🅂10 自分を活かす⇔他人を活かす

「A little dough」 第３章　働いて自立する　🅂10
働く力を強化する(3)

　🅂8～🅂9の中で 「３つの知能」によって行われるプロセスについて記載しました。①「学習する」②「抽象化する」③「適応する」といった知能が相互に関係するプロセスの中には、私たちの能力を高める基本的な思考スキル（具体化⇔抽象化）があると考えられます。私はこの思考スキルを意識的に使い鍛えることで「働く力」は格段に高くなっていくと考えています。ただ経験から学習することには自ずと限界があることから、経験を補う情報の習得のためには読書や通信教育などの身近な方法を使って自己投資を行うことが重要です。またデスクワークだけでなく、コミュニケーション・スキルやスポーツによる健康増進など幅広く投資の対象を考えてみることも大切です。特に自分の弱点と思われることがあるなら、若いうちにトライしてみるのもいいかもしれません。どんな分野にせよ、キーワードは「継続」にあり、この「継続」が力を発揮した時には、誰もが自分の力を疑ってしまうほどの成果が生まれるものです。

➤一人の力からチームの力へ
　ところでこうした個人の能力向上が基本であることは言うまでもありませんが、仕事を考える上では個人の能力だけに頼るのは限界があります。いい仕事には多数の人間が関わっていることが多いのですが、その理由の一つに能力のばらつきがあります。
　人にはプラグラミングが得意だったり、交渉上手だったりと、いろいろな個性があるものです。実際の仕事の現場は、こうした不揃いの能力集団で構成されていることの方が多いでしょう。必然的に求められるのは、能力のばらつきを味方につけられるかどうか、つまり全体としては調和させることができるかどうか、というところに集約してきます。そのためには、相手を知り、相手に信頼され、一緒に仕事を勧めるための「チームワーク」が必要になります。そしてこのチームワークとは、「構成員個々のリーダーシップとエンパワーメント」によって生み出されます。

➤リーダーシップとエンパワーメント
　リーダーシップとは「目的を明らかにし、その達成の為に構成員を様々な形でリードしていく能力」という意味に使われますが、この前提を踏まえたうえで、私は「エンパワーメント」というキーワードを使って説明したいと思います。エンパワーメントは、権限委譲の一形態で、権限を委譲する際にその方法に細かな制約をつけないというニュアンスが存在していると、私は考えています。一言でいうなら「君のやり方でやってみろ！」といって、背中を押してあげる感じです。リーダーシップには、このエンパワーメントが不可欠な要素だと考えるのです。

➤自由裁量と責任を一旦分散させる
　例えば10人のグループにあるミッションが与えられたとして、1人はグループのリーダーとなり、9人は3つのチームに３人づつ分かれたとします。３つのチームにはそれぞれAさん／Bさん／Cさんというチームリーダーがいて、それぞれグループ目標達成のための別個のチーム・ミッションを持っています。ここでグループリーダーに求められることは、グループ全体のミッションとチームの役割を理解させたうえで、３人のチームリーダーにエンパワーメントを行うことです。その上で３つのチームのアウトプットをグループ目標達成の為にコーディネートしていきます。
　3人のチームリーダーも、自分を含めたチームの構成員に可能な範囲で自由裁量権を与えていきます。その結果、最終的には全員が一定の自由裁量権を持つことになります。自由裁量権を持つということは、その部分に対して一時的であれ責任を持つということになり、その責任を果たす過程においては、リーダーシップが必要になります。こうしたリーダーシップとエンパワーメントの連鎖で、グループは有機的結合を強めていきます。責任を持つという意識が、いろいろな意見のぶつかり合いを生み、リーダーはそれぞれの職責においてこれを調整しなければ、次に進むことはできないからです。

➤最後のリーダーの仕事は…
　最終権限はグループのリーダーにあっても、それをプロセスのなかでは極力部下に委ねることで、チームワークが成立していきます。言い換えれば、10人のメンバーがグループ全体の決定権の一部分を担うことで、チームワークが確固たるものになっていきます。そして最終的にリーダーには、成果物を承認・決定するという行為が残っています。これには、確固たる決断力と粘り強い調整能力が求められます。最終的にリーダーが行う承認行為には、一旦分散させた個々の裁量と責任を最後にすべて回収する、という意味合いが含まれているからです。　

➤連鎖するリーダーシップ
　会社員になるにしても、独立して起業するにしても、たった一人で仕事を完結させるというケースは少ないでしょう。そう考えると、エンパワーメントを含めた、リーダーシップの能力はとても重要な能力といえます。リーダーシップは、一般的には「強い力で統率していく」というイメージがありますが、私が記載したものは「任せて調整していく過程の中で、必然的に統率される」ことを目指していきます。そしてその前提には、「相互信頼」という絶対不可欠な条件が存在しています。
　またメンバーの考えに共感し、ビジョンを共有できる人間関係を作っていく能力が必要です。その為には、自分自身の判断能力を高めていくことと同時に、他人の考えや行動に何時も真摯に向き合う努力が必要です。これは言うは易しですが、なかなか大変なことです。しかしこの努力なしに、他人の持つ大きな力を引き出してくことはできないでしょう。まずは他人から信頼される人物になることですが、一方で他人に共感し他人を信頼し、そしてその懐に飛び込んでいくような勇気も身に着けていく必要があります。
　こうした影響しあう人間関係を幅広く職場で作っていくことは、計算しにくい環境要因などをプラスに導き、結果的に成功確率を高めることにも繋がっていくと考えられます。