手続きに則った言葉

数学の言葉で世界を見たらー父から娘に送る数学, 大栗博司

 カリフォルニア工科大学で物理学教授を務める作者が奥深い数学の世界について、これから中学校へ進む娘に向けて手紙を書くように綴られた本
冒頭でカジノで勝ち続けることはできるのかという身近な話題(多くの人が一度は考えたことがあるはずだ)について確率の計算を基に論理的に解説して読者の興味を惹き、その後も事例や逸話を交えながら数学が私たちの生活に密接に関わっていることを教えてくれる。章立ては少しの簡単な公理から複雑な定理を導くという数学のルールに沿い、加減乗除の法則の証明から始まり、ガロア理論に至るまで広範に数学の世界が紹介されている。


 私がこの本から感じたのは、数学や物理学の世界に身を置く作者の文章の正確さだ。数学における、誰が見ても一義的な解釈しかできないよう、厳密に事象を明らかにしていく手つきが文章にも表れているように思うのだ。それは決して難解な言葉遣いであるという意味ではない。言葉をそれ以上でも以下でもなく、言葉通りの意味に取ることのできる、含みのない、さっぱりとして気持ちのいいなのだ。本の巻末で作者は、数学は物事を最も正確に語ることのできる言語であり、新しい言語を獲得すること新しい考え方を学ぶことだという趣旨のメッセージを述べている。私のような市井の人が普段の生活でオイラーの公式に触れる場面などまずないだろうが、少しの簡単な公理から複雑な定理を導くという数学のルールは、論理的な思考と人が言うところのまさに基本であり、呼吸をするように無自覚的に、自然にできるまで心に留めおいて置かなければならないと思う。

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