「令和からの学問の分類」
東京大学先端科学技術研究センターの研究環境の最も面白い特徴といえることに、総合大学のあらゆる専門分野の研究者が一つの組織に集合していることがある。こちらの研究分野を見ていただくと、東京大学の研究科でいうところの工学・情報理工学・医学・法学政治学・教育学・理学と、ほぼ全分野のバックグラウンドを持つ研究者に加えて、バリアフリー分野の研究者が一つの組織に集まっていることがわかる。
いわば東京大学の中のミニ東大である。一つの教授会に多分野の研究者が出席しているため、隣いる先生とふとした話がきっかけで分野横断型の研究が始まることも珍しくない。
私は、先端科学技術研究センターにおけるジェロンテクノロジー研究の一つとして、GBERという定年退職後の社会参加と就労を活性化するソーシャルメディアの研究開発に取り組んでいる。
令和元年度では、包括連携協定を結んでいる熊本県においてGBERの社会実装に着手した。研究開発したテクノロジーをイノベーションに発展させるためには社会に上手く着地させる必要がある。そこには新たに実社会という環境に合わせてテクノロジーそのものを成長させる課題が発生する。そして、社会の方にもテクノロジーを包摂して機能させるための法制度の設計と実践が課題として発生する。まさにテクノロジーと社会とのインタフェース問題であり、そこに私は政治行政システム分野の牧原教授と共創まちづくり分野の小泉教授と連携することで挑んでいる。
牧原教授は、政治改革や行政制度が社会の中で実際に機能しうるかどうかを、「作動」というキーワードを用いて分析している。
私の熊本県におけるGBERの社会実装では、行政を介して新しい地域のシニア人材に期待している民間企業や公的機関にシステムを提供し、それを「作動」させることがまさにゴールとなる。何をどういう手順で行っていくべきかを、行政、民間企業、シルバー人材センターなどの基礎自治体における公的機関、当事者となるシニア、それぞれのシステムとしての特性を理解し、介入していくことが求められる。そこに行政学やまちづくりの知見が大いに生かされる。
同じ目標に向かって異分野の研究者と取り組み始めたことで、工学と法学は実は非常に近い考え方を持つ学問分野であると実感するきっかけを持つことができた。牧原先生は言語的に、私はコンピュータという非言語的に社会に介入する技術的な手段が異なるものの、社会において新しいシステムを「作動」させる方法論を研究する意味で意識がつながることに気づけた。
私は高校生の時から、学問の論理的な分類というよりどちらかというと日本の官僚制度に合わせて決められた文系と理系という分類に違和感を感じていた。個人的には学問は次の2つの軸で分類することがしっくりきている。1つは理論的な学問か実践的な学問かという分類。理学・経済学は理論的な学問という意味で近しく、工学・法学は実践的な学問という意味で近しい関係になる。もう1つは、言語的手段で対象にアプローチするか、非言語的手段で対象にアプローチするかの分類である。1次元の記述された文字から紡がれる数学・物理学と文学は共通の美しさを持つかもしれない。また、2次元以上の空間に表現されるものづくりである工学や美術には共通する技術と表現力が求められる要素がある。文系と理系という分類は目的や表現手段を同じくする学問を分断している壁である。それがために日本では、個々の専門分野の成果に新たな視点や価値を見出すイノベーションが起きにくくなっているのではないだろうか。令和の時代を迎えて、法人化以降低迷している日本のアカデミズムを活性化するためには、文系と理系というお互いへの思考停止を引き起こす分類を忘れる必要があると感じている。
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