🅂10 プランから見えてくるもの

「A little dough」 第２章　プランを考えてみる　🅂10

➤昭和～平成の典型的なパターン
 　前回は一般的に起こる資金需要のギャップについて触れましたが、今回はもう少し具体的なシミュレーションでみていきたいと思います。

ファイナンシャル・プランの要諦は、こうした時期の不整合によるギャップをいかにコントロールして現役時代を乗り切り、更に収支が赤字になり易い老後の予備資金を用意できるかというところにあります。

「A little dough」 第２章　プランを考えてみる　🅂9 巡行速度に乗るために

　下のグラフはの家族4人（子供二人）の家計をシミュレーションしてみたものです。少し前提条件を記載します。
　結婚後は男性が働き女性は専業主婦になったパターンです。男性の平均年収は７百万円台で生涯賃金は2億8千円ほどになりますので、大卒のモデル賃金レベルと考えていいと思います。結婚後5年程度で住宅を購入、頭金5百万円ローン35百万円、毎年の返済額約150万円、30年返済になります。子供二人は大学が私立を想定しました。大学受験の前年の塾費用を含め２人で11百万円ほどの教育費を別途計上しています。そして６５歳以降は、働かずに年金で生活することを想定しました。まぁどちらかというと、私たちの世代、昭和から平成のライフパターンに近い形で自然体ですので、比較的鮮明に資金ギャップが見えていることがお分かりになると思います。

ファイナンシャルプランのシミュレーション

➤三大資金をどうこなすか
　ファイナンシャル・プランで三大資金とは住宅・教育・老後の資金をいいます。上記のグラフではABCで表されています。
（１）結婚して5年後に住宅を購入しますが、住宅ローンの返済が年150万円程度と賃貸時より約30万円の負担増になり、赤の費用線が青の収入線と重なっています。（→グラフのＡ）
（２）二人の子供は２歳違いですが、どちらも私立の大学を選択したため、高校3年の塾費用から大学の卒業まで約11百万円かかります。これが２年遅れで一部重複するため費用曲線が収入曲線が上回ってしまいます。（→グラフのB）
（３）65歳で退職し仕事をやめた後は、年金による生活となります。ご覧のように費用線が収入線を上回っています。（→グラフのC）
（４）二人の子供が独立すると教育費がなくなり、生活費も減少するため毎年のキャッシュ・フローが改善し始めます。（→グラフのD）
（５）老後は貯えもある程度あり、無理をしなければ何とかやっていけそうではあります。

　さて上記はシミュレーションにすぎません。老後資金は25百万円程度ありますが、このケースでは車は所有されていませんし、子供が独立した後のリフォーム費用なども含まれていません。仮にこれを実現しようと思うと、老後の為に資金は15百万円ほど減少します。また子供の教育費ですが、高校から私立という選択を余儀なくされるケースも起こりえます。この場合のピークの資金のやりくりは非常に厳しく予備費も枯渇するため、プランが破綻しかねません。３億円近い生涯賃金があっても、４千万円の住宅購入や２人の子供の私大の教育資金を前提にすると、それなりに大変な様子が伺えると思います。

➤基本は自分の選択としっかり向き合うこと
　さてこうした試算から学び取ることはたくさんありますが、実際に住宅ローンや教育資金で逼迫している状態というのは、こうしたシミュレーションを眺めているのとは全く違いますから、その時その時にとても苦労することになります。完全回避はできないかもしれませんが、こうした資金ギャップを予想して予め手を打つことで、いくらかでも改善は可能になります。ただ以前述べたように、「収入線を上昇させ、支出線を低下させることで、貯蓄可能額が増加する」という原則はかわりません。どんな時でも魔法はありません。私たちの選択した事象ににしっかりと向き合い改善策を見つけるほかない、ということになります。

（１）収入を増やす～現実的には「結婚後も共稼ぎをする」という選択肢を考えるのが最も可能性が高く、金銭面以外のプラス面も期待されます。特に夫婦ともに「仕事と家庭の両立」という共通の課題を持てることが何よりポイントです。
（２）費用を減らす～住宅予算の見直しや公立を視野に入れることでも改善します。
（３）貯蓄面では、NISAやIDECOなどの長期的なプランを検討する、というのも現実的な選択肢です。

➤行動はポジティブに、ファイナンスは慎重に
　上のシミュレーションを仮に将来の伴侶となる方にお見せしたとして、その方は子供が幼稚園にあがる頃には、仕事を再開したいという意向を持っていたとします。そこでとりあえず、年収１百万円程度を仮定したとします。更に子供の教育費として私立の高校を想定し二人分９百万と老後のリフォーム費用５百万円を考えました。このプランが下の表になります。

　単純に上記のグラフを比較していただくと、修正追加分の方が随分と余裕があるプランに見えます。それは、年間１百万円の収入でも28年間で28百万円にもなりますので、授業料とリフォーム代の約14百万円を使っても残り半分が退職時の資産残高に上乗せさる、という理由からです。さて、ならば修正プランでいこう、と考えるのはたやすいのですが実際に28年間連続して１百万円を稼ぐには、それなりの苦労も出てきます。自分の特技や資格などでマイペースで働ける場合を除いて、何年にも渡ってアルバイトで１百万円稼ぐのにはそれなりの代償が伴うと考えるべきです。むしろ、それなら退職せずに働き続けた方が、心身ともにプラスになることすらあり得ます。

　収入に年１百万円上乗せするだけで、ファイナンシャルプラン自体はかなり劇的に変わります。ですがそれは、単に絵にかいた餅にすぎません。私たちがすべきことは、あくまで自分たちの行動を予測していくことです。その結果としてシミュレーションは資金計画の水準を知るためのものと考えるくらいがベストです。例えば、上記の様な修正をかけるなら、まずは年50万円くらいの収入を計上してみるところから始めます。それでも、収入のプラン自体は大きく変わります。これを２・３年やってみて、その時の判断で支出のプランも修正をかけていきます。実際上手くいくこともあれば、そうならないことも多々あります。行動をポジティブに考えていくことは重要ですが、「絵にかいた餅」では意味がありません。ファイナンシャル・プランの方はやや慎重に、常にリスクを踏まえてプランニングする、というのが基本姿勢です。

➤考えることは理解の始まり
　こうした改善例は、ある程度知識のある社会人なら誰にでも考えることができるものです。しかし個人個人のファイナンシャル・プランを作成してみないことには、このような個別の課題や改善策も見えてはきません。「ライフデザインを考える、そしてそれを基にファイナンシャルプランを作る」といった一連の行為を通じて、人生とお金の関係が少しづつ見えてきます。理解は、課題を知りその解決策を自分自身で考えることで高まっていきます。日常的なお金に関わる事象について関心を持ち、時には自分に当てはめて考えていくことがなによりも大事です。そしてこうした意識をお持ちの方は、概してお金のとの付き合い方が上手なように思います。