ハイボールシンデレラ9〜魔法が解けた0時過ぎ〜
そして僕はシャワーを浴びている間、思い出していた。
「横幅がヒロ」が彼女との初セックスを終えたと言っていた日、
「俺達も、やっと男になれたな。」と、
満面の笑みで手をグーに差し出してガッツポーズをして見せたヒロに僕は
「そうだな。」
と言ったが、実はまだ自分だけ「男」になりきれていないような、置いて行かれたような気で落ち込んだ日を。
ーなぁ、ヒロ、元気にしてるか?
俺は今日やっと、男になれそうだよ。ー
そんな事を頭の中で呟いた。
シャワーを浴び部屋に戻ると、マキさんはテレビ前のソファーでスマートフォンをいじりながら缶ビールを飲んでいた。
大判のタオルを身体に巻いたマキさんの太ももが目に飛び込んだ。
そこからはというと、僕の身体のコントロールを指示する器官が、脳から下半身に切り替わった。
僕は下半身の指示を受けて、マキさんの隣へと行き、事が始まったのだった。
実はというと、ビル内のバーで飲んでいた時くらいから僕はもう下半身に行動をコントロールされていた。
タツヤが昔「オレ達は皆、チンコの奴隷だ。」と言っていた事を思い出した。
事が終わった。
僕はベッドに腰掛けて、テーブルの上に置いてあるテレビのリモコンをただ眺めていた。
何をやっていたんだろう、僕は。
愚かな人間だ。
一点を見つめながら僕はこの上無い絶望感に苛まれていた。
それには理由がある。
「童顔の美女」が居なくなってしまったのだ。
今同じベッドにいるのは、「ただ、童顔の女性」だった。
時計に目をやると、もう日付を回っていた。
「ユウくん、明日仕事休みだったよね?」
「あぁ、うん。」
「よかった。じゃあ朝は少しゆっくりできるね。」
「あぁ、うん。」
「汗かいたし、もう1回シャワー浴びてくるねー。」
「あぁ、」
僕はまだ、リモコンを見つめていた。
彼女には、大変申し訳ないのだが今ちょっと、話しかけないでいただけるとありがたい。
彼女が2度目のシャワーを浴びている間も、僕はただ、リモコンを見つめていた。
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