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へろへろ…ニューヨークひとり旅 観光編②

仮眠をとって元気になった私は、いよいよこの旅の第一目的のミュージカルを見に行くことにした。ホステルを出発しようとロビーに行くと、ある女の子と目があった。

私「あ!さっきの…!」

女の子「ハロー!」

実は先ほどホステルに着いたとき、その女の子がエレベーターの乗り方を教えてくれたのだ。その子もちょうど街に遊びに行くところだったらしく、なんとなく会話が始まった。その子は台湾人の女の子で(仮にNちゃんと呼ぶ)、仕事の合間に観光に来たらしい。台湾からニューヨーク。なかなかの距離だな!と思ったが、飛行機を使えば私がバスに乗っていた時間とそう変わらないかもしれない。

Nちゃん「地下鉄の駅まで一緒に行こうよ」

私「ありがとう!まだそっちの駅使ったことないから場所わからなかったんだ」
(私の泊まったホステルは二つの駅の間に位置する)

外に出るとまだ小雨が降っていたが、Nちゃんと話しながら歩いたのでとても楽しかった。前の記事にも書いたが私はフリーSIMを用意していなかったので、インターネットやマップのアプリが使えない。Nちゃんが道を教えてくれてすごくありがたかった。2人で色々喋りながら電車に揺られる。ニューヨークで、さっき出会ったばかりの台湾人の女の子と英語を使って楽しく会話している…なんだか嘘みたいな話である。カナダに来るまでの自分だったらとても信じられない。
Nちゃんの目的地はタイムズスクエア駅だったが、私のお目当てのシアターは一つ手前だったので、そこで別れた。

ミュージカルが始まる2時間前に最寄駅に到着した。「2時間前!?」と驚かれるかもしれないが、なんせ私は画像フォルダに保存してある地図のスクショしかない。迷っては大変だ。先にシアターの場所を確かめて、安心したかった。日本にいる時から私は時間に神経質で、待ち合わせに遅れたことはない。大切な用事の場合は、30分〜1時間前には着くように出発する。初めての異国の地でひとり旅、となったらそこにさらに1時間プラスである。駅の外に出ると、派手で大きな看板が目に飛び込んできた。光っている。セントラルパーク周辺とは景色が全然違う。ダウンタウンだ。とりあえずシアターを探そうと一番近くの角を曲がると…


The Book Of Mormon!!!!!!!

いきなりシアターが見つかった。とてもわかりやすかった。夢にまで見た「The Book Of Mormon」の看板である!
開演まで2時間弱…まるまる余ってしまった。30分前に入場が始まるとして、それでも1時間半くらいある。小雨は鬱陶しかったが、せっかくなのでタイムズスクエアまで歩いてみることにした。


近くに別の劇場もあった


道はわからなかったが、明らかに派手で明るい道があったので、そちらに進むことにした。あんだけ光ってるんだからタイムズスクエアくらいあるだろ…と思った。私は方向音痴ですぐ道に迷うくせに、歩くのが好きで、とりあえず、目についた道を進んでしまう習性である。

あっちの方に……きっと何かある!


人通りが多く、なかなか早く歩けなかった。すごい人数である。驚いたのは、多くの人たちが信号を無視しまくっていることである。歩行者信号が赤で、車が通ろうとしているのに、平気で横断歩道を歩く。(Jay Walkというらしい)車も慣れているようで、普通に停車して待っている。クラクションも鳴らさない。これが…ニューヨーカーってこと・・・!?と圧倒された。私は度胸がないのと、前職の影響もあって赤信号を渡れない性格なので1人で信号が変わるのを待っていた。赤信号はみんなで渡っても赤信号なので…(?)


雨に濡れた道路が反射して綺麗だった
なんかもう…派手!!!
ウィキッドだ!一回見てみたい
お気に入りの写真だ



世界がピンクになった
ゴミ箱にミュージカルの広告が!
看板がでかい
映像がずっと流れていた



実はバスに乗った前日から何も食べていないのだが、全然お腹が減らなくて、体がちょっとおかしくなっている気もした。明日の朝は無理矢理にでも持ってきたパンを食べた方がいいだろう…と考えつつも、頭の大部分は圧倒的な都会的景色とミュージカルに占められていた。


写真を撮ったりぐるぐる歩き回ったりしているうちに、時間もいい感じに経った。いよいよミュージカルである。ドキドキワクワクが止まらなくて、クリスマスのプレゼントを待つ子どものような心境であった。これから、何か、素晴らしいことが、きっと起こる。そんなキラキラした純粋な「楽しみ!!!」の気持ちであった。大人になってもそういう気持ちになれるというのは幸せなことだと思う。



看板!
ベスト・ミュージカルとも歌われる名ミュージカルである(言い過ぎか?)
列に並んでいるとき、ワクワクしすぎてこんなところまで写真を撮った
この「HELLO」は一番最初の曲、オープニングである。ミュージカルを見る前に何度聴いたことか。今現在もめっちゃ聴いている。名曲だ。
パンフレットを受け取る
シアターの内装が素敵である


私は一番前の真ん中の座席を予約したので、迷わずに自分の席に向かう。こんな…こんなに近くで見られるのか…と既に感動で泣きそうだった。オーケストラの指揮者の人が既に指揮台に立っていて、振り向いた時に目が合った。

指揮者さん「ハロー!いい席をとったね!」

私「イエス・・・!これが見たくて日本から来ました;;」

指揮者さん「ワオ!クール!!!これは素晴らしいミュージカルだよ。思い切り楽しんでね!」

私「はいいいいいいい」


ニューヨークに来るまで色々、本当に色々あったけど、この瞬間に全てが報われた。ありがとうございました。終了。

といった気分で呆けていると、後ろから声がかかる。

???「ハイ!あなた背が高くないのね。私ラッキーだわ!!!」

私「こっこんにちは!」

上品な雰囲気の年配のご婦人が後ろの席に座っていた。私の座高が低いので舞台が遮られずによく見えることを喜んでいたらしかった。

ご婦人「あなたとてもいい席ね!」

私「そうなんです!このミュージカルが見たくてニューヨークに来たのでもう嬉しくて…!」

ご婦人「ミュージカルのためにわざわざ!?すごいわね!私もミュージカルは大好きよ。この演目は初めてだけど…ちょっとパンフレットの説明を読んでみましょうか」

ご婦人はパンフレットを音読し始めた。サウスパークの制作者たちについての話もあった。

私「私、サウスパークが大好きで、それでこのミュージカルを知ったんです。」

ご婦人「コメディが好きなのね。…ところで、あなたはモルモン教?」

私「えっ違います」

ご婦人「私もよ(笑)よかった。あなたが信者さんだったら私失礼なこと言ってないか心配だったのよ。」


さてこのミュージカル「The Book Of Mormon」は日本語訳すると「モルモンの書」。モルモン教の宣教師たちの話である。サウスパークの制作者であるトレイ・パーカーとマット・ストーン、そして映画「アナと雪の女王」の音楽の作曲で知られるロバート・ロペスによって作られたミュージカルだ。初公演は2011年で比較的新しいミュージカルだが、その人気は凄まじく、最も売れたミュージカルの一つとも言われる。私の語学学校の先生は2011年にブロードウェイでこのミュージカルを見に行ったのだが、あまりの人気で連日チケットが完売。寒空の下に10時間以上並んで、やっと一番後ろの立ち見席の当日券チケットが買えたという話を聞いた。ちなみにオリジナルキャストのひとりは「アナと雪の女王」のオラフの声を担当している人らしい。

ストーリーのあらすじは…
モルモン教の若き2人の宣教師が2年間のミッション(布教活動)としてアフリカのウガンダに派遣される。しかし、ユガンダの人々は飢饉とエイズと将軍(いわゆるウォーロード)による支配に苦しんでおり、とてもじゃないが宗教どころではない。2人はどうにかしてモルモン教を布教しようと奮闘する…といった感じなのだが、とにかくそこらじゅうにギャグが散りばめられていて、爆笑不可避だ。私の横の席の人は笑いすぎて涙を流していた。そして、音楽が、歌が、本当に本当に良い。私はミュージカルを見る前からSpotifyで毎日のように音楽を聴いていたので、知っている曲が流れるたびに感動した。

「モルモン教」というと、響きだけでなんだか胡散臭いカルトのイメージをずっと持っていたのだが、英語の勉強に、と見出したサウスパークのアニメの中に度々登場するので、どんな宗教なのか興味を持っていた。トレイ・パーカーとマット・ストーンが育った場所がまさにサウスパークの舞台であるコロラド州であり、コロラド州はモルモン教の聖地であるユタ州と隣り合っている。インタビューによると、2人は子どものころからモルモン教の信者たち(クラスメイトにもいた)と関わることが多かったらしい。

このミュージカルのストーリーを一見すると、モルモン教をおちょくってるのか!?(宗教の話ってデリケートじゃないのかな!?)とびっくりするが、ストーリーが進むにつれて、「信仰」とは何なのか、観客も一緒に考えていけるようになっている。

サウスパークの中でも、モルモン教の信者は、「明るく純粋で親切でフレンドリーで社交的、家族仲がとても良い(しかしどこかアホっぽく見える)」人物として描かれている(いじられている)。サウスパークの世界では、天国に行けるのはモルモン教だけで、その人たちはみんなで天国で仲良く、ちょっとアホっぽく暮らしている。

地獄に落ちた人たち「俺は○○教を信仰してたんだぞ!なんで地獄行き!?」

地獄の役員「恐れ入りますが間違った宗教を信仰していたようで」

人「一体どれが正解だったんだ!?」

役員「モルモン教です。」

人「クッソ!モルモン教が正解だったのかよ〜!」

という笑える場面もある。

別の話では、主人公の男の子がモルモン教の男の子に対して、「モルモン教の人たちが信じてる話はおかしいぞ!」と理論的に(?)指摘するのだが、男の子は、「モルモン教は確かにおかしなことを言ってるかもしれない、でも僕はモルモン教を信じる僕の家族に満足しているし、愛も何も信じない人たちよりは、信仰のある人たちの方が幸せだ。自分の意思でこの信仰を選ぶ」(意訳)と宣言する。本当にサウスパークは面白い…

ちなみにサウスパークの中でカナダ人はガチの「アホ」として描かれている。国全体がミュージカル仕立てになっている。面白い。

余計な話が長くなったが、ミュージカルは本当に本当に最高であった。素晴らしかった。ニューヨークから帰国した後1週間は夢見心地だった。なんとしてもまた見に行きたいものである。もちろん最前席で。

観光編③に続く。


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