映画評:『少年の君』
僕の知っている大抵の青春映画には部活やクリームソーダといった感じの所謂テンプレの青春らしさという要素があって、それは僕がかつて体験した明るい青春とシンクロして、眩く迫ってきたものだが、この中国映画『少年の君』は、僕にはほぼ経験外の出来事であるにもかかわらず、今までで一番、眩しく、辛く、哀しく、悲惨な青春として、最上級の共感をもって、心を粉々に壊しにかかってきた。
『少年の君』で取り扱われている主な社会問題は、いじめ、貧困、受験戦争、ストリートチルドレン。たぶん誇張はあるだろうが、誠実に中国の現実を表現しようとした社会派ドラマであると言えると思う。人生の明暗が全国統一入学試験の結果によって決まる受験戦争社会。ヒロインはその試験を控える高校三年生。貧困から這い上がる為、受験勉強に全ての青春を捧げているが、ある生徒の死がきっかけで壮絶ないじめの標的になる。そんな折、不良グループのある少年を助けたことで知り合いになり、次第に互いに惹かれてゆく。
まず大人としてこの映画を見た感想としては、中国の受験戦争の真っ只中にいる少年少女たちの、青春の歪(いびつ)さに驚愕した。まるで戦地に赴くモチベーションで入学試験に挑む兵士のような高校生たち。親も巻き込んだ生きるか死ぬかの世界だ。そんな中で、もしかしたらそんな中だからこそかも知れないが、いじめが起きる。作品内のいじめは本当にまともに見ることができないほど壮絶なもので、既に重大犯罪の域に入っているのだが、もっとも驚くべきところは、少年少女たちは若さ特有の純粋さをもって、いじめ、いじめられているというところであり、受験戦争においてもいじめにおいても、その純粋さの表現がしっかり成されているところに、この映画をカテゴリする際に真っ先に青春映画といってしまって差し支えない点がある。そして純粋な若者に対する責任の所在が大人にあることも、この作品ではしっかり表現されている。
一体子供がこれほど歪な青春時代を生きなければならなくなった社会を作り上げたのは、誰なのだろう?その社会で純粋に命を燃やす子供たちを、社会を作り上げた本人たちが、救ってあげなければいけない。ネタバレはなるべく避けるが、この映画の全編にわたって唯一ヒロインの立場を理解して救おうとしてくれるのは、不良グループの少年だけだ。母親はヒロインを愛しているし、心の支えになってはいるが生活をしていくことに精一杯だ。少年は不良らしさをもってヒロインを救おうとし、やがてヒロインと愛し合うようになる。しかしやはり純粋な子供だ。その行動は悲劇的な展開の呼び水になってしまう。大人として子供たちを社会的に正しく(あくまでも社会的に正しくだが)救えるかどうかは、この映画では、警察がその役目を背負っていて、社会的救済の象徴として描かれている。そしてそれが分かれば、映画の最後に紹介される社会的取り組みのナレーションで涙が止まらなくなるはずだ。映画の結末は内緒だが、この映画の制作陣をはじめ、子供を救おうとする大人は少なからずとも確かにいる。
ヒロインと愛し合う少年との関係は本当に美しく強い。二人の関係性だけを見るだけでも、この映画は見る価値がある。青春映画はたくさん見たがオールタイム・ベストの映画になりました。米国アカデミー賞にノミネートされたらしいが、是非受賞してほしい。オススメの映画です。
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