イケメン巨根おじさんについて12〜営業編〜「第2回地獄の飲み会」開幕。
飲み会は会社近くにある、こじんまりとした個人営業の居酒屋で行われた。
でくのぼうさんの行きつけらしい。
チンピラさんに負けず劣らず顔の怖い店主が厨房に、その妻である「アケミさん」と呼ばれる綺麗な女性が親しげな接客をしてくれる良い店だ。
奥のテーブル席に集まり、全員に生ビールが行き届いた事を確認すると、「第2回・地獄の飲み会」が始まったのであった。
「お疲れ様です〜!」
グラス同士が合わさる音が鳴る。
自分より立場が上の人間との乾杯で、相手のグラスよりも下にするという日本らしいマナーがあるが、思ったよりも相手のグラスが下に来るというフェイントがかかる場合がある。
あの時、更にグラスを下ろす作業を咄嗟にしてしまい、なみなみのビールが少し漏れてしまいそうになる事がある。
確実に自分の方が立場が上だという場合には、乾杯の高さを少し上に調整して欲しいと思うのだ。
さて、あるあるを言い終えた所で、本題に戻ろう。
まだ始まったばかりの飲み会のチンピラさんは、ボリューム調整の操作が可能だ。むしろミュート機能がかかってしまっている。
このペラペラペラペラと内容の無い話をさぞ素晴らしい話であるかのように長ったらしく話すこの男にも、ぜひミュート機能を搭載して欲しいものである。
この辺りから私は話半分に聞きながら、頭の片隅でこの男にアフレコを付けるという遊びを始めていた。
私の夫にありふれた昭和の持論で説教垂れるでくのぼうにアフレコをつけてみる事にしよう。
「俺達は、家庭を守っていく大きな要にならなければいけない。それが家で支えてくれる奥さんの安心に繋がるからー」
『俺はこの、大きなチンコを守っていかなければいけない。それが俺の嫁が他所に目を向けない俺の安心に繋がるからー』
私は真剣にでくのぼうさんの話を聞いている表情をしていた。
「なるほど。」「勉強になる。」などと、合いの手も入れてみた。
ていうか私、全然家で支えて無いけど。
外働きに行ってるし、ていうかお前と外にいるじゃん。どういう事?
などとは、もちろん言っていない。
第二回は地獄感が始まるのが前回よりも早かったのだが、もう一つ凄まじい地獄があった。
先程から、何者かに命を狙われている気がする。
でくのぼうの隣の席に座っている女から、強い殺気を感じるのは、きっと気のせいでは無い。
明らかに敵視されていた。
その目は「アケミさん」にも向けられていたが、彼女は全く気にしていなかった。
きっと、慣れているのであろう。
ここまでの殺気を感じた事はあまり経験が無かった私は、丸腰で来たのは間違いだったかもしれない。と後悔した。