「アメとケ」#20230612(約550文字 )
夕刻。Y駅で列車が止まる。向かいの席に女の子が座る。
学校帰りのJC(中学生)と思われるその子は背負っていたリュックを手早く前に回してチャックを開き、一冊のノートを取り出した。
そのノートには若い少年のようにみえる絵が描かれていた。写実的ではなくアニメ風の。どこかで見たようなタッチ。
少女がページをめくると横書きで長めの文章のようなものが見えた。
私からは文字までは読みないが、女の子はずり落ちそうなメガネを指で押し上げながらを読み込んでいる様子。
やがて彼女はページをめくって絵の描かれたところに戻り、それをスマホで写真に撮っていく。どこかに投稿するだろうか……あまり上手いようには思えないが、おじさんが心配することではなかった。
そう、おじさんが心配すべきことはJCをガン見してる事実を他人に気付かれることだ。
急いで視線を下げる――少女の長いスカートからスポーツに向かない細い脚が生えている。向こう脛にはたくさんの薄い毛が、あちらこちらに走っていた。彼女がいつかその「ムダ」を削ぎ落とした時、ノートには何が描かれているのだろう。
……別にスネ毛をムダ毛と思わないかもしれないか。
そんなセクハラ的なことを考えているうちに、列車は出発した。
彼女の向こうの車窓の向こう、梅雨らしい雨空に帰宅途上の車内のスれた日常が映し出されてしまっていた。