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かわいい嘘、かわいくない嘘



「は?あんたに関係なくない?」

 ジャージ姿の彼女に出かける理由を聞いてみたが、教えてもらえなかった。彼女はどうやら他の男と会っているらしい。そんな彼女の一面も、俺は大好きなんだけれど。
 俺はこうした冷ややかな対応をされたくて、いつも彼女に質問をしてしまう。先日は、知らない男と彼女が2人そろって近所コンビニから出てくるのを目撃した。家に帰ってから、男が誰なのか彼女に聞いてみたが、覚えていない、とはぐらかさられてしまった。その割には随分と親しげだった気がしたが、深掘りした挙句に殴られるのはさすがに勘弁したいので、思うだけに止めた。
 彼女は嘘をつくのが下手だ。そんな少し抜けているところも、可愛くて愛しくてたまらない。ああ、彼女がクーラーボックスの中にいるのを想像しただけで感情が昂ってくる。俺に向ける彼女の顔が侮蔑から恐怖に変わるのを見るために、この3年間準備してきた。告白し、同棲に漕ぎ着け、彼女にとって都合のいい弱い人間になるために、一生懸命尽くしてきた。楽しい日々だったな。今日の夜は冷えるらしい。決行するに相応しいだろう。なんせ初めてじゃあないのだから、手際も格段によくなっている。あ、そうだ、彼女が帰ってくるまでに、氷を準備しなければ。

 俺がスーパーから帰宅してすぐに、鍵を回す音がした。チェーンロックを外すために玄関へと向かう。念のためドアの覗き穴を確認すると、夕日に輝く美しい金髪が見えた。彼女に違いない。俺は嬉々としてチェーンを外し、扉を開いた。

 パトカーの中で、彼女が俺にしか聞こえない小さな声で言った。
「だましてごめんね」
 彼女の嘘に、俺は初めて嫌悪感を抱いた。



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