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相棒に贈る言葉


相棒よ
どうか幸せでいてくれ

君こそが、僕の人生の輝きでした
君こそが、この土地の風でした

どうかいつまでも、いつまでも元気に走り続けていてくれ




少しだけ、僕のバイクの話をさせてください
くだらない自分語りなので読まなくてもいいです


買ったのは2年と少し前のこと
知らない土地で過ごす初夏
炎天下の中、自転車一本で移動することに限界を感じていた
どうしても移動の"足"が欲しかった

バイク屋を覗きに行った
二輪を転がすということに憧れを感じていた
大人の男、というイメージもあったし
レトロで可愛い女の子、というイメージもあった

一目惚れしたのはカーキ色のバイク
それは通勤用のスクーターというよりかはもっぱらレジャー用の中古車ではあったが
2000kmも走っていないような新品同様のぴかぴかしたバイクだった

足を揃えて乗るようなスクーターばかり中、またがって乗る形をした君
しみったれたボロの中古車の中で光り輝いていた君
とにかくかっこいい、胸を張ったような見た目の君に見惚れた

流通量が少ないことを理由に予算の二倍近い値段を首から下げてはいたが
これからの人生の投資だと思ってすぐに君を相棒にした

あの日から、僕の人生に風が吹いた気がする



移動をするのは遥かに楽になった
移動範囲は三倍にも四倍にも広がり、どこへでも行けるようになった
職場、スーパー、友人の家  本当にどこへでも

買った後、すぐにいろんな友人に見せて自慢してまわった
バイク乗りの友人にも、二輪など触ったこともない幼馴染にも
「僕の相棒、格好いいでしょう!」と言いふらしていた
みんなかっこいいって言ってくれたね、よかった



君と初めて海に行った日も覚えてる
あれは友人の4回忌の夜のこと
仕事を終えて、どうしても心がダメになった夜
一番近い海辺まで僕を運んでくれたよね
海岸沿いの砂利道の所まで乗りつけて
泣いている僕をずっと待っていてくれたのを覚えてる

そりゃあ機械だから喋りもしないし感情もないだろうが
相棒が待っていてくれると思うと、僕は寂しくなかった


風が強く吹く海街だから、嵐の時は大変だったね
君は体重が軽いから、センタースタンドで立ててやったら逆にぐらついてさ
出来るだけ壁際に立てながらそっとしてやった
夜は目を離した隙に倒れるんじゃないかって怖かったな

本当に転びそうになったのは二回だけ

一度目は君と走り出して2ヶ月過ぎたぐらいの夕方、仕事帰りの時
調子に乗って小回りをきかせようとしたら思った以上にスピードが出てさ
フロントカバーに唯一の傷をつけちゃったよね
悪かったな あの時は確かに調子に乗っていた、認めるよ ごめん。

二度目は親友の家に半日かけてバイクで向かっていた時
ガチャガチャとギアが切り替えられるシステムがある、少し特殊な君に乗って
赤信号を先頭で待っていたんだ
信号が青に変わり、エンジンをかけた途端にニュートラルにしていることを思い出した
慌ててギアを入れたら前輪が空高く舞い上がってね
あの時は本当に死んだと思ったよ
あれほど肝を冷やした思いはなかった
幸い何事もなく着地できたから良かったものの
あれは君の魅力でもあり恐ろしさでもあるね


晴れの日も雨の日も、毎日君と出かけたね
たとえなんてことない毎日でも
君と一緒に風を切った証拠に写真でも撮っておけばよかった
まあ、今更言っても遅いか


相棒と過ごした2年と3ヶ月
つい先日転居が決まった
行き先は大都会 交通量も多く片側三車線が当たり前の国道沿いだ

相棒とどこまでも一緒にいれる気がした
ただ、現実はそこまで余裕がある訳ではない
いくら相棒のような小柄なものでも大都会では多少なりとも維持費がかかる
それに大都会では公共交通機関が発達し過ぎていてうまく乗りこなせない


手放すことを決めた


何度も悩んだ
君に払った何十万もの価値をこれっぽっちの金額で売られてたまるかと
必死になって引取先を探した
手放す直前までドタキャンしてやろうかという思いがよぎった
譲渡日前日には「バイク…バイク…」とうわごとのように呟いては
相棒との日々を思って涙を流す僕 かっこ悪いだろう
でもそれほど好きだった


幸い、良い人に引き取ってもらえた
どうしても手放すのが惜しくて、現場で少し撫でたり泣いたりしていたけれど
気持ち悪がらずにちゃんと見つめて待ってくださった方
この人になら譲れると思って手放した

譲渡先からのお礼のメール



大事にしてあげてくれ  大事にしてあげてくれ
私はもうこれ以上大切に出来なかったけど、あなたなら出来るでしょう
倉庫なんかに押しやらずに、風を切って走っていてくれ
心臓が止まらないように、最低限月に何度かは乗ってあげながら
お金がかかったとしてもメンテナンスはしっかりしてあげて


どうか相棒よ、我がクロスカブよ
いつまでも元気で走り続けてくれ



ありがとう
君は私の風でした


いつかまたすれ違える機会があれば、その時に。




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