シロクマ文芸部 「夢を見る」
夢を見る。
あなたの夢を、僕は今でも時々見ることがある。
あなたは此処ではないどこか遠くを見つめながら、あの頃と同じように寂しそうな笑顔を僕に向ける。
あの延命のような時の中で、僕はほんの少しでも二人の間にある運命的なものを探していた。あなたと一緒にいる為ではなく、脆く儚いこの季節が終わった後に、せめてあなたが僕を忘れてしまわないように。
あなたは最後に僕の幸福を願ったけれど、僕は紛れもなく幸福だった。あなたを苦しめてしまうから一度も言葉にしたことはなかったけれど、あなたに出会えた時点で僕はもうゲームをクリアしたようなものだから、僕の人生はこの先もずっと幸福であり続けるよ。
目を覚ますと、あの頃と変わらぬ部屋の中に僕だけがいた。
エアコンの切れた部屋は冷え切っていたけれど、不思議と心は満たされていた。カーテンの隙間からは、あっけらかんとした陽が部屋に差し込んでいる。
僕は熱いシャワーを浴びて、いつも仕事に行く時間より一時間も早く家を出た。
朝の空気を大きく吸い込んで、もう一度あなたのことを思い出してみる。
大丈夫、何一つ僕の心からは剥がれ落ちていない。次はいつあなたの夢を見るのだろうか、あなたは僕の夢を見ることがあるのだろうか。
そんなことを考えながら、僕は願いを込めるように、いつもより大きな歩幅で一歩を踏み出した。