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あかね噺-第125席・”引き算”の芸-感想
「魔男のイチ」連載開始。「さいくるびより」連載終了。
「魔男のイチ」は、設定の面白さと絵の巧さが光る新連載で、今後に期待したいです。
「さいくるびより」は17話で連載終了になりました。ちょっと不思議な日常系マンガとして面白く、最後まで綺麗にまとまった作品として良かったけど、尖ったところがないマンガで読者に刺さらなかった印象です。
ただ、尖ってないところが「さいくるびより」の良いところで、肩肘張って読者に押し付け無いゆるさが魅力でもありました。
ただ、こういうゆるい日常マンガってジャンプ以外には沢山あって、それらと比べてず抜けた部分が無かったと思います。
特に、キャラクターの造形的魅力や、いろんな人物を自分の絵柄で表現するという部分が弱く、絵が下手というわけじゃないんだけど、読者が見て魅力に感じるコマが足りてなかったと思います。
そういう漫画じゃなかったんだろうけど、話の縦軸が弱いので、どういう漫画なのか読者にわかりにくい部分はあったように思います。
わかりやすい目標がある中のゆるい日常を描いていれば、また違った反応だったような気もしました。
とはいえ、小林おむすけ先生は、自分の作風というものがある作家なので、今後に期待できる連載だったと思います。
◆あらすじ
週刊少年ジャンプ 2024年9月9日発売 41号 センターカラー
志ぐまの「死神」が終了し、あかねは改めて師匠の凄さに敬服する。
◆感想
良い「死神」でしたね。前回の自分の感想の浅さに恥ずかしくなるぐらい、凄い落語でした。
今回は、引き算の芸・死神のサゲ、について書いていきます。
”引き算”の芸
前回に示された志ぐまの落語の本質の”引き算”のディティールを深めてきたのが素直に上手いと思いました。
観客の集中力を高めることで、客をゾーンに入れてしまうという技として、分かりやすく”引き算”の芸の解像度を上げてきました。
だから、警報機が鳴っても落語に過集中してしまって聞こえなかった理由だったんだなと納得しました。
”引き算”が志ぐまの強みなのは、落語の強みの一つなので、これを強みにするのは理解できるのですが、それを一般読者に分かりやすく凄さを伝えるのはかなりのハードルが高い事なのに、ここまで鮮やかに説明しきるのは凄すぎます。
さらに”ゾーン”という言葉を使うのが、ジャンプ読者には分かりやすくて上手いと思いました。
授業中にうるさくて生徒が授業に集中してくれない時に、大きな声で注意するよりも、あえて小さい声で授業をすると、生徒が聞こうとして静かに集中するって話を聞いたことがあったので、この”引き算”が観客の集中を呼ぶというのに説得力を感じました。
誰でも何かにのめり込むあまり、周りの声が聞こえなくなるほど集中する経験はあると思うので、観客がゾーンに入るというのも、表現として素晴らしかったです。
死神のサゲ
こちらは予想通りの一番プレーンに近い”しぐさ落ち”でした。
以前にも書いたとおりに「死神」のサゲは、アレンジしても良いという風潮が強いので、今となっては”しぐさ落ち”で終わるほうが珍しく感じるのですが、私は命が消えた瞬間に”無”になってしまうリアルさが好きなので、この”しぐさ落ち”が見たかったので大満足でした。
普通の落語なら、緞帳が降りるときには「ありがとうございます」と礼をするんだけど(それも良い)死んだまま緞帳が降りるのも、「死神」ならではの格好良さがあります。
ちなみに阿良川のモデルになってる立川流・立川談志の「死神」は火を着けるのに成功した後に死神がろうそくに息を吹きかけて殺すというサゲになってます。
談志が、この形にしたのは、死神との約束を破った男に対して死神はムカついただろうから、火を消さしてやりたかったからだそうです。
この形だと、話の最後が死神になっていて、息を吹きかけた談志がニヤリと笑って終わるので、しぐさ落ちじゃなく、普通に終わる形になります。
「死神」はいろんな掘り方があるので、志ぐま以外の「死神」も作中で見せてほしいと思います。
今回は、次へとつながるラストでは無かったので、大きな区切りといって良い話だったのかもしれません。
次回以降がどうなるのか、楽しみにしたいと思います。でわでわ。