文化情報工学総論期末課題
仮想卒業研究計画
データベースを可視化する
4W1Hをきちんと意識して書きましょう。おそらく小学校高学年で聞いた先生の言葉が、今も私を捉えている。しかししばらくして、この5つのうち、When、Where、Whatと、Why、Howは、異なる性質を持っていることに気づく。前の3つは事実だが、あとの2つは解釈や評価を含んでいる。そして残念なことに、昨今の風潮は、解釈や評価に熱弁を振るう一方で、事実の記録を軽んじる方向に流れている。そんな中、「いつ、どこで、なにが」に特化したデータベースを構築したい、というのが、還暦を過ぎた私の目標になった。もちろん、私一人でできることではない。様々な分野に興味関心を持つ人びとが、それぞれの知見を持ちよってデータベースを構築しつつ、クロス検索によってあたらな視点を見つけていく、そんなデータベースである。
1 研究のテーマ データベースを可視化する方法の研究
データベースは通常、背後にあって見えないものである。それはちょうど閉架式図書館のようだ。「この本が読みたいです」と要求すると、カウンターで渡してもらえる。だが、その本が書庫のどこにあって、その隣にどんな本があったかは、知りようもない。
私が作ろうとしているのは、開架式図書館のようなデータベースである。とくだん目指すべき本がなくても、書架の間を歩き回っているうちに、いろんな本が目に入ってくる。一冊とってパラパラ眺めて書架に戻すと、その隣の本にも少し興味が湧く。ふだん興味を持たない分野の書架も、ざっと見て回る。思いがけなく魅力的なタイトルの本があったりする。こんなことに興味を持って研究している人がいるんだ! と、それだけで楽しくなる。
そのデータベースに、どんなデータが入っているかわからないまま、データの間を歩き回って、へえ、とか、ほお、とか思えるデータベース、開架式の図書館のようなデータベースを構築するには、データが見えるようにしなければいけない。
でもそれがただの目録だったら、さほど興味を持てないだろう。閉架式図書館に備えられた目録カードと同じでは、おもしろくない。もっと興味を引く視覚的、感覚的、あるいは体感的な表示方法で、データベースを開架式図書館にする方法を研究する。
2 研究の動機 意義があっても、おもしろくない?
このデータベースは、BigHistoryに対応した、横断的、総括的、学際的な範囲を対象としている。各分野にはそれぞれ専門的なデータベースがある、あるいは構築されつつあるだろうが、そうではなく、他分野の人、専門知識のない人でも、垣間見て発見のあるようなものにしたい。
興味のあること、あるいは必要なことなら、人はおもしろくなくても、ある程度がまんする。けれど、「よく知らない」「どんな意味があるのかわからない」ところに人を誘うには、ある程度インセンティブがいる。ありとあらゆるものを対象とする、といいつつ、何も説明しない、語らない、おもしろくないデータベースに人を招き、データベースを活性化し、さらに新しい学問領域を発見するためには、どうしたらいいか。
特に目指している本があるわけではないが、おもしろそうなものがあったら借りて読もう。開架式図書館のようなデータベースを実現するには、視覚的、体感的な面白さが必要だと考え、その方策について研究しようと考えた。
現状、このような目的のデータベースがなく、それを可視化しようという試みもないので、先行研究といえるものはない。ただし、別の目的で可視化を論じている研究は多数あるので、それらを参照する。
3 研究の目的 語りにのまれることなく、事実から見つける
昨今、YouTubeや様々なウェブサイトなど、専門知識をおもしろく紹介するメディアには事欠かない。しかし「語り」には常に「話者の視点」があり、「価値判断」があり、さらにしばしば「誘導」がある。このデータベースは、「いつどこでなにが」という事実だけを提示して、ユーザーがどういう視点で何を見出し、どう考えるかには係わらない。
このようなデータの提供の仕方は、まったく人気がない。「だから結局、何?」と結論を急ぐ風潮の中にあって、自分の目で見て、自分で選んで、自分で考える時間と空間を提供するよい方法を見つけるのが、本研究の目的である。
4 研究の方法 『四次元年表』の改良
既に『四次元年表』というウェブサイトを公開しているが、上記のレベルにはまったく達していない。問題点を見つけ、それを一つ一つ改良していくことで、実践的な研究としたい。この『四次元年表』には、データベースを拡充する入力機能と、データベースを閲覧する出力機能があるが、本研究では、出力機能のみを扱う。
実装を目指す可視化機能は下記の通りである。
CLASSIC 一般的な「年表」に準じた表示方法。時系列に並んでおり、必ず位置情報を併記している。各項目をクリックすることで、その情報に付与されている詳細情報を確認したり、検索タグを追加することもできる。(Flutterで実装済み)
SCALABLE 伸び縮みする時間軸(対数軸)に各事象をプロットしている。事象相互の時間的距離を相対的に把握できる。ズームアウトして138億年を一瞥することも、ズームインして短いスパンで起きた出来事を把握することもできる。(Flutterで実装済み)
3D表示 二次元の世界地図上に時間軸(対数軸)を立てることで、時間的距離のみならず、空間的距離も体感できる。Unityを用いて、三次元空間内を一人称視点で移動できるように設定してあるが、技術不足、データ不足で有効に活用できていない。今後、GISなどを取り入れつつ、改良していく。(Unityで実験中)
4D表示 『四次元年表』の名称の由来となる表示方法。三次元の地球儀上に時間軸(対数軸)を立てて、時空間の距離を体感できる。Unityを用いているが、③同様の課題がある。(Unityで実験中)
In SPACE 宇宙空間での位置関係を表示する方法を模索する。現在、3D散布図用のプラットフォームを用いて太陽圏内の宇宙探査船の航跡データを可視化する方法を策定中。実装して秋には公開予定。さらに広い空間については未定。
Plate Tectonics 大陸移動と古生物の発掘データ等をクロスして表示できる方法を探索。
MARITIME 海底地図と海洋事象、深海探査、航路と沈没船などをクロスして表示できる方法を探索。
AR, VR, 空間コンピューティング等
5 期待される成果 枠組みを越え、知らない世界に出会う
「いつ、どこで、なにが」という最も基本的な、最も重要な、それでいて軽んじられがちな情報を、魅力的に表示することで、新しい関心、興味、問題意識を持ってもらえることを期待する。そして新しい視点、視角、新しい学問領域が生まれることを願う。
参考文献 (現時点で)
マイケル・フレンドリー、ハワード・ウェイナー『データ可視化の人類史』 青土社 2021年
永原康史『インフォグラフィックスの潮流』 誠文堂新光社 2016年
ジョナサン・ブレイニーほか『デジタルHistoryを実践する』文学通信 2023年
江崎貴裕著『データの可視化学入門』ソシム株式会社 2023年
村越真、若林芳樹『GISの空間認知』 古今書院 2008年
金田明大ほか『考古学のためのGIS入門』 古今書院 2001年
四次元年表
三次元・四次元表示
四次元年表の使い方
四次元年表for Mobile