金持ちになれる枕(SS小説)

「まだだ、まだ足りない。睡眠パワーがまだ半分しか溜まってない。これでは世界中の人間を眠らせ、その隙に世界征服する私の計画が叶わないではないか! おいデルタ、あいつの改良はまだ終わらないのか! もっと眠眠マシーンの燃費を良くさせろ!」

「そんなこともう何度も頼みましたよ。私より、博士の幼馴染であるボスが頼んだ方がマッド博士に効きますって。私は私の作業で忙しいんです!」

「いや、あいつとはキノコタケノコの話からちょっと、その、顔合わせるのは、ちょっと……」

「もう! 早く仲直りした方がいいですよ! あの枕のせいですでに警察に目をつけられているんですから。ここが世界征服組織だってバレないように誤魔化してるの私なんですよ!」

 デルタは枕を掲げた。白くて低反発のちょっとずっしりした枕だ。

 これが博士の発明した〝金持ちになれる枕〟である。

 この枕で寝た時間分、使用者に給料が渡るのだ。

「ええ? そうなの? 気のせいじゃないの? だって私、ちゃんと使用者に説明して枕を渡したよ。枕が吸い取る睡眠パワーのことは黙ったけど、それ以外はただの寝心地がいい枕だろう、それ」

「その使用者が鬱とか体壊したとかで社会問題になりつつあるんですよ! お金のために寝てばかりいたせいで心と体のバランスが崩壊したって、ネットでクレーム色々書かれてます。『一日中寝て起きたけど、お腹減り過ぎて立てない。どうしよ』『大切な人生を寝て無駄にした』『床ずれヤバい。動けない。痛ェ』『寝てるだけもキツイ。目覚めたとき夕方の絶望感ヤバwwwww』。もうどうしましょう」

「ほうほう、『寝るだけなんて楽勝』『引きこもりの天職』『俺一生布団にいるわ』……。賛成派も多いな」

「そっちもそっちで問題視されてるんですよ。ずっと寝てる人が多くて、その人たちのお金が市場に回ってこないんです。それに寝てるせいで周囲から孤立しちゃって心を知らないうちに病むし……、そんな人たちを揶揄して〝枕症候群〟なんて言葉はできちゃうし! もう、この会社にお金があるばっかりに!」

 デルタは枕をボスに投げた。

 顔面直前の枕を掴み、ボスが枕を投げ返す。

 二人は枕投げをして汗を流した。

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