死生観についての諸記録
死生観ーーー死と生に対する見方(ウィキペディアより)。
とてつもなく重大で底知れぬ漠然とした、かつ一生付き纏う一種の不安感のように思えるが、要はどう生きるかどう死ぬかである。
なんて重いテーマのように始めてしまったわけだけど、全然そんなことはない。
今回はそれぞれの死生観について、これまで私が見聞きしたものについて淡々と綴るだけの諸記録である。
祖母の場合
「考えたこともない。昔は生きるのに必死。今はね、昔できなかったことをめいいっぱいしてやろうと思って。昔は贅沢なんてできなかったから。死ぬ時のことなんてその時にならないと分からないよ。どうせみんな死んじゃうんだから。どうせ死ぬ時は神か仏に祈るのみよ」
それはそう。
だけどそれを口に出せるほど生きちゃいない。
いつかそう言えるようになるといいな。
お世話になってるバーのマスターの場合
「この前ね、友人が亡くなったの。俺と同い年でね。早いよね。突然だったし、何か持病があったわけでもない。だからほんと突然でね。『ああ、人ってこんなに簡単にあっさり居なくなるもんなんだ』って。起こった出来事や出会った人すべてに感謝なんて持てないけどさ、だけど自分が好きだなと思う人には感謝を口に出そうって思ったよ。そうすれば、死ぬ間際に言い足りなかったと思うことはあれど、『言っとけばよかった』にはならないでしょ」
◯◯しとけばよかった。
それはきっと多くの人が考える。
それをいくつ減らしていけるか。
できること、伝えることを、今。
ゲストハウスで出会ったカナダのバックパッカーの場合
「自分がどうして旅を続けてるかなんて分かんないよ。実を言うと旅が好きということもないんだ。ただ、死なないためにご飯を食べる、睡眠をとる、働く、とりあえず生きる。僕の場合、そこで『そもそも何のための命なんだろう』って考えちゃったんだ。命の使い道がわからないから常に違う土地で生き続けようと思った。いつか見つかればいいよね」
いつ終わりが訪れるかわからないタイムリミットが命だと思う。予兆があるか突然かなんて誰もわからない。ただ、その瞬間にできるだけ安らかでありたい。
20年以上の付き合いがある親友の場合
「どんぶりにはまってんのよ。特に漬け丼。夜作るっしょ?そしたら朝は最高の一杯ができるってわけ。おすすめはサーモンとアボカドを(割愛
とにかくね、朝ぼんやりして『まだ寝てたいな〜』とか思うわけじゃん。あったかいお布団の中でさ。そしたら昨晩漬け込んでたブツを思い出す。そうすると急激にお腹空いてきて、もうそのどんぶりのことしか考えられなくなる。『はよ食べたい』ってさ。生きることの意味って案外そんなもんだったりするのよ」
サーモンアボカ丼、さっそく作ってみた。夜中電気のついてないキッチンで冷蔵庫開いてちょっと食べた。朝にはこれがさらに美味しくなってると思うと楽しみでぐっすり眠れた。
親友の語った「案外そんなもん」が少しわかった気になった。
医者の友人の場合
「自分にとって死というものは身近にあるわけ。一日に何回だって遭遇することもある。仕方ないよね、そういう道を選んだのは自分なんだから。だから、自分の生死についてあれこれ考えることってないな。患者さんのお話になっちゃうんだけど、ある患者さんがね、もう余命もいくばくもない方で、「家で死にたい」って言うわけだ。もちろんご家族は反対したけどね。結局当初の希望通り自宅で亡くなったんだけど、その人が病院から出る前に『先生のおかげで家で死ねる』って笑ってくれたんだ」
死に場所を選べるのは人生の最期にして最も幸福なことなのかもしれない。
死にゆく人の最後の願い。
もし自分がその立場になった時、私は何か願うのだろうか(現状、私はそりゃもう様々な方に迷惑かけて生きると思ってる。死ぬ瞬間や死んだ後ですら迷惑をかけるやつではいたくないのでそういった希望はない)
ガンジス川のほとりで出会った彼女の場合
「ガンジス川はね、生活用水も排泄もお風呂も沐浴も葬式もすべてがここで完結する。たとえば服を着るのと同じくらいに、死というものは当たり前のもの。身近なものなんだよ」
生と死は常に隣り合わせ。わかってはいるけどなかなかに自覚はできない。
それを自覚して生きてるのが彼女なんだと思った。
静物を描き続ける友人の場合
「絵を描くことは=仕事でもあるんだけど、私の場合それは生きてる証にもなる。あ、別に自分は死んでも描いた絵は残り続けるから〜とかそう言う意味じゃないよ。『まだ腕は動く』『まだ指先の感覚はある』。そうやって、ちゃんと『動く』ことを確かめてるだけ。私の作品は別に捨てても燃やしてもいいから」
生きてることを確かめるために日々脳を働かせ、静物を見つめ、手を動かし続ける友人。そんな話を聞いちゃったら、その作品が友人そのものみたいに思えちゃうじゃないか。
以上。
諸記録。
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