2020年上半期読んだ本 ベスト5選 歴史小説編
気のせいかもしれないが、今、振り返りを積極的にしている人が増えている気がする。
在宅時間が増えてきたからか。
変化の日々の中で、寄ってたつものを得るためか。
いずれにしろ(上記のどちらに当てはまらなくても)、すごいくいい傾向だと思う。
生きている間に、こんな劇的な変化は起きないかもしれない。
価値観が揺れ動くときだからこそ、自分(自身)のことはしっかり把握しておきたい。
「○○しかできなかった」でもいいのだ。
明日、少しでも改善できれば、報われるのだから。
というわけで、これまでは年間で振り返っていた「読んだ本ランキング」を半年verに変更してお届け。
※順位はつけづらいので、厳選して挙げる、という形を採ることにした。
今回は歴史小説編。
ここ数年で当たり年、との予感漂うこのジャンル、振り返ってみると傑作ばかりだった。
■『茶聖』/伊東潤
信長に見出され、一介の商人だった千利休が栄光と挫折を経て、茶の湯をもって心の安寧による戦国時代の変革を進めた超大作。
読書会を含め何度も読んだだけに、思い出もひとしおの1冊。
前半は信長→秀吉と、主君が変わりながらも利休が一気にステージをあげていく出世物語にしてスピード感あふれる展開。
その才覚と感性で茶の湯の大成はもちろん、秀吉のお悩みを鮮やかに解決していく爽快感が、読んでいて楽しい。
だが、“黄金の茶室”でその優位性は音を立てて崩れていく。
互いに利用し合う秀吉との関係は大きく変わり、用済みとなっていく利休は次第に追い込まれる。
その反面、茶の湯の役割を効能から本質的使命へとシフトしていくことで、利休の内面は次第に充実していく。
この物語のキーワードとなる“静謐”という単語が、利休の願いとして前面に押し出され、命の危機とは裏腹に利休の描写はどんどん穏やかに、そして安らかに。
みんなの心に刻まれる"利休形"を残して逝くラストは感涙ものだ。
■『言の葉は、残りて』/佐藤雫
もう、ぼくのtwitterやブログを読んでいる方には耳タコだろう。
2020年絶対に読んで欲しい作品。
言の葉(言葉)の力、そしてその可能性を信じた鎌倉三代将軍・実朝と奥さんの愛の物語。
立派な将軍を目指し、道理を貫こうとしながら、理不尽な政治情勢で何度も挫折。実朝の純粋な思いはくだかれ、心は壊れていく。
それでも。
少し先の未来へ、自分と同じ思いを抱く人へ、言葉を届ける。
実朝の命を賭けた行動が、修羅の街・鎌倉を変え人々の心を解放していく。
美しい言葉や、心を揺さぶる和歌。
愛し合いながら、結ばれ切れない二人の関係は涙無しでは読めない。
歴史好きはもちろん、あまりこのジャンル読んだことのない女性にもオススメだ。
■嵐を呼ぶ男!/杉山大二郎
冷徹・非道・魔王と称される織田信長。
その青年時代を描き、彼のイメージをがらっと変えて描く歴史小説。
「世の中を変えたい!」(でも想い先行型)という青臭く、真っ直ぐに理想を追い求める信長、とっても斬新だけどこの物語だと頷けてしまう(笑)
帰蝶や(後の)吉乃、信勝の最期など、これまでの定説を尊重しつつ大胆に物語を動かしていくので、信長のスカゥヒンを呼んだことがある方であればあるほど度肝を抜かれるに違いない。なのに、無二の物語に見えてくる。
解釈次第で説得力のある物語は生まれる、ということを証明した1冊だ。
桶狭間以前の信長ってきな臭いことやってるように見られてるけど、見方を変えて、ここまで心が熱くなる流れになるとは・・・
現代のビジネス訓話をアレンジして取り入れているのも大きなポイント。続編が楽しみだ。
■火天の城/山本兼一
映画化もされた城作り作品の決定版。
元々は「伊東潤の読書会」『もっこすの城』関連で読もうと、久しぶりに手に取ったら、面白すぎて1週間に3回も読んでしまった。
材料、デザイン、アイデア、現場監督など、安土城作りという一大プロジェクトにあらゆる分野のプロが前のめりに命を賭けた物語。
・デザインのプレゼンでの「腹切り宣言」
・材料探しに命がけの木曽探索
・なかなか伝わらない技術継承への思い
・信長の細かすぎる指示やムチャぶり
などなど、今にも繋がる様々な難問を彼らは意欲に変える。
ちゃんと意図を汲むヒアリング力や、資材より人の命を尊う心根など、彼らの姿勢が読み手に力を与える1冊。
■『家康の猛き者たち』/佐々木功
戦国最強の武田信玄がついに攻めてくる。
頼みの織田信長は四方に敵を抱えていてアテにできない。
迎撃か、降伏か。
徳川家は揺れに揺れていた。
しかし徳川家康はこの逆境を機に徳川家の構造改革に乗り出す。
従属ではなく独立を
分裂を起こさない結束を
そして、生き残るための唯一無二の強さを!
家康と志を同じにする本多正信を筆頭に、新生徳川の象徴となる武神に本多忠勝 、諜報部隊に服部半蔵父子。
集いしプロジェクトメンバーが個々の能力を総動員し、滅亡不可避の一戦へを飛躍の礎とする戦いが始まる。
従来から言われている三方ヶ原の戦いに漂うネガティブ雰囲気は全くない。
それまでの卑屈な立場が災いしておどおどしていた家康が「変わるんだ!」と強固なリーダーシップを発揮し、正信は『坂の上の雲』の日本のように、徹底した計算とゴール地点への戦略を構築し徳川家飛躍への道を切り開く。
忠勝の武神ぶりを宣伝したり、服部父子が後方攪乱で持ち味を発揮する展開は、さながら『半沢直樹』をみるかのような爽快感。
まさに徳川家の『プロジェクトX』。読了直前、中島みゆきの声が聞こえてきた(苦笑)
また、信玄暗殺への執念に命を燃やす女忍び母娘や、忠勝にライバル意識を燃やす左近など武田家側にもドラマが満載。
デビュー作『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』より、佐々木作品ハズレなしは今作も健在。
ピンチをチャンスへの道しるべ。明日への活力が沸いてくる1冊だ。