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ハイボールシンデレラ6〜童顔の美女は存在していた〜
ハイボールの味を気に入った僕は、いつもよりお酒が進んだ。
「食べ物と酒が合う」という事が、僕はいまひとつ分からなかったのだが、テーブルに置かれた唐揚げを食べ、ハイボールを飲むと、いつもより唐揚げの旨さが増した感じがした。
これか。
タツヤは食べ物に合わせていつも酒の種類を変えていた。
いつもグレープフルーツサワーを頼む僕に「おいお前、食いモンと酒をコーディネートしないと、食いモンにも酒にも失礼だろ。」と、何故か怒られた事を思い出した。
その時は「あぁ、ごめん。」と適当に流し、そのままグレープフルーツサワーを頼んだのだが、今になってやっとタツヤの言っていた事が分かった気がした。
そして僕は、「いやー、やっぱハイボールには唐揚げですよね。」
と、さも普段から飲んでいるかのような事を言ってみた。
それを聞き、マキさんは「分かる!」と言い、「私達、好きなゲームも一緒だし、好みが合いますね。」と微笑んだ。
この辺りから、マキさんに何やら変化が起きていた。
いや、正確に言うと、僕の目に変化が起きていた。
僕が画面上で恋をしていた「童顔の美女」が僕の前に座っていたのだ。
いつもよりもハイペースで酒を飲んだ僕は、酔いが回るのが早く、気分が良かった。
こんなに酔ったのは初めてかもしれない。というくらいに上機嫌になった僕は、普段よりも口が動いた。
普段の僕は女性と会話をするにしてもまず余計な事を考えてしまうため、返事にスピード感が無いし、気の利いた事も言えず、すぐに会話を終えてしまうのだが、
僕達の会話はかなり弾んでいた。
「じゃあ、マキさんは最近キラー側なんだね。」
「うん。サバイバーの方がやり込んでたから、キラーはまだまだ弱いけどね…。」
共通の好きなゲームの話をし、凄く自然に敬語が取れていく僕達の距離は、かなり近くなっていた。
「ユウくん、めっちゃ話しやすいし楽しいなぁ。」
マキさんはそう言った。
話しやすくて楽しいだなんて、人生で一度も女性に言われた事がない言葉であった。
おかしい。
どこからどう見ても、「童顔の美女」だ。
きっと先程まで見ていた彼女が見間違えで、今見ている彼女の姿が現実なのだろう。
そのタイミングで、店員がラストオーダーを知らせに来た。
僕達は満足していて、ラストオーダーは頼まずに、食事を終えるとチェックをした。
僕は財布を取り出し、全て払った。
「えっいいよ。半分払うよ。私の方が1つ年上だし。」とマキさんが財布を取り出し、言った。
「いや、ここは払わせて下さいよ。」
僕は片手を前に出すポーズをして見せて、マキさんに微笑みかけると店員にお金を渡した。
「童顔の美女」と、こんなに楽しく食事ができた。こんな金額、安いものである。
店を出ると、新宿の雰囲気が待ち合わせの時よりも、少し変わっていた。
新宿は夜になるにつれて、怪しい空気が濃くなっていく。
「ねぇ、ユウくんさえ良ければ、もう一軒行かない?」
マキさんの距離が近い。
マキさんは身長が小さめで、お互いに立った状態で目を見られると、上目遣いでとても可愛く見えた。
目に映る彼女は、僕が今日このデートの日まで夢に見ていた「童顔の美女」そのものだった。