見出し画像

ハイボールシンデレラ13〜開かれたオートロック〜



ー僕は今、マキさんの家の最寄駅から、スマートフォンのマップを開き、彼女の自宅への経路を歩いている。



あれから、しばらくブサイクなウサギと目を合わせていたのだが、思考の動きが再開した僕は、「家って、マキさんの?(笑)」と返した。


全く面白くない内容なのだが、あえて(笑)を付けたのは、僕の勘違いであった時に、冗談で聞いたという事にするための予防線である。



通知音と共にマキさんと表示された画面をまた開く。

「そうだよ!」

返ってきた返事の下には、またブサイクなウサギが添えられていた。

今度のブサイクなウサギは、なにやら踊っていた。


「じゃあ、行こうかな(笑)」

僕はまた、(笑)を付けて予防線を張ったのだが、そこからスムーズに予定が組まれ、気付けば今僕はマキさんの家の近くに居る。




自宅から割と、遠かった。
片道1時間ほどかかり、2回ほど乗り換えた。

しかし、何故だか全く苦ではなかった。


座席が埋まっていたため、なかなか座れなかったのだが、全く苦でなかった。

その後、途中やっと空いたので座れたのだが、隣の男性が割とボリュームのある体型をしていたため、かなり追いやられるような感覚があったが、全く苦ではなかった。

マキさんに再び会える楽しみの方が勝っていた。



もしかして、好き…なのか……?


僕は電車の中で、隣の男のボリュームに押されながら、恥ずかしげもなく、そんな事を考えていた。


そしてマップ内の、教えてもらった住所を差す矢印の近くへと着いたのだが、何か持って行った方が良いのではないだろうか。



僕はマップをもう一度見直し、経路から逸れると、近くのコンビニへと向かった。
マキさんに「今、近くに着いてコンビニに居るんだけど何か要りますか?」とメッセージを打った。



すぐに返信が届き、「大丈夫だよ〜お酒買ってあります」と、丸っこいピースの絵文字と共にまた、ブサイクなウサギが送られてきた。

ブサイクなウサギもピースをしていた。




このウサギの顔、ちょっと腹立つな……。

そんな事を少し思ったのだが、このウサギを好き好んで使っているマキさんを「可愛い」と思っている自分に気付いた。


好き…なのか…?


僕は、前回のデートを思い出しながら、そんな事を考えていた。

「童顔の美女」が僕ににこやかに笑いかけてくれ、夜を過ごしたあの時間を…ー


何も要らないと言われたが、何も持たずに行くのもアレかな。という事で、僕は少し高級なカップアイスを2つ購入し、マキさんの家へと向かった。


僕はマキさんに電話をし、到着を知らせた。

マキさんの家番号をオートロックキーに押すと、マキさんの「はーい」という声と共に扉が開いた。


立派なマンションだ。

駅も割と近く、オートロック。
かなり好条件な物件だ。


マキさんの職業は「保育士」だと聞いている。
都内の保育士は、こんなに良い所に住めるのか?と、少し気になった。




…きっと、倹約家なのであろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?