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山田うどんのラジオドラマ
2014年5月。
『みんなの山田うどん』に掲載された角田光代さんの小説をラジオドラマにする仕事をした。
2022年12月。
およそ8年半の時を超え、私はこのラジオドラマを聞き直すことになるのだがそのことについて書きたい。
きっかけは、「Adam byGMO presents ゲージュツ爆発チャンネル!」の収録だった。12月の月替わりパーソナリティ・漫画家の瀧波ユカリさんがゲストとして番組にお招きした女優の鈴木砂羽さんと再会した。
まあ、レギュラー番組でもない単発番組のスタッフと出演者という関係なので、かなり一方的な再会ではあるのだが、GMOグループの営業担当として関わっている「ゲージュツ爆発チャンネル!」の収録現場で、私は思い切って鈴木砂羽さんに話しかけてみたのだった。
「だいぶ前になりますが、山田うどんのラジオドラマでお世話になった者です。その節はどうもありがとうございました。」恐る恐る言うと、鈴木砂羽さんはすぐに思いだしてくれて「ああ!!アレ!アレね!よかったですよね。どうもどうも。」と微笑んだ。
そしてこう続けた。
「あのラジオドラマね、ウチの母がすごく気に入っていて録音したやつよく聞いてたのよ。あの時の砂羽の芝居はいいとかいって。」
鈴木砂羽さんはお母様の口真似をしながら話してくれた。
驚いた。
8年以上も前の(しかも今、「相棒」の撮影で超忙しいだろうに)単発のラジオドラマのことを覚えていてくれて、しかもお母様がその時の砂羽さんの演技を好きだと言って何度も聞いていたとは!
こんなことがあるのか、と。
感激した。何より素直に嬉しかった。
その夜、私は自分のハードディスクを引っ張り出し、そのラジオドラマをおそらくOAでしか聞いてないので、8年半ぶりに聞いた。
当時の私は、プロデューサーとディレクターの半々という感じでラジオドラマ制作に取り組んだ。このドラマは山田食品産業株式会社(山田うどん)のご協賛があってのもので、尽力した山田うどん担当の営業外勤は社内で表彰されていた。
そもそも「山田うどん×角田光代」の組み合わせのキーマンは北尾トロさんだ。多忙の小説家・角田光代さんに「山田うどんを題材に小説書いてくれませんか?」と持ちかけたトロさんは偉いし、山田うどんに1度、訪問してあの小説が書ける角田光代さんはあっぱれだと思う。
山田うどん小説の内容について少し紹介する。
小説のタイトルは「おまえじゃなきゃダメなんだ!」。
鈴木砂羽さん演じた「わたし」は、新入社員時代の20代前半にバブルを経験した女性で、今頃は50代中盤から後半だろうか。
その「わたし」が、若い頃、デート中の食事場所として連れて行かれて、心底ガッカリし、自分をバカにされたように感じた「山田うどん」が、時を経て、うどんを啜りながら涙を流すようになるまでの変化を丁寧に描いている。
主人公「わたし」の気持ちの揺れ動きは、制作当時31歳のアラサー未婚独身の私にグサリと刺さった。刺さったが、一方でバブル景気真っ只中の“何もかもが浮足立っていた”という日本の空気とか、男性との付き合い方については別世界のように感じた。脚本の志岐奈津子さんはちょうどその世代だったということで「よくわかる」と言っていたのを思い出す。
ちなみに私は埼玉のお隣、群馬県で生まれ育ち、山田うどんは埼玉県民ほどではないが身近な存在だった。ロードサイドに立つ黄色と赤の案山子の看板を父が運転する車の後部座席、あるいは助手席から窓越しに何度も眺めた。当然、食べたこともある。味は普通である。うどんだなって思う味。
話を戻す。
当時私は、ラジオドラマ制作の経験もなく、本作が「わたし」の一人語りベースとなっていることもあり、朗読番組の収録に近いスタイルで行った。原作を脚本にしてくれた志岐奈津子さんに紛れながら(生意気にも)ベテランディレクターや鈴木砂羽さんに「もうちょっと〇〇〇な感じでもお願いします・・・」などと何テイクも録って頂いた。本当に身の程知らずで生意気な態度だったと思う。
また、作品のラジオドラマ化にあたり、角田光代さんご本人とやり取りさせて頂いたことも角田さんの小説の読者であった私には身に余る光栄だった。
8年半越しにラジオドラマを聞いて気付いたことがある。
鈴木砂羽さんの声はぜんぜん変わっていなかった。「私の母があのラジオドラマ好きで録音をよく聞いていたのよ」と昨日、スタジオ横の打合せスペースで、ありがたいエピソードを話してくれた声と「わたし」の声がリンクして泣きそうになる。
そうか、砂羽さんのお母様は、主人公「わたし」と娘である砂羽さんを重ねていたのかなぁ、、、などと、勝手なことを思いながらラジオドラマを最後まで聞いた。
偶然は重なるもので、砂羽さんとお話できた翌日。
12月9日(金)「アシタノカレッジ」に、えのきどいちろうさんと北尾トロさんがゲスト出演して、山田うどんスペシャルをやっていた。残念ながら「アシタノカレッジ」金曜担当の武田砂鉄さんは新型コロナでお休みだったのだが、これまた8年半の時を経て、えのきど&北尾コンビが2人そろってTBSラジオで山田うどんを語らう放送となっていた。
「アシタノカレッジ」には当時、ラジオへの提供を決断してくれた山田うどんの名物広報・江橋さんもいらっしゃっていて、私は控室でご挨拶することができた。
その放送の様子はTBSラジオ公式YouTubeチャンネルで聞けるので是非。
『アシタノカレッジ~山田うどんスペシャル~』
山田うどん本は現在、文庫版として販売中だ。
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重複するが、角田光代さんの山田うどん小説が掲載されている『みんなの山田うどん』も引き続き、河出書房から販売中。こっちは赤い表紙が目印だ。
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またいつか、ラジオドラマを作ってみたいと思った。
地上波でも、配信でも。
そういえば、山田うどんは久しく食べていない。
それこそ、えのきどさん、北尾さんを連れてラジオドラマの前枠後枠の収録にいったあの時以来食べていない。
2人を連れておじゃました品川区蒲田店は残念ながら閉店していた。
私は赤坂から一番近い山田うどんの場所を検索してみる。
町田店(?)かしら。ちょっと遠いかな。
追伸
TBSラジオを聴いている人はよく知っていると思うが、武田砂鉄さんは元編集者で、山田うどん本の編集も砂鉄さんが手掛けている。
みんなが「砂鉄さん」と呼ぶ中、えのきどさんも、北尾さんも「武田くん」と呼ぶ感じがとても好もしい。