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「主に育児を担うのは母親」の思い込みをどう外す? シェアダイン・井出有希さんと、家庭・企業・社会にできることを考える

ANDROSOPHY(アンドロソフィー)は、『男性の育児が、本当の意味で「当たり前」になる社会を。』を理念に掲げるベビー用品のブランドです。

目指す社会を実現する手段として、男女で兼用しやすいデザインのアイテムを開発してきました。2020年11月のブランドリリースと共に、ベビーキャリアなどの販売をはじめています。

今回から新しく、私たちと同じように「社会における子育てのあり方を変えたい」と活動をされている方々に、お話を伺いに行く企画をはじめます。

初回は出張シェフのサブスクリプションサービス『シェアダイン』を展開する、株式会社シェアダイン共同代表・井出有希さん。“育児におけるジェンダーギャップの解消”をテーマに、社会のあり方や自らの事業への想いなどをお聞きしました。

まだまだ育児における男女の差を感じることも少なくない世の中、固定観念にとらわれない「これからの時代にあった子育てのあり方」「人の生き方」を井出さんと一緒に考えてみたいと思います。

育児における男女の“思い込み”に気づく


山田:今日はよろしくお願いします。シェアダインは、栄養士・調理師などの資格を持った食の専門家が「出張シェフ」として作り置きをしに来てくれるサービスですよね。働く親御さんにとっても助かる事業だなと思うのですが、立ち上げにはご自身の育児経験などのきっかけがあるんでしょうか?

井出さん:そうですね。私自身、働きながら子どもの栄養バランスを考えて献立を作るのがすごく大変で、毎日苦労していた過去があります。7歳と5歳の子どもがいるのですが、第一子を出産したときは特に「料理は母親が作るもの!」と思い込んでいたんです。

仕事が忙しくても夕食は絶対作らなきゃいけない。一方で、お迎えも私が行かなきゃいけない。そのためには仕事をセーブすることも止む終えない......。「母親である自分が責任を持ってやるべき」という固定観念から抜け出せず、男性がうらやましいと思うこともあったんですよ。

きっと同じような経験をしている女性ってたくさんいるはずだと思い、プロの力を借りて、家庭を支えられる仕組みができないかと考えたんです。

山田:たしかに家事や子育てを親だけで担うのが難しいとき、他に頼れる人がいるのは心強いですね。

井出さん:特に料理については、家族で「楽しく食卓を囲む時間」そのものを増やしたい思いがあって。それまで勤めていた会社を辞めて、仲間と事業を立ち上げました。

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山田:私自身も、今4歳の娘が生まれた当時は「妻がやってくれるだろう」という考えがありました。妊娠・出産を経験する女性に比べて、父親としての意識が薄かったんです。

井出さん:でもそれは山田さんだけでなくて、育児に関してはまだ社会全体に、男女の意識の違いがありますよね。

山田:例えば会社の男性社員と育児について話すときも、よく「育児参加」って言うんです。ニュアンスが「女性を手伝う」なんですよね。率先して育児をやるというより、妻の育児をサポートする立場だと思っている男性は少なくないと思います。

井出さん:たしかに、母親から「育児を手伝う」という言葉は出ない気がします。

山田:男女のギャップでいうと、去年ぐらいにもうひとつ違和感に気づいたことがあって。妻が「これから美容院に行きたいんだけど、子どもの面倒をみてもらってもいい?」と伝えて出かけて行ったんです。でも、よく考えるとそういう場面が過去にも何度かあって、「あれ?これはおかしいぞ」と。

私は妻に相談しなくても自分の好きな時間に用事を済ませていたんですが、妻はそうじゃなかった。母親だけが家族に許可を取らないといけない状況をつくってしまうのは違うんじゃないかと、夫婦で話し合いました。

井出さん:そこにご自身で気づかれたのが素晴らしいですよ。一人で子育てを担うことは、時間的・体力的な負担ももちろんですが、心理的負荷も実は大きい。けれど自分を振り返っても、女性は「私がやらなきゃ!」と抱え込んでしまいがちなように思います。

女性も男性も、それぞれに持つ固定観念をまずは自覚しながら、お互いが育児をしやすい環境を整えていく必要がありますね。

社会や企業に残る「子育て=母親」の固定観念

山田:子育てへの男女の意識って、働き方のギャップにも現れるなと私は思うんですが、井出さんも感じることはありますか?

井出さん:ありますね。以前は特に、自分の子どもが熱を出したときは基本的に私が仕事を切り上げて、お迎えに行っていました。でも、身体が弱い子だと頻繁に呼び出されることもあります。その対応を母親だけが担うのは、ちょっと違うのかなと。

山田:帰宅してからのことも任せてしまうので、より女性への負担は大きくなっているかもしれないですね。

井出さん:会社に「すみません......」と言って早退するのが後ろめたくて、保育園からの電話にいつもドキドキしていました。

山田:個人の気づきの問題もありますが、もうひとつは社会や企業の中にも「緊急の子どものお迎えは女性が行くもの」という固定観念があるような気がします。「子どもが熱を出したので早退します!」と言う男性があまりいないのには、言いづらい雰囲気があるんじゃないかと考えているんですが。

井出さん:そうですね。母親が対応すればいいという発想は、企業としても残っているところがまだ多いように感じます。

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山田:だからなのか、企業が作る育児グッズも、母親がターゲットになっている場合がやっぱり多いんです。例えば「マザーズバッグ」の名前。仕様はただのトートバッグなどでも、「マザー」と名前がつくだけで“ママのためのバッグ”と連想されやすいんですよ。

そうなると、どうしてもデザインは可愛い柄物になりがちで。これはカバンに限らず、育児グッズ全般に言えます。

井出さん:たしかに育児グッズは、可愛い雰囲気のものが多いです。女性にとっては違和感のないデザインでも、実は抵抗を感じる男性は多いかもしれないですね。

山田:男性が育児をしたくなる育児グッズが、もっと世の中に必要だと思うんですよね。うちのベビーキャリアの開発も、原点はそこです。スーツのままお迎えに行っても恥ずかしくない、むしろかっこいいデザインにしたくて。

山田:もちろん名前も大切です。カテゴリとしてはマザーズバッグになるものも、ANDROSOPHYでは「ペアレンツバッグ」という名称にしています。

井出さん:企業が発信するメッセージも「育児は母親がするもの」という固定観念を生むことにつながっている可能性がある、ということですよね。その意味ではシェアダインも、ジェンダーを偏らせる言葉は極力使わないようにしているんです。

プレスリリースはもちろん、サービスのご案内メールひとつ取っても「ママ」「パパ」ではなく「保護者」などと表現する。役割をこちらが決めつけないよう、配慮しています。

家庭の負担を“外の力”で減らす

井出さん:企業で起きてほしいもうひとつの変化として、社員の福利厚生などを通じた子育て支援がもっと増えたらいいなと思います。育児がしやすい環境が整えば男女問わず働きやすくなりますよね。家事の負担を減らすサービスも、その中に含まれるのかなと。

山田:子育て支援につながる制度の導入は、ベンチャーでも増えてきています。女性のキャリアアップや出産後の社会復帰もしやすくなりますよね。

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井出さん:子育てを家庭の中だけでなく、企業や社会全体で補い合えるといいなって。出張料理を提供するシェアダインとしても、親だけが担いがちだった「家庭料理」を、もっとみんなで担い合えたらという想いがあるんです。

山田:台所仕事や料理って、ママだけ、パパだけがやるものではないですもんね。一方で、日本って「家庭の中に他人を入れること」に抵抗を感じる人も少なくないように思います。外の力を借りちゃいけない、家庭の中だけで解決しなきゃいけないと思う部分がなぜかあったりする。

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井出さん:そうですよね、私もすごく抵抗があったのでその気持ちはよくわかります。昔から「家のことは母親がやる」という風潮がある中で育ったので、抵抗があって当然だと考えてます。

山田:井出さん自身は、その抵抗感をどうやって取り払ったんですか?

井出さん:一度、“外の力”を借りる経験をしてみることで良さに気づけました。シェアダインを立ち上げるにあたって、我が家も初めて出張シェフに来てもらったんです。

いざ作っていただくと、どの料理も栄養バランスが良くてレパートリーも豊富で。何より子どもの食べっぷりが、いつもと全然ちがうんですよ(笑)。「専門家に作ってもらえるのってすごくいいじゃん!」と実感しましたね。

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山田:いつも仕事から帰ってきて夕飯作りに追われることを思うと、その時間を他のことに当てられるので、精神的な余裕もできそうですね。

井出さん:そうなんです。私も時間にゆとりができて、家族と楽しく食卓を囲めるようになりました。夫も「毎週来てもらいなよ!」と言うくらい(笑)。

外の力を借りることは、家族全員にとっていいことなんだ……と実感できたことで、子育てへの意識も変わりましたね。「ご飯は母親が絶対作らなきゃ!」という固定観念も、少しずつ薄くなっていったかなと思います。

他者を想像しながら、「日常」を大事にできるサービスへ

井出さん:でも、他の人の力を借りるという意味では、家庭内でも同じかもしれないですね。一人で抱え込むのではなく、やはりパートナーに任せていくような意識の変化も必要なんじゃないかなと。

山田:私も経験あるのですが、妻が家にいない日は、普段は相手に任せてしまっている部分も含めて自分が家事や子育てをやるんですよね。誰もやる人がいないので、わからないながらも手探りで何とかやろうとするんです。

で、自分で実際にやってみて「こんな大変さがあったんだ」と初めて知ることも多くて。そこから父親としての意識も変わっていった気がしますね。

井出さん:女性にとっても子育ては「初めて」ばかりなので、手を動かすことでわかっていく過程は男女関係ないのかなと。実際、聞かれても「私だってわからないよ」と思う場面だってたくさんありますから(笑)。

自分でやってみる、相手に任せてみる経験を通じて、お互いの持つ固定観念を外せるといいなと思います。相手への想像力を働かせられると、育児もしやすくなりますよね。

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山田:これまでの子育て経験を踏まえたお話を伺ってきましたが、今度はどんな社会にしていきたいと考えていますか?

井出さん:シェアダインとしては、家庭の食事から育児の固定観念を変えていきたいですね。母親だけ、家庭だけで頑張ろうとしなくてもいいと伝えたい。もっと周囲の力、社会全体の協力を得て子どもを育てられる環境を、事業を通じてつくっていきたいです。

でもそれって、実は育児に限らないんです。高齢者用の介護食やダイエットのための食事なども同じで、栄養バランスや調理方法に専門知識が必要な場合、やはり家庭の中だけで担うのは難しい。そこをプロの力で、日々サポートをしていけたらと思うんです。

山田:食事に対して細やかに気を配る日本人は、そもそも衣食住といった「日常」を大切にする文化を持っていると思うんです。**に海外赴任していたときに気づいたんですが、向こうの人は大型連休でバカンスに行くために日々の生活を送っているところがあるんですよね。一方、日本人は生活そのものを大切にする習慣がある。

季節の変化を楽しんで、旬の野菜や果物が食卓に並んだりするのも日本ならではの文化なんだなと感じていました。

井出さん:言われてみると、少しでも日常を豊かにしようとする習慣がありますね。

山田:だからANDROSOPHYとしても、そういった何気ない日々の子育てを少しでも豊かにできるようなサービスを届けたいと考えています。家族との過ごし方や、子どもとの関わりを大事にする生き方、社会のつくり方をしていきたくて。

井出さん:わかります。食卓を囲んでその日あったできごとを家族に話したりするも、ただ食事をするのではなくコミュニケーションを大切にしているからですよね。日本人が大事にしている「日常」をサポートする事業や社会の仕組みが、もっと整っていくといいなと改めて思いました。

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今後、noteで定期的に発信させていただく予定ですので、良ければフォローください。



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