努力した結果文明に負けてしまった話

「歴史を学んで役に立つことはありません。保守的な人間に育つので市役所とかには勤めやすいけど求人全然ないです。四年間頑張ってね。」

史学科の教授のダイナミックなお言葉で私の大学生活は始まった。や、役に立たないんだ。何で史学科入っちゃったんだ。

唐突にアイデンティティの危機である。

しかし史学科は楽しかった。大好きな日本史勉強し放題である。私は数学が死ぬほど苦手であり、好きな日本史ばかり勉強していて実家では日本史禁止令まで出ていたが、ここでは誰も私を止めん。むしろ褒められる、天国。

こうして日本史の狂戦士が産まれた。飲み会にも行かん。サークルにも入らん。バイトなどもってのほか。勉強だ。毎日図書館に籠もるのみだ。
私の入った大学は当時女子大であり、例えば英文科コミュニケーションの子が巻き髪をなびかせ颯爽とタクシー通学してくるのと、全身明らかにUNIQLOですねという私との比較は凄まじかったように思う。

そんな私が心の支えにしていた言葉がある。件の教授の言葉だ。
「知識量で言えば、君達はその辺の日本史マニアのおっさんとかに負けるだろう。だが君達は、史料の原文から情報を得ることができる。古文書を読め、史料を読み解け。それが君達の武器だ。」

おおーっ!すげえ。なるほど。

よーし、やるぞー。気合いの入った私は古文書読解講座で期末試験95点を獲得する。どんな古文書や史料でもバリバリ解読できるエキスパートに俺はなる。


そして世の中に『古文書読解アプリ』が爆誕するのである。


うっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

いらないじゃん!古文書読むやついらないじゃん!

これは本当に便利なアプリで、古文書を写真で撮ると解読してくれるのだ。
ええ…ああ…そう…。人類の進歩だね…。

古文書読解は知識量と経験値だ。二つとも兼ね備えているアプリくんに勝てるわけがない。

こうして私達に武器は無くなった。

歴史を学ぶ意味はあると思うし、何より新陳代謝が意外と活発な分野だ、日々発見があり教科書は書き換わる。

しかしながら二十年経っても、あの教授のカッコいい言葉が消化できないままぐるぐると頭の中を回るのである。


読んでくれてありがとうございました。

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