小さな小さな郵便屋さん(SS小説)
真夏の北海道には、小さな働き者がいる。
てこてこ這う小さな毛玉くん。注意して見なければ見失ってしまうのだ。
よく見ると、ぴよんと伸びた尻尾が一つ付いている。
胴体からちまっと付いた手足に、ちょっと尖った鼻先と、そしてその頭には小さな帽子が乗っかっている。かわいい。
てこてこ這って、毛玉くんはムキタケに着いたのだ。
「こんにちわ。今日のお手紙です」
毛玉くんこと、コビトジャコウネズミのコットくんはムキタケさんに小さな茶色のお手紙を渡した。贈り主はお向かいの木の下に生えるサルノコシカケさんなのだ。ここからじゃ声は届かないほど、ちょっと遠くに生えているのだ。
「今日もありがとう。君のおかげで、僕たちはお話できるんだ」
ムキタケさんは琥珀色の小さなお手紙をコットくんに渡した。
「お顔が見えるのに会話できないなんて、悲しいですもんね」
コットくんはお手紙を帽子の中にしまった。
「自由に歩けて、君が羨ましい。僕たちは歩くことも飛ぶこともできない。この世界に僕たちの仲間がいっぱいいても、僕は会いにいくことができないんだ」
ムキタケさんは新しい世界を知れないことを悲しんだ。
「でもムキタケさん。あなたのそばには家族がいます。お父さんからお母さん、おじいちゃんからおばあちゃん、ひいおじいちゃんもひいひいおばあちゃんも、一族全員があなたのそばにいます。ちりぢりで生きる僕たちにとって、家族と一緒にいるあなたは羨ましいですよ」
コットくんは虫を捕まえて食べた。
頭の郵便帽子だけが、コットくんと家族をつなぐ物なのだ。
「いつか、僕は郵便屋さんを引退します。僕たちは短命だからです。ムキタケさんには僕の跡継ぎの子に、僕の話をしてほしいです。それは、ずっとここに居れるムキタケさんにしかできないことです」
帽子がよく見えるように、コットくんはしっかり被った。
「わかったよ。コットくん、君のことを忘れない」
ムキタケさんは言った。
「また来てね」
「はい」
コットくんは大きく頷いた。