は50%下落と目を覆いたくなります。22年10月4日時点での時価総額は9,796億シリングと遂に1兆シリングを割り、年初から5,489億シリングも落としています。FY22の業績は過去最高の2,811億シリングを記録しましたが、先進国の金利引き上げ等に起因する新興国への投資マネー引き揚げが主な要因として挙げられています。
3.最後に
足もとでは、国際収支の大幅赤字、公的債務の膨張、高インフレ、不安定な通貨、外貨準備高の下落、株安など厳しい状況ですが、それでも実質GDPは5%と底堅い成長が予想され、節目となる一人当たりGDP 2,000ドルを超えるなど堅実な成長を同時に成し遂げています。この点はさすが、人口ボーナスのメリットをこの先何十年と受ける国なだけあります。
今回このレポートを、弊社オフィスから日々変わりゆくナイロビの街並みを眺め、新興国独特の熱気を感じながら執筆して、日本は新興国と共に成長するしかない、もっと言えば、これまで攻め続けてきた中国や東南アジアではなく、これからは間違いなく、インド、アフリカの時代だと、改めて強く感じました。
来年以降のリセッションが(始まれば)どれほど続くか見通せませんが、リーマンショック後がそうであったように早いタイミングで景気回復フェーズに戻ると思います。その時を見据えて、傷んだ財政や経済に起因するリスクとのバランスを見ながら、中長期的に成長することの間違いない市場で事業を仕込む適切なタイミングであるという見方もできると思っております。
ケニアやサブサハラ諸国が国際社会と協調しながらどのような道を辿っていくか注視して、またアップデートさせて頂きます。
AAICケニアオフィスから筆者撮影(2022年11月5日)
筆者:AAICケニア法人 マネージャー 星野千秋
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