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ひとりのみのススメ、そして非日常へ〜居酒屋で出会ったおじさん達とキャバクラに行った話〜

ひとり呑みが好きだ。

もちろん誰かと呑んだりも好きだ。

しかしひとり呑みにはひとり呑みの楽しみがある。

私がひとり呑みをするお店はだいたいカウンターのみだったりテーブル席が2〜3席のみだったりと、とにかくひとり呑みに適しているお店に行く。
誰にも気兼ねなく好きなものを好きなだけ食べて飲んで、たまに店員さんとおしゃべりしたり。

同じくふらりと呑みに来たお客さんとその場だけの会話で盛り上がったりお互いのおすすめを教え合ったりするのもひとり呑みの醍醐味と言える。
意気投合したらそのまま一緒に二軒目に行ったりといったこともしばしば。

だけど別れる時はみんな決まって

「またお店で」

と言って去っていくのだ。

連絡先も知らない。次に会うのはどこか分からない(と言っても狭い街なのでたまたまばったりなんてことも少なくはないが)。

みんな今宵のホームを求めて彷徨い、酒で高揚した気分と共に、ひとときの交流を楽しむのだ。

私は常々そういった第三者が必要だと思っている。私のことを全く知らない第三者が。
そういう第三者にしか話せないことだってある。
そう思っている。

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私の住む地域はとにかく呑み屋が多い。
街一番の繁華街には、チェーン店は少なく個人店が所狭しとひしめき合っている。
その中で自分のお気に入りを見つけ、今宵のホームとする。ホームは何軒あってもいい。その日の気分であちこちできるから。

さて、その繁華街はいわゆる「夜のお店」と言われるお店がぎゅっと詰め込まれたような賑やかな街だ。
居酒屋、スナック、バー、キャバクラ、ホストクラブ、ソープなどの風俗店。
近くにはドン・キホーテや普通のスーパーなどもあるから街を歩く人々の年齢層は幅広い。

私は昼はOL、夜は週3〜4ほどスナックバーでアルバイトをしている。
副業OK。隠してもいない。むしろ会社の人が遊びに来たりする。会社の飲み会で利用したりもしてくれる。ありがとうございます。社内でのあだ名は「ママ」になりました。

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話が逸れた。

今から記していくのは、いつものようにひとり呑みをしていた時に出会った二人のおじさんとのちょっとした冒険譚である。

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その日も私はふらりと行きつけの居酒屋の暖簾をくぐった。

カウンターのみの奥行きのある明るい店内。オーナーがひとり仕込みを行っていた。
オーナーの名前は「さっしー」。常にキャップをかぶっているのがトレードマーク。

さ「もえちゃんいらっしゃーい!」

さっしーは私を「もえちゃん」と呼ぶ。今の会社に転職するまでキャバクラに勤めていたのでその時の源氏名だ。さっしーのお店にはその時から通っていたから「もえちゃん」と呼ばれ続けている。

カウンターに着いたらまずは黒板に書かれた「本日のおすすめ」を確認する。
さっしーのお店は創作居酒屋。その時の旬などでメニューが変わる。特におすすめが書かれる黒板は、ほとんど日替わりと言っていいほど内容が変化する。

本日の刺身盛りを注文したらグラスまでキンキンに冷えている生ビールの登場。ビールは喉越しがなどというのはまだよく分からないが、お仕事終わりの蒸し暑い街中を歩いてたどり着いたビールはどうしてこうもおいしいのか。
ビールは冷えているうちがうまいというのは分かるので刺身をつまみつつ次のドリンクへ。

私が飲み干したのを見届けたさっしーはキープしていた焼酎の瓶とソーダ割セット、梅干しを出してくれた。この飲み方が世界一好きだ。
レモンを入れるのもおすすめ。ぜひやってみてほしい。

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しばらくすると、お客さんが二人やってきた。
仕事帰りだろうか、シャツとパンツのおじさんが二人。おじさん達はそれぞれ注文を頼むと呑み始めた。

やがて店内にはポツポツとお客さんが増え始め、席を奥へと詰めた。
それに伴って他のお客さんたちも席をずらす。先ほどよりも距離の近くなったおじさんたちの会話がところどころ聞こえる。内容が把握できるほどじゃないけどどうやらお仕事の話をしているみたい。

ふと、おじさんの一人に声をかけられた(ボーダーシャツを着てたから彼は「ボーダーさん」と呼ぶことにする)。

ボーダーさん「お菓子の工場を作るんだけど、どうすればおもしろい工場になると思う?」

目が点になるとはこのことだと思う。だって唐突すぎる。ていうか私に聞いてる?聞いてるわ。めっちゃ目が合った。

私「おもしろい工場とは・・・えっと、何を対象としたおもしろい工場のことでしょうか・・・」

ボーダーさん「おもしろい工場はおもしろい工場だよ」

従業員の方に向けたおもしろいなのかそうでないのかを尋ねたつもりだったがどうやらボーダーさんはそうではないらしい。

「僕たちみたいなおじさんばっかりが集まって話すとどうしても内容に偏りが出ちゃうからね。若い人の意見を聞きたいんだ」

ボーダーさんの隣にいたもう一人のおじさん(ポニーテールをしていたので「ポニテさん」にする)がニコニコと笑って言った。

ふむ、お菓子工場か。そもそも何のお菓子でどこに造るのかすら分からない。あんまりずけずけ聞くのもどうかと思うし。

ここで私の安直な脳みそは、お菓子工場→チョコレート工場→チャーリーとチョコレート工場と導き出した(なぜ)。

私「常に工場見学できたらいいですね」

ポニテさん「工場見学?」

私「工場見学ツアーなんていうのもありますし、普段自分たちが食べているものがどうやって作られているかなんて考えることもないので、考えるいい機会にもなると思います。小学生とか招いてもいいかもですね。楽しみながら学べる。見学の後に出来立てのお菓子を食べられるようにしてもいいかも」

なんつって。
いやでも楽しいと思うんだな。私なら行ってみたい。工場の見学ってなんだかワクワクしませんか?

とはいえここは呑みの場。
おじさん達も話の種としてこちらに振ってきたにすぎないだろうし。
そんな真剣には考えないだろう。

ポニテさん「工場見学か・・・。普段仕事している現場に常に見学者がいることで従業員の方達のやる気にも繋がるかもしれない」

ボーダーさん「工場見学に来てくれた人たちからも意見をもらえば製品開発にも繋がりますね」

いやめっちゃ真剣やん。お酒呑む手が止まっていらっしゃる。
さっしーニヤニヤしてるやん。

ポニテさん「やっぱりいろんな人に意見が聞けるのはいいね」

ボーダーさん「社内だとあんまり意見出なかったもんね」

もしかして、いやもしかしなくてもこの二人、役員レベルかそれ以上かなんじゃないだろうか。いや多分そう。
ひとり呑みをしていると結構そういう人に出会う。会社や家ではない、考え事ができる場所って大事だもんな。

気づくとおじさん達は再びお仕事の話に戻っていた。

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その後おじさんたちと私はそれぞれで楽しみ始めたのでどうしてこのような流れになったのかあまり覚えていない。断じてベロベロに酔っていた訳ではない。ただ半年以上前(下手したら一年前かも)の話なのでこのへんの記憶があやふやなだけである。

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どうやらおじさんたちはキャバクラへ行こうという話でまとまったらしい。お決まりの流れだ。楽しんでらっしゃい。

そう思って相変わらずちびりちびりと焼酎を口に運んでいた私に、不意に声がかかった。

「姉ちゃんも行こうよ」

私か?私に言ってるのか?・・・私に言ってるわ。ばっちり目が合いましたね(2回目)

私「いや私いたら楽しめないんじゃないですか!?」

ボーダーさん「違うの。さっきの話の続きをしたいのよ。姉ちゃんの意見の続きも聞きたいし」

これはびっくり。なんと工場建設の話は今のいままで継続していたのである。

私「それはいいんですけど・・・何もキャバクラじゃなくても・・・それにそこに支払うお金もありませんし・・・」

ボーダーさん「お金はいらないよ。それにキャバクラに行くのはちゃんとした理由があるからね」

ちゃんとした理由とは・・・?という疑問を抱えつつ私はおじさんたちと店を出た。なぜ了承したのか。そう、記憶があやふやなのである。すみません本当に覚えてないです。

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来てしまった。

薄暗い店内の中央にはネオン紫の・・・これは木なのかな?その木を取り囲むようにしてボックス席が並んでいる。

席に着きしばらくするとお姉さんたちがやってきた。三人。1on1形式なのね。おじさんたちとは顔見知りの様子で楽しそうに雑談を始めた。

とはいえおじさん二人に謎の女一人。この奇妙な組み合わせに案の定お姉さんが切り込んできた(ボーダーさんのご指名かな?紫のドレスが似合っていたので紫さんとする)。

紫さん「今日はどういう組み合わせ?」

ボーダーさん「さっき会ったんだよ」

紫さん「さっきって?」

私「ほんとそのままの意味なんですけど・・・」

事情を説明するとお姉さんたちはオーバー気味にえええ〜!!と声を揃えた。偶然出会って意気投合してじゃあ二軒目行こかなんてことはしょっちゅうあるわけではないがないこともないのが我が地元。誰一人「そんなことある?」という疑問は抱かず、「びっくりはしたけどまあたまにあるよな」くらいのえええ〜!!であった。

居酒屋で話された内容をお姉さんたちにおもしろおかしく・・・ではなく、かなりまじめにお話するボーダーさん。

説明を終えた我々のボックス席は___それはそれは異様な空気を醸し出していた。

いやいやお姉さん方、そこはほら「すごい〜!」とか「応援してる〜!」とかじゃないの?

・・・じゃないらしい。キャバクラとは思えぬほどしんと静まり返った我々のボックス席。

ふと紫さんが口を開いた。ぶっちゃけ全然内容は覚えていないけど法律関係のお話をした。いやほんと内容が難しいとかじゃなくて、キャバクラという場で綺麗に着飾ったお姉さんに囲まれながらほろ酔いのおじさんたちがする話じゃないというギャップが私を、私だけを現実とのギャップに置いてけぼりにしたのだ。

いやなんて??なんて聞き返す雰囲気じゃない。紫さんが話したのは、大まかに言えば工場見学を行う際の宅建がどうのこうの手続きがどうのこうの。

分からん。

え、ボーダーさんたちうなづいてる。何これ。

次に口を開いたのはポニテさんご指名のキキさん(仮名)。

キキさん「従業員の立場からすればどうのこうの」

この人も真面目に答えていらっしゃる。言っていることは分かるのだが如何せん現実とのギャップに一人ついていけない。ポンコツと化した私は、ひたすらに「え〜すごい〜」「何それ〜」と、いやお前は指名の取れないキャバ嬢かと突っ込まれてもおかしくない曖昧な返事を繰り返すのみとなってしまった。


約1時間のセッションを終え、我々は再びさっしーにお店へと戻るべく提灯のぶら下がる飲み屋街をテクテクと歩いていた。

ポニテさん「あの子らはね、お昼のお仕事でああいう専門的なことをやってるんだよ」

ボーダーさん「僕らは専門的な知識はないからね。たまに専門家からのアドバイスを聞きに行くんだ」

後ほど聞いた話、紫さんは行政書士の資格を取得しておりそれを活かしたお仕事をしているらしい。キキさんは製造業に従事しているらしく、製造に携わる内部の人間としての意見を出してくれるらしい。

キャバクラ内では「お昼も働いているんです」と話していた二人(キャバクラでは周囲に人もいたので深くは聞いていなかった)。なぜ夜もお仕事をしているのかと聞くと、「人と話したいから」らしい。お二人が働いている会社では、女性は事務や内部のお仕事しか任せてもらえないらしく、元々人と接することが大好きで人と携わることを生業としたかった二人は思い切ってキャバクラという業界に飛び込んだらしい(もう10年くらい続けているとのことだ)。

そしてお偉いさんという立場から、常に社員さんに気を使われるボーダーさんとポニテさんは、社内で意見を出してもらおうにもみんなに遠慮されてなかなか本音を聞き出せないという。社長は孤独だとよく聞くからそれと同じか。

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その後さっしーのお店で焼酎キープを入れたポニテさんの焼酎瓶に、ポニテさんからのリクエストにお応えしてはせを直筆サインを書いた。なんだそりゃ。

(ちなみにしばらく経ってからさっしーのお店を訪れた私は、ボトルキープが並ぶ棚に私のではない、しかし私直筆のサインが書かれたボトルを見つける。あんなこと書いた覚えはないのだがどう見ても私の字なのだ。あれは一体・・・?と思ったことを記しておく。存外私も酔っ払っていたということだ)

今宵もまだまだ夜は続く。おじさんたちはきっとこの後もなじみの店に顔を出し、お菓子工場の話をするのだろう。




何が起こるか分からない人生。

変わらない日常に飽き飽きしている方、ぜひひとり呑みをおすすめする。

大なり小なりの非日常が味わえることを約束する。

(ハメは外しちゃダメだよ)

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実は最近さっしーのお店でボーダーさんに再会した。











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