布教したい手塚治虫②「シュマリ」
「ゴールデンカムイ 」が実写化されますね。
アイヌの隠された財宝を巡って、主人公一派と網走刑務所の脱獄囚達、陸軍の精鋭が三つ巴となってバトルを繰り広げる物語。
冒険、バトル、恋愛、歴史…公式が「闇鍋ウエスタン」と表現するのも納得の何でもありの大人気漫画です。
今回はそんな「ゴールデンカムイ 」がここから着想を得たのでは?と言われる「シュマリ」のお話をしたいと思います。
あらすじ
ブラックジャックとほぼ同時期の、今から約40年前に発表されたシュマリ。
冒頭で書いた通り、舞台は北海道。時代は明治の開拓期真っ只中。
その開拓期の北海道で暮らすことになるシュマリという1人の男の物語です。
「ゴールデンカムイ」とは大きく異なり、ごちゃ混ぜのエンターテイメントというよりは物語全体に重厚な大河ドラマのような雰囲気が漂います。
しかし、五稜郭の戦いで隠された黄金や、北海道に王国を作りたい敵役の存在など、「ゴールデンカムイ 」に通ずる要素が各所に散りばめられています。
この時期の北海道のエピソードとして「ゴールデンカムイ 」で蝗害の描写が出てきた時も「あ、これシュマリでやったやつや!」と進研ゼミみたいな気持ちになりました。
その逆も然りと思うので「ゴールデンカムイ」を履修している人はより楽しんでもらえる作品です。
その他にも炭鉱での大規模落盤事故や野盗との戦いのような生死に関わるハラハラエピソードや、突然始まる拾い子との微笑ましい日常が混在するシュマリの人生。何が起こるか。シュマリに関わる人も含めてどうなっていくのか。
見知らぬ土地で強く太く生きる男の行く末がどうなってしまうのか、人間ドラマとして先がどうなるのか、どの出来事が山場か、と言うよりは読み始めるとシュマリの人生の続きが気になってしまう作品だと思います。
シュマリのここが好き
主役であるシュマリの魅力は何と言っても圧倒的強さです。
めっちゃ強い。すっごい逞しい。生命力が溢れんばかり。
洪水があって成人男性が流されても、濁流の中泳いで助け出し、片手で脇に抱えて川から上がってくるし、野生の馬に蹴られても死なないし、挙げ句の果てには拳銃で撃たれても、とにかく死なない。
撃たれた後にへらず口まで叩いちゃう。
そしてとにかく強情で腕っぷしが強く、関わる人たちの正しいと思えるような選択を聞かずにパワーだけで突き進んでいくので、その先でどうなるか一つ一つのエピソードが気になって仕方ないです。
こんなに強くて逞しいのに、妻に逃げられてその妻を北海道まで追ってきて、家まで突き止める愛の重さという狂気のギャップが人間味を感じさせます。
そしてさらにその妻が北海道で新しい家庭を築いてもう自分に気持ちがないと知った上で、元妻の生活を思い、こっそり家に上がり込み、生活費の足しにしてもらうための砂金を善意で置いていくシーンがあるのですが、ちゃっかり元妻の衣服を頬に擦り寄せ元妻を感じるねちっこい一面もあります。
さりげないこのシーンが私は好きです。
とっても幸せそうな顔してるんですもん。
その後北海道の地で新しい妻を迎え入れるのですが、引き続き元妻に対してねちっこいです。
そんなシュマリの姿を見てモヤモヤする新しい妻を、とにかく一緒になって応援したくなります。
たくましく開拓し、時代の流れに巻き込まれていく様を見守りつつ、愛が重いシュマリの描写を見つけるのが個人的に好きなポイントです。
シュマリ以外のキャラクターも、悪役とされるキャラにも良いところがあったり、女であることを武器にして社会を渡る女キャラがいたり、どのキャラも完全には憎めず、立場が違っていても嫌いになれない存在のキャラクターばかりです。
そんな、少年漫画のようなわかりやすいキャラクター設定ではない人間関係も魅力です。
最後に
青年誌に連載されていただけあり、文字の密度は濃いめですがそれだけ読み応えのある作品です。
「ゴールデンカムイ」の生かされている描写や時代背景を深掘りしたい方はより楽しんでもらえるのではないかと思います。
妻を追うためだけにほぼ体一つで北海道に足を踏み入れた1人の男が、時代の変遷の中でどう生きていくのか、どんな選択をするのか、北海道の辿った歴史を学びながら読み進めることができるので、短時間で大河ドラマを見終わったような大満足の読了感です。
気になってもらえたら嬉しく思います。
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