「解けない呪い」
しばらく放置していた家のポストを開けると、大量のチラシや割引券などが入っていることがある。
面倒だなと思いながらも、そのままにしておくと必要な郵便物が入らなかったり、見落としたりなどの支障が出てしまうので捨てなければならない。チラシや割引券の他にも、地域新聞や近隣住民への道路工事のお知らせなど、手品かと思うほど様々な形状の紙が小さなポストの中から出現する。
両手にも持ちきれず、ポストを閉めようとした時に数枚のチラシが挟んでいた指からスルリと滑り落ちる。
集合ポストが設置された、マンションの共用部分の床を滑るようにして着地する。あまりにも酷い時は、ポストを開けた瞬間にチラシが床に落ちていく。
この床にばら撒かれたチラシのゴミを見ていつも思うのは、「これ、俺が拾わなあかんのか?」ということである。
「果たしてこの床のチラシは俺が落としたと言えるのか?」と疑問に感じる。「必要のない物を勝手にポストに捩じ込まれ、勝手にポストから溢れ出たチラシを、なんで俺が拾ってゴミ箱に捨てなあかんねん」と、大胆にも考えてしまうのだ。
チラシに書かれた電話番号に連絡して、「おたくらが勝手に入れたチラシがポスト開けたら床に落ちたのでちゃんと拾いに来てくださいね〜」とクレームを入れてやってもいいとさえ思えてしまう。
絶対に拾わんからな!と舌打ちをするのだけれど、結局そのまま放置すれば他の住人の方や管理人さんが捨てることになってしまうので、仕方なく僕が拾わなければならない。
何だか人質を取られているような気分で、もしかしたらチラシを投函する奴は、こっちがそういう思考になることも分かった上で強引にポストに入れて来てるんちゃうかなぁと、ポスティングのバイトへの怒りが沸いてくる。
そこまで嫌なら「チラシお断り!」のシールなどをポストに貼っておけばいいと思うかもしれないが、その場合シールを貼った僕の方が、ややこしい偏屈じじいの住んでいる部屋だと住人に警戒されてしまう危険性がある。
トゲトゲの首輪と鎖で繋いだ凶暴な犬を連れて部屋に入るのを見たと、あらぬ噂まで立てられかねない。
結局僕はチラシを持ち帰り、一枚ずつ確認しながらゴミ箱に捨てていく。ピザの半額チケット付きのチラシで一瞬手が止まるが、ここで負けたらダメだとそのままゴミ箱に叩きつける。
全てのチラシをゴミ箱に捨てた後で、また一週間もすればチラシで溢れ返るポストを想像する。チラシを入れたポスティングのバイトが家に帰れば、またそのポストにも他の誰かが投函したチラシが入っている。さらにはそのチラシを印刷した会社のポストにだって、他の会社で印刷されたチラシが投函されている。
まるで解けない呪いのように、チラシは永遠に廻り続ける。
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