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ポケット?



まだ少し、
春の息吹にしては身も心も震わせた明朝。
なにも入っていないポケットの中で、悴んだ手がなにかを握りしめた気がした

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20歳になり、成人式の為に貯めたお金で普段着でも使えそうなセットアップを購入した。
タートルネックのニットを中に忍ばせ、ネックレスを付けた装いは今思うと木屋町沿いをふらつくキャッチかなんかではないだろうか。当時はあれがかっこいいと思っていたのだから、若さとは怖いものだ。

成人式の思い出なんてものは、今思えばあまり良いものでもなんでもない。懐かしい友達に会うわけでもなく、顔見知り程度の男女とぎこちない顔をカメラに収める。
あの写真は今どこにあるのだろう。水平線を描いたような前髪で決め込む当時はあれがかわいいと思っていたのだから、若さとは怖いものだ。

数年が経った今、
例のセットアップを着てみることにしたが、全く似合わない。そもそもロング丈のジャケットが身の丈に合っていない。バランスを考えろよ僕の馬鹿たれ…
しかしスラックスは全くの問題がなかった。数年経っていても変わらないウエスト。寧ろ今の方が痩せているのではなかろうか。蛇足ながら最近の健康診断でウエスト周りが減っていた。因みに他の結果もオールグリーン問題無し。歳を重ねれば太りやすいというが、寧ろ僕は筋肉を付けるのに忙しいのでこれまたモーマンタイなのである。


紫がかった黒に茶色のステッチ。
僕はこのスラックスが好きだ。

昨今偉い永く、ゆとりを持ったシルエットが主流ではあるがこの細身のスキニースラックスは一時期のサンローラン、エディスリマンが頭をよぎる。勿論、このセットアップはサンローランではないので憧れ止まりである。
今でもこのスタイルが僕は大好きだ。身長に見合わない僕にはきっと永遠の憧れになるのだろう。

しかし所々ステッチが外れて縫製を余儀なくしていた。簡単な始末だったので使い慣れたミシンではなく、手縫いで縫製し直すことにした。

好きだったスラックスを治してあげる。
これが凄く、心に残ったのだ。

昔懐かしいモノを自分の手で治して、また愛してあげる。なんとも言えない気持ちである。モノを大事にする方かどうかはわからないが、こうやってまた足を通させてくれる喜びは何にも変え難い。

洋服は自分にとっては鎧であり、武装なのだ。

強いとも言い難い、自信があるとも言い難い…
そんな僕は大好きな洋服を身に纏い、身や心が強くなった気がして少しばかり、歩幅が広がる。

その足でまた、歩を進める。


_あの時ポケットに入っていたのは、
ほんの少しの自信だったのかもしれない。


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