道端に落ちたものから広がる世界③〜しゃけの切り身〜
スーパーで買い物をした後、レジから少し離れた机で、会計済みのカゴからマイバックなどに入れ替える。
その時に買ったものを机に置き忘れてしまい、家に帰り冷蔵庫に詰める段になって初めて気づき、ショックを受ける。
私は何度かこれをやったことがあって、その度にとても悔しい思いをする。さりとて、スーパーに戻る元気はない。仕事の後ならなおさらだ。
だから私は、道端にしゃけの切り身が落ちていたのを見た時、とても同情してしまったのだ。ああ、この人の今日の晩御飯が落ちていると思ったからだ。
いやしかし、冷静に考えると、切り身だ。生のままだ。パックに入ったしゃけならば、自転車のカゴに入れていた袋から、段差を超えるはずみで落ちてしまうことはあり得るだろう。だが、目の前に落ちているのは、切り身。まだつやっと湿り気を帯びた、切り身そのものなのだ。
このしゃけは果たして、どのようにここに落ちたのだろうか?まずはパックのまま落ちて、そこから誰かがあと何切れかのしゃけだけ持って行った?のら猫の仕業か?確かにこの辺りには猫がよく歩いているが……
しばし眺めていると、どこからかありがやってきて、しゃけの周りを歩きはじめた。彼らにとっては、何日分のご馳走になるのだろう。きっと明日にはもう、しゃけはなくなっているだろう。街中に落ちた食べ物を食べる生き物は、都会にもたくさんいるのだ。
何日か後、私は再び同じ場所で、長ネギがこれまた生のまま一本そのまま落ちているのを見つけた。確かに長ネギは収まりが悪い。長ネギをスマートに持ち帰れる何かを、誰か発明してくれないか。
ここは、スーパーから5分ほどの場所。それ以来、ここを通る時はつい、何か落ちていないかキョロキョロしながら歩くようになってしまった。