忘却に抗う
最近中学時代の友達と久しぶりに会った。
久しぶり、とは言っても1年半前には会っている。
なのにその子と前回話したことを全く、覚えていなかった。その子が私の大学の友人と付き合っているなんていう特大ニュースも聞いて散々騒いだはずなのに、それすらもポッカリと抜け落ちていた。
たった2人しかいない中学時代の友達のことなのに…
久しぶりの感覚だった。
けれどそれが「久しぶり」だったのはそもそも私が最近あまり人と会えていないからで、このご時世を迎えるまでは忘却に散々悩んだものだった。
なのにその忘却の恐怖すらも忘れていた。
私が薄情なのか、
人に興味がないのか、
私の脳がポンコツなのか、
理由は分からないけれど、数少ない、本当に数少ない大切な人たちのことすら半年もすればズルリズルリと記憶が抜け落ちていくのが本当に恐ろしい。
普通なのかな、みんなこんなものなのかな、
こんなにも忘れていってしまうものなのかな、
そんなの比べようもないけど人と接する中でこの忘却で猛烈に焦ったりやりづらさを感じることがあるということは、多分…忘れやすいんだと思う。
大切な人に関わることを忘れてしまうのは
とても哀しくて後ろめたくなる。
猛烈な自己嫌悪に陥る。
ただ、Seventeenさんの曲の中にはよく「忘れる」ということに関わる言葉が出てくる。
私はなんだか勝手にそこに救われてきた。
だから今回は私自身の備忘のため、救いのため、
Seventeenさんと「忘却」について書いてみる。
Second Life
잊혀진다는 건 흔한 일이겠죠
忘れるというのはよくあることでしょう
왜 그 흔한 일들은
どうしてその当たり前のことが
나에겐 전혀 쉽지가 않은 걸까요
僕には全く簡単ではないのでしょうか
以前「五線譜の上に煌めく星」というnoteでも触れた歌詞。その時はこの「忘れる」の主語がわからないけれど、誰であったとしても「忘れる」ということのどうしようもなさを分かっているからこそそこに抗っているのではないかという解釈をした。
ただ、この歌に私の想いを乗せるとするなら
「忘れる」のは「私」だ。
ずっと覚えていられることの方が少ないのだから
もういっそ忘れるということ自体に慣れてしまいたい。忘れるものだと割り切ってしまいたい。
でも皮肉なことに…そして幸福なことに、私には忘れたくないものがたくさんある。
大切なことも簡単に忘れてしまうのに
忘却を受け入れることは全く簡単じゃない
また忘れてしまった。
きっとまた忘れてしまう…
そんな私の後悔や不安をウジさんの歌声が夜空に持ち上げて星の中に散らしてくれるような歌に感じられ、私はなんだか救われた。
Campfire
우리만은 시간에 쫓겨 잊지는 말아요
僕らだけは時間に追われても忘れないで
얼마나 소중한지 얼마나 고마운지
どれだけ大切か どれだけ感謝しているか
내일 아침에 달빛이 꺼져도
明日の朝 月明かりが消えても
우리 맘은 꺼지지 않아요
僕らの想いは消えてしまわないから
「忘れないで」と言われれば
こんなに大切にしてくれるあなた達のことを忘れられるはずもない、と言いたくなる。
けれど私はきっといつか忘れてしまう。彼らが「忘れないで」と言ってくれたことすら忘れてしまう。
けれど私は「忘れないで」という言葉ですら救われている。だってきっとこの「忘れないで」は忘却を前提としているから。
きっと時間に追われたら忘れてしまう。
それは分かっているけれど、それでもどうか「僕らだけは」忘れないでほしい。
この「忘れないで」はきっと“禁止”ではなくて
忘れることを分かった上でも忘れないでほしいという“祈り”なんだろうなと思う。
“禁止”なら私はもう怯えて謝るしかない。
けれど“祈り”は私を怯えさせることなく、むしろ忘却に立ち向かわせる。
どれだけ彼らが大切で、どれだけ感謝しているか
なお一層忘れてたまるものかと、あの手この手で形に残そうとする原動力になる。
彼らが「忘れないで」と祈ってくれることが
そうしないと忘れられてしまうと思っていることが
どうしようもなく切なくて、苦しくて、愛おしい。
바람개비 (Pinwheel)
사람들은 다들 겉으로만
人は誰しも上辺だけ
바람이 차지않냐 물어봐
風が冷たくないか尋ねてみて
그냥 그렇게 묻곤 지나가서
ただそんな風に聞いては去っていく
다 잊어버릴 거면서 왜 물어봐
全部忘れてしまうくせにどうして聞いてみるんだろう
行き交う人と自分との間に、絶対的な空白を感じているような歌詞。
気にかける言葉もどうせ上辺だけですぐに忘れてしまうのに、なんで聞くんだろう。
世の中を斜めに見るというか、最初から人間というものを全肯定しているわけじゃなくて…むしろ肯定できない部分を知っているからこそ、その上で大切な人たちくらいはきちんと大切にしたい…
Seventeenさんの、そしてウジさんの歌はそんな慎重な優しさで築き上げられていると思う。
이대로 널 볼 수 없을까
このまま君に会えなくなってしまうのか
가끔은 안 좋은 생각도 들어 난
時々よくない考えも浮かぶ僕は
네 모습이 잊혀져만 가
君の姿が忘れられていくばかり
ーみんなどうせ忘れていくー
そう言っていた「僕」だって
こんなに大切な「君」のことすら忘れていく。
忘れたくないという自分の想いとは裏腹に君の姿や声、匂いの記憶は零れ落ちていくばかり…
これだ。
このどうしようもなさ。やるせなさ。
自分の意思の及ばない忘却への恐怖。
ウジさんがどんな思いでこの詩を綴ったのかは分からないけれど、私は勝手に自分の気持ちを掬いあげてもらったような気がした。
Together
지나치는 이름 모를
行き交う名前も知らない
사람들처럼 의미 없게
人たちのように意味もなく
지금 우리가 잊혀진다면
今僕たちが忘れられるなら
쓸쓸할 것 같아
寂しい気がする
바람개비でも触れていたように、ひとは行き交う人たちのことは何の感慨もなく忘れてしまう。
忘れたくないとすら思わず、
忘れたことすら忘れながら、
日々時間に押し流されていく。
別の歌で2度も触れるのだからきっとこのことに対するやるせなさを日々強く感じているのだと思う。
私なんかよりたくさんの人に出逢ってきたSeventeenさん達は尚更…
でもそんな風には忘れられたくない。
どうしようもないことだと分かっていてもそれは寂しい気がする、寂しく思う…と。
彼らがCARATに対して「行き交う名前も知らない人」=「大衆」として接していないからこそ生まれる言葉だろうなあと思う。
彼らがずっとステージにいてCARATを待っていても
CARATが離れて仕舞えばもう逢えない。彼らはそれを引き止めることができない。でもそれで忘れられてしまうのは寂しい気がする…
「忘れないで」と言われているわけじゃないのに
「寂しい気がする」という控えめな表現が、泣きそうなくらい切実な精一杯のわがままに聞こえる。
忘れられることに慣れないで欲しい。
あなた達のことを忘れてしまった人たちのことまで想って悲しまないで欲しい…
같은 꿈, 같은 맘, 같은 밤(Same dream, same mind, same night)
언제나 You’re always on my mind
いつでもあなたを想っている
지금 이 순간 잊지 말아 줘요
いまこの瞬間を忘れないでください
前奏の一部のように、少し遠くから聞こえるコーラスと共に歌われている歌詞。
「あなた」に伝えるための声というよりは、心の中の祈りの声といった感じ。
切実だからこそ口にできない望みもあると思う。
相手を困らせたくないからこそ伝えられない想いもあると思う。
君と僕の間を流れる今この瞬間を、どうか忘れないでください。
あなたの心にずっと住まわせてください。
僕もきっと、忘れません。
この短い表現の中に、そこに至るまでの悩みや配慮が感じられて、やっぱり優しいなと思った。
ひとりじゃない
備忘録を読んでみたり
沈む夕日眺めて来ない誰かを待ってみたり
だけどたったひとつ覚えてる言葉がある
(忘れないで)
“ひとりじゃない”
「備忘録」って好きだなあ。
「忘れることに備える記録」
忘れたくないこともいつか忘れるから…忘れても思い出せるように備えるんだ。
私のnoteも備忘録のつもりで書いている。
どれだけ忘れるもんかと歯を食いしばっても私は忘れる。今までもそうやって忘れて来た。
忘れたことすら忘れて、記憶としてでなく私の人間性の礎になっていく。
それはそれでいいんだけれど、その時の感情を思い出したいものがある。
…ああ、そうか
忘れたくないだけじゃなくて、
覚えていたいんじゃなくて
私は、この感情を思い出したかったんだ…
日本語の(忘れないで)は、やっぱり一番心にストンと落ちてくる。
たった一つ覚えてる言葉。
(忘れないで)という言葉とともに手渡された言葉。
「ひとりじゃない」
この(忘れないで)は括弧付きだけれど今まで取り上げた中で最も強い「忘れないで」だと思う。
どうかこの言葉だけは
たとえ他の全てを忘れしまったとしても
私のことすら忘れてしまったとしても
絶対に忘れないで。
そんな強い願いを感じる。
うん。強いなあ。
でもあたたかくて、優しくて、怖くない。
きっとこの「忘れないで」が「この言葉を忘れられたら寂しい」という自分のための願いならこれほど強くならない。
「どうかこの言葉がいつも君のそばに在って、君を守ってくれますように」という相手のための願いだからここまで強く感じるんだと思う。
こんな風に願ってくれる誰かがいるなら
覚えていなきゃいけないなと思う。
こんな風に願ってくれる誰かがいることを
覚えていなきゃいけないなと思う。
忘却に抗う
私は忘れる。
ひとより少し速く、ひとより少したくさん。
薄れていくというよりもストンと抜け落ちていく。
全てを記録できればいいけれどそんなことができるはずもなく、忘れたくないものだけ、生活のあちこちに散らばらせる。
忘れてたまるもんかと今日もこうして刻みつける。
忘れやすい私は、こうしてまた忘却に抗う。
抗っても抗っても私は必ず忘れてしまうから
思い出せるようにここに刻みつける。
忘れたいこともたくさんあるこの世界で
忘れたくないことがこれだけたくさんあるというのは、本当に幸せなことだなと思う。
私だけじゃなくて、世界にも忘れないでほしい。
私が死んでも、遺っていてほしい。
Seventeenというアイドルの光
ホシくんというひとの美しさ
それを見つけた夜の匂い…
忘れるもんか
忘れさせてたまるもんか
今日も、忘却に抗う。