ハイボールシンデレラ21〜彼女に届いた小瓶〜
俺の名は、タツヤ。
今、俺は最近契約したばかりの賃貸マンションのダイニングにいる。
引っ越しが完了したのは、つい最近の事で、荷物の整理や家具の移動など、一通りの事を終えて、やっと一息つける。という時だ。
そんな時に俺は椅子に座り、テーブルに置かれた「塩」を眺めている。
小瓶に入った「塩」は、なんの変哲もない、ただの「塩」に見える。
俺は、その小瓶の蓋を開けると、手にその「塩」を少量出してみた。
ただの、「塩」である。
少し、舐めてみた。
ただの、「塩」だ。
俺がこの「塩」と向き合っているのには、理由がある。
つい先程、全ての段ボールを開けて、引っ越しがある程度片付いた時の事だ。これから俺の妻になる予定の「トウコ」宛に、荷物が届いた。配達員が持っていた小さな紙に受け取りのサインを書くと、トウコは嬉しそうにその荷物を受け取った。
「何それ?」
「うん?お塩だよ。」
「塩?」
「うん。とても"良い"お塩。」
そういうと、トウコは箱から小さな小瓶を取り出した。
英語でなにやら記載されたラベルが貼ってある小瓶には、確かに塩らしきものが入っていた。
「へー。トウコ料理上手いもんな。
塩にもこだわってるんだね。」
俺がそう言うと、トウコは「おかしい」といったような表情で笑った。
「料理には使わないよ。」
引越しに使っていた段ボールを整理していた俺の動きが止まった。
「料理に使わない…塩?」
「うん。ちゃんとお清めされた塩だよ。
凄く良い塩だって、ユキさんが。」
「……お清め…?…ユキさん……?」
俺はトウコが持つ小さな小瓶に目をやった。
その「塩」は、俺の目にはただの「塩」に見える。
「……ヤバい粉だねぇ。」
俺は不穏な予感を誤魔化すように、ふざけて言うと、
「何言ってるの」と、トウコは笑った。
そして、トウコの私物が入っているチェストを開けると、小さな白い器を何枚か取り出してきて、そこに「良い塩」を少量入れた。
「それ」を部屋中の至る所に置くと、「よし。これで大丈夫。」と、言った。
昔、祖母の家に遊びに行った時に「魔除け」だと言って玄関に塩が盛られていた事を思い出した。
俺は、そういうモノを全く信じる事ができないのだが、それで何かの安心に繋がるのなら、悪くないか。
若干の価値観の違いを感じたが、俺はそれ以上その話題には触れなかった。
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