希望を見せたいとき、相手に向かって左上を見よ:PSWの福祉コラム
こんにちは、PSWライターのりくとんです。ご無沙汰しております。本業のコンビニ業務が忙しくってなかなかこちらに顔を出せませんでした。世間はクリスマスですね。クリスマスには鮭を食え!って去年の戦隊モノの敵キャラが言い続け、今年はなんとイオングループがサーモンクリスマスを推してきました。言い続けることの大切さを感じるクリスマスです。
さて、今回のコラムは心理学的なおはなし。PSWとして利用者さんと話していると、「これから頑張ろうね!」と話しているのにネガティブ思考が抜けない人がいます。(それが悪い、という話ではありませんよ)
私たちはワーカーです。ですから、そういう時は是非その方の様子を観察してください。ちょっとしたテクニックで、今までよりも「ホンの少し」ポジティブになれるかもしれないアイデアを紹介します。
まずはやってみよう、実証実験
さて本題に入る前に、皆さんにはシチュエーションの想像実験を行ってもらいたいと思います。そして、そのシチュエーションを思い返す時、スマホ、パソコンからは視線を外し、考える意識に集中してください。各2分ぐらいはゆっくり考えてくださいね。では、やっていきましょう。
①昨日一日ですごく楽しかったことは何ですか?もしくは、昨日食べたものの中で一番美味しいな、また食べたいな、と思ったメニューとかでもいいですね。
思い返しましたか?ちなみに、思い返しているそのとき、どの辺を見ていたでしょうか?覚えるなり、メモするなりしたら次に進みましょう。
②昨日一日で、嫌だなと思ったことはありますか?責められはしなかったけど、仕事でしてしまったミスや、お金を落とした、といったことはありましたか?なければ、ここ最近で一番落ち込んだことを教えてください。
思い返しましたか?同じように、思い返している時に見ていた方向にあるものを確認したら、次に進みましょう。
③近々起きる予定の、旅行・外食といった楽しいことについて教えてください。どんな服を着ていく予定ですか?気温はどれくらいだと過ごしやすいでしょう?
具体的にイメージは膨らみましたか?ちなみにその時、その視線の先、あなたは無意識に何を見ていましたか?では、次で最後です。
④あなたにとって、できることなら絶対に回避したい嫌なことはなんですか?ペットとの別離、隠し事がバレる、といった悲しい、怖い、と感じることについて思い出してください。
さて、それぞれを思い出してもらう時、そのとき何を見ていたかについても確認してみました。実は、それぞれのシチュエーションを思い描いたとき、無意識に巡らせたその「視線の方向」。これこそが今回のキーポイントです。
「過去⇔未来」「ポジティブ⇔ネガティブ」
目は言葉なく様々なことを語ります。特に、「視線が泳ぐ」というように、視線はその人の考えが現れやすいもの。
視線を自分の右側にずらすとき、人は「未来」を想起しやすくなると言われています。一方で、過去の経験を参照するときは自分の左側に。ポジティブな想起は視線は上向き、ネガティブな想起は下向きの時に容易になります。
それを踏まえて実証実験を振り返ると、無意識下では①の想起は左上側、②の想起は左下側、③の想起は右上側、④の想起は右下側を自然に向いている場合が多くなるそうです。(どうでしたか?)未来を考えるときは「インスピレーション」を司る右脳側、過去を参照するときは論理的な脳の左側、と覚えるといいですね。
相手の視線を観察しよう
つまりこれを逆手に取ると、相手の考えていることまではわからないにしても、視線を読むことで自分の話に相手が肯定的か(視線が上向きか)、未来への展望を思い描いているか(視線が右向きか)といった事が大まかに分かります。
その為、相手と話をするときは相手が考える時間をきちんと取ることも大切。視線の方向を見ながら、「利用者さん、まだなにか不明点や不安がありそうだな(右下側の時に多いです)」「あ、あまりよくないことを思い出していそうだぞ(左下側の時に多いです)」という風にあたりをつけて、「なにか不安なことがありそうだけどこの際話聞くよ?」「何か、嫌なこと思い出した?」となどと声をかけます。
信頼関係がある程度築けていれば、「なんでわかったの?」から自分の不安などについて教えてくれたりするわけです。
視線を誘導して思考の方向性をガイドする
人をノせるのが上手な人は、気分を引き上げるのが上手な人です。例えば、話し合いの前のウォーミングアップで「いいことをたくさん思い出させる」クセ付けを行ってから本題に入ったり、ちょっとした雑談で右上を見上げる仕草を入れておいたり。
人には、相手の見ているものを自分も見る「共同注視」という無意識の動きがあります。社会性に生きる人間だからこそ、相手が見ているものを自分も見ておこうとするのですが、この習性もうまく使えば思考の方向性を少しずらすことができます。
思考をずらす:サンプルケース
明日から作業場に新たな利用者が来る。以前実習生が来た時、自分の仕事が取られてしまったことを思い出した。また同じように仕事を取られてしまうかもしれない。そうしたら、自分の居場所がなくなってしまうんじゃないか。ああ嫌だな、明日から仕事に来たくないな。
このような話をしてくるとき、多くの利用者は下を向いています。嫌なこと、不安なことを想起しやすい状態ですね。彼・彼女は今、過去の嫌な思い出と、それと同じような経過をたどって悪化した未来を思い描いています。
本人の思考が下を向いている時に、「いやいや大げさだなぁ。そんなことないよ全然大丈夫!安心して、明日からもよろしくね!」と声をかけたところで相手には届きません。まずは思考に「上」を向いてもらわなければならないのです。
どのようにして思考に上を向かせるか
この場合、「過去の嫌なこと」を「過去の良かったこと」に捉え直せればうまくいきそうですね。
・実習生が「やってみてすごく難しかった!」と感想を述べていたと教え、相対的自己評価の向上を促したり
・実習生にやり方を教えていたが、その内容がとてもわかりやすくてよかったと直接的に評価したり、その人に合ったやり方があることと思います。
過去の成功体験としてすり変われば、下向き視線は若干上に向かいます。このタイミングで、共同注視で視線を右上側に持っていくように促すのです。
相手の視線を右上に誘導しながら話をする
例えば、「あなたは教え方がうまいから(ワーカーは考え事をするように左上側を見る。自身は利用者のいい点を過去から参照しているので思い返しやすくなり、うまくいけば共同注視で利用者は右上を見てくれる)、新しい人が困ったときや私の目が届かないときには是非助けてほしい。不安があればきちんとサポートするから」といった具合に言ってみましょう。すると、
・利用者は、ポジティブな未来を考えやすい視線の時に「教え方のうまいあなたなら大丈夫」というメッセージが入り
・困り事が起きた時にはサポートするといった安心感も同時に与えられる
ことになります。聞く姿勢、考える視線の方向を誘導することで、普段ネガティブな思考パターンの人でも、ホンの少しポジティブな思考への許容範囲が広がるわけですね。
注意してほしいこと
ただし、一点忘れないでほしいことがあります。それは、これがあくまで思考の方向性を一時的にずらすだけの、短期決戦向きの心理テクニックであるということ。本人の基本的な思考パターンは変わりませんから、あくまで一時しのぎであると留めておいてください。
つまり、あとから「なんだか乗せられて仕事続けてるけど、なんで続けてるの?」「いやいやあの時の雰囲気に騙されたわ!」と言われかねない方法なのです。
面談でこの手法を使ったのなら、その時に話した内容はきちんと守らなければ、通常の面談内容の不履行よりもしっぺ返しは大きく出ます。「サポートする」と言ったのなら十分サポートできているか確認する等、その後のフォローアップはきちんと行ってくださいね。