診断名に縛られないで欲しいなって話①:PSWの福祉コラム
精神科のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)をしていると、自己紹介に病名を言うクライアントによく出くわします。
聞き取りをする身としては、診断名はその方を捉えるうえで「わかりやすい情報」である反面、「先入観を植え付けられる情報」でもあります。
今回は、精神科領域における「診断名」の扱いについての「実は…」な話と、医療保険制度のためにつけられる診断がある話、ソーシャルワーカーが聞き取りたい「あなた自身の困りごと」についての話の3部に分けてお話します。
1部では、「診断名」の扱いについての「実は…」な話。精神科診断自体が変わりやすいものであることについて説明します。
精神科領域における診断名の曖昧さ
精神科領域のカルテには、代表的な診断名として「うつ病」「双極性障害」「てんかん」「統合失調症」「不眠症」「発達障害」「自閉症スペクトラム障害(旧自閉症)」「人格障害」などがよく記載されています。
ただし精神科領域では、どんどん新しい病名・障害名が追加されます。分化されていた障害が大きく一つのカテゴリに統合されたり、病名の印象を変えるためにと名称変更されたりします。
なので、私は正直「何という病名がついた」ということについて、あまり深刻に捉えなくていいと思っています。(支援者サイドはしっかり病名を追いかけておかないといけないのが辛いところです。知識が遅れていると思われちゃう
ちなみに、私は自分のメンタルがひどく弱っていた時に何箇所か精神科クリニックに通いました。その全てで違う診断名がつき、通院中にも数回病名が変更されたほど、精神科領域における診断の確定は難しいものなのです。(ちなみに私の病名は、抑うつ→躁うつ→解離性人格障害→非定型うつ病→境界性人格障害→定型うつ病といった具合に代わっていきました)
なぜこんなにも診断が難しいのか。それは精神疾患が、血液検査などの「数値に現れない病気」だからなのです。
精神科の病気はどうして起きる?
実はこれ自体がまだ「諸説あり」の段階なのですが、一般的に精神科疾患は、「ストレスや脳への過度な負荷をきっかけにして起こり、脳内の神経伝達が異常を来す」ために発生すると考えられています。
例えば「統合失調症」は、興奮を司る「ドパミン」の過剰分泌が原因で起きると考えられています。興奮物質の過剰分泌が大脳辺縁系の視覚野近くで起きれば「幻覚」が、聴覚野近くで起きれば「幻聴」が起きる…と考えられており、またドパミン抑制薬の使用で症状が改善したことから、この「ドパミン仮説」が妥当と言われ、支持を得ています。
精神科の病気の治し方
精神科は、内科と同じようにして疾患の治療をします。内科では、服薬で内分泌に作用させ、薬が足りなければ増やし、自己治癒力を高めたり、過敏な自己免疫反応を抑えたりします。
精神科は、どちらかといえば内科に近い治し方です。精神科の薬は、一般値と違う分泌をする脳内神経伝達系を狙って作用します。(薬が効かなければ増やして、効きすぎれば減らします。内服調整も内科と似ていますね)内服作の作用により、神経伝達物質自体を減少・増加させたり、伝達物質を「受け取らない」ように受け取り口をブロックすることで、正常量の刺激が脳に流れるように調整するのです。
精神科診断のむつかしいところ
精神科診断のむつかしいところは、判断材料の大半が「問診」に依存するところです。(精神科で行われる血液検査や尿検査は、服薬時の副作用状態を調べたり身体面に影響がないかを確認するために行っていて、精神科疾患の状態自体を数値化する検査ではないのです)
生育歴や職歴、今までの経験から、どういった病気を発症しやすいのかを探り、現在の患者さんの「困り事」「困っている度合い」などと合わせて総合的に診断します。その為、「これは言わなくていいや」「これは関係ないだろう」と伝えなかった情報が、実は診断の上で大切な情報だった、ということもよく起こります。(重要度によっては診断名変更につながることもあります)
診断がついてからが本番です
このように精神科の診断は、問診の中で総合的に判断する病気です。「尿に糖が出ているから糖尿」「インスリンが出難くなっていることが原因」というはっきりしたメカニズムがわかっていないため、問診不足の場合には見当違いな治療になってしまうこともあるのです。(問診不足の原因は、病院スタッフの力量不足の場合もありますし患者側の開示不足の場合もあります)
『診断名がついたらそれで決定』というのは、精神科では通用しないと思っていいでしょう。あくまで、「『治療方針』を決めるために必要なので、初診段階で一番合致した病名をつけた」というのが現実です。
精神科に関しては、引き続き受診をする中で病名が追加されたり変更されたりしますので、生活していて気になることは『鬱症状と関係なさそうだから』と自己判断せず、きちんと相談してくださいね。