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9/11あの日私に起きた事①
2001年9月11日
~あの日、バンクーバーで~ その1
23年前、私は26歳。
旅行でカナダのバンクーバーにいました。
帰国のタイミングで9/11アメリカ同時多発テロに遭遇しその記録を手記として残していたのですが、発表する機会が無く…今回、未来の為に記録を残したいと思いnoteに投稿する事に致しました。
拙い文章ですが、お読み頂ければ幸いです。
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…とても天気の良い朝だった。
その日私は高校の同級生と共に、ワーキングホリデーでカナダのカルガリーに滞在している友人を訪ねていた。
お土産の日本食を友人の手渡し少しホームシック気味だった友人を励ましつつ、数日カルガリーの街を三人で観光。
その後カルガリーを離れ同級生と二人で訪れたのが同じカナダの大都市であるバンクーバーだった。
カナダの滞在最終日、午後には日本行きの飛行機に乗る予定。
「あぁ…もぅ日本に帰国しなきゃいけないんだ…」とにかく現実に戻るのがツラい。
それでも財布の中のカナダドルを使い切って、朝食を食べる為ホテル一階のラウンジに降りていった。
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ラウンジの小さなテレビの周りには客数人とホテルスタッフが集まっている。
その様子や雰囲気が少し不自然に感じたが、まだ眠かったこともありさほど気にせずコーヒーを受け取りにカウンターに向かった。
すると、毎朝笑顔で挨拶してくれていたカウンターのお姉さんが曇った顔で「Did you watch TV?」と聞いてきた。
急に不安な気持ちになり返事もそこそこに足早にラウンジ奥のテレビに向かう。
ラウンジの小さなテレビ画面には崩れ落ちるビルの映像と「New York Attacked!」の文字が躍っていた。
最初は何が起きているのか分からず、映画のワンシーンが映っているのだと思った。
しかし、間もなくそれがライブニュース映像という事が分かり、文字通り背筋が寒くなった。
頭の中で「戦争が起きたんだ!」「もう日本に帰れないかもしれない!!」と悪い想像ばかりが浮かんできた。
焦りと共に、現実感がないからか妙に落ち着いている自分がいる。
黙ったままテレビを見つめていると早口でテレビリポーターが何かを喋っていた。
どうやら「NYに何か爆弾のようなものが落とされた」と言っているように聞こえたが
私のリスニング能力ではそれ以上の詳しい内容は分からない。
テレビではホワイトハウスやペンタゴンの映像が次々と流れ、「Terrorism」のテロップも表示されている。
ふと気が付き周りを見渡すと他のホテル滞在者たちも一様に不安な表情をしていた。
横に立つ友達の表情がその時やっと目に入った。顔面蒼白である。
私の目線に気が付いた友人が私を見る。
私を見つめる目もとても不安そうだ。
その時は分からなかったがおそらく私も同じように真っ青な顔をしてたと思う。
しばらくテレビのニュースを見続け目新しい情報が無くなる頃には、じわじわとこれは現実なのだという実感が湧いてきた。
急ぎ朝食をかきこんで(この状況で食べられるあたりが若さ)友人と部屋に戻り真剣な面持ちで相談するが、とにかく情報が足りないという結論に達する。
英語では詳細が全然分からないのでとにかく情報を集める為に日本大使館に電話したが、全く繋がらなかった。
何か他に方法は無いかと旅行ガイドブックをめくっていくと、緊急時の問合せ先として「JCBプラザ」の文字が飛び込んできた。
ラッキーなことに私は今回の旅行にJCBのクレジットカードを持ってきている!やった!!
ここに連絡すれば日本語で状況を説明して貰えるに違いない!と急ぎガイドブックに掲載されている番号に電話する(それでもかなり慌てていたようで何度も番号をかけまちがってしまった)
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何度がかけ直しした後何回かのコール音ののち「はい、JCBプラザでございます。」と流れるような日本語が聞こえてきた時の安堵感…
しかし私はその感慨に浸る間もなく、電話口のお姉さんに矢継ぎ早に質問をぶつけてしまった。
「今朝NYの事件についてのニュースを観たのですが、英語ではいまいち詳しい様子が分からなくて…、今日日本に帰国する予定だったのですが飛行機は予定通り飛ぶのでしょうか?」
JCBのお姉さんは丁寧な口調で不安そうな私を落ち着かせるように喋ってくれた。
「今は空港自体がシャットアウトされているようですがもしかしたら午後には飛ぶかもしれないので、チケット予約をしている航空会社に問い合わせてみてください。」
私たちが予約していた航空会社がエアーカナダだという話をすると、偶然にもエアーカナダの問合せカウンターがいま電話しているJCBプラザのオフィスと同じビルにある事が分かった。
すぐさまJCBのお姉さんに「エアーカナダに行った後にそちらのオフィスに行きます!ネットで情報調べさせてください!!」とお願いし電話を切った。
ガイドブックの地図で調べると(Googleマップなどが一般的にでない時代)エアーカナダのあるビルは泊っていたホテルから歩いて10分ほどの距離だった。
「まずカウンターに行く!万が一今日飛行機が飛ばない場合はチケットを別の日に振り替えして貰う!そして帰りにJCBプラザに行ってより詳しい情報を入手するのだ!!」
そうと決めたら行動は早かった。
早速出かける準備をして部屋を出る。
この数日で仲良くなっていたホテルのフロントのおじさんに「エアーカナダのカウンターに行って、今日飛行機が飛ぶか確認してくるね!」と声をかけたところ…
「今日はもう飛行機は飛ばないよ。ホテルの部屋を押さえておいてあげる。」と言われてしまった。
JCBのお姉さんの「午後には飛ぶかも」の言葉に淡い希望を抱いていた私と友人は酷く動揺した。
「今日泊ることになるかなんてまだ分からないよ、」と話すとおじさんは残念そうな表情で「そうだと良いね…じゃあ昼の12時まで部屋を押さえて帰りを待っていてあげるよ。」と言ってくれた。
(いま思えば、このフロントのおじさんは私よりはるかに状況判断が的確だったと思う。)
つづく