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美しい巣を作る働きアリ
展示の始まりと終わりに、美術品を出してきたり仕舞ったりする仕事。
いつもバイトの3日前までどこの美術館に配属されるか分からない。
数ヶ月前にたまたま自分が観てきた展示の撤収をする。
「これ、国宝だよ(笑)」と言われて指が震える。
美術館の通路の中を、荷台をゴトゴト押して進むのが好き。美しい巣を作る働きアリの気持ちになれる。
バイトの前日はいつも緊張して一睡もできないから、バイト中ずっと眠い。今は週一しかバイトに入れてないから、もっと頻度を上げると緊張しなくなるのだろうか。いや、より疲れるだけかもしれない。
数千年前の中国の壺と、イランのタイルが入った箱の上で、手持ち無沙汰に指をトントンしていると不思議な気持ちになる。箱の中の美術品たちは数千年の時を経て、はるか遠くの島国で、私に箱越しにトントンされている。
荷台がいっぱいになったトラックが出発して、空っぽになって戻ってくる。トラックを持つ間、台車の上の箱の中の美術品が倒れないよう手で押さえている。20分くらいだろうか。眠いのでとても長く感じた。このまま、この美術品が生まれてからの数千年と同じ時間を共にこの美術館の地下で過ごす空想をした。結局その空想は実現せず、トラックはやってきた。
机の上に敷かれたビニールの光が、点検用のライトに照らされて白くキラキラ光っていて海みたいだと思っていたら、その上に青木繁の『海の幸』が置かれた。