のんべいだらり(SS小説)
「ふんふふーん♪」
男は丸いシールをすすんで腕に貼る。
一枚、二枚、三枚、二分の一枚。男は三・五枚の濃度にしたかった。
ハサミで切った残りを紙袋にしまう。
「こら、またそんなに貼って」
同居人の星来だ。
星来は鉄栄の心配をする。星来は生来のお人好しだが、これは鉄栄の不健康のせいだった。
本来、アルコールパッチは一度に三枚以上貼ってはいけない。健康を害する恐れがあるからだ。しかし、この酩酊感は心地いい。
ビールの一気飲み二連チャンと変わらないアルコール摂取量だが、鉄栄はやめられない。
これをすると頭がさえる。
鉄栄のしまう紙袋を、星来は横から奪った。
「何をする!」
「黙れこの野郎。言っても聞かないのなら、実力行使だ」
「そんなことを私にしていいのか。君に同じことをやり返すなど、私にとっては造作もないぞ」
「ああ、知ってるさ。だけどもね、今更一回や二回彼女を寝取られ増えたって、もう今更だよ! 君は今まで友人のガールフレンドを何人寝取ったのか覚えてるかい。僕ですら覚えていないんだよ」
「それはそれでどうかと思うが」
「黙れこの野郎。それに、泥酔して床を汚す君の世話をするのは毎回僕なんだ。少しはその苦労をわかってほしいね」
「君のグロテスク好きのおかげで私がリョナだの拷問だのに詳しくなってしまった私の気苦労もわかってほしいが」
「うっ、それは不可抗力だ。しかし、これは危ないんだよ。僕はいつか君が無呼吸になって死ぬんじゃないかと心配なんだよ。なぁ、せめて用途容量は守ってくれないか」
「善処する」
「それは守るって意味じゃないぞこの野郎!」
星来が紙袋を燃やそうとしたので慌てて止める。
「離せ! 腰に抱き着くな気持ち悪い! あっ、くすぐるのは止めろ! わかった、わかったから! くっ、っあはははははははは!」
「ふぅ、なんとか助かった……」
「はぁ、はぁ、はぁ……。明日からオムライスにマッシュルーム入れてやる……」
「えっ! わわわ悪かった! ちゃんと二枚でセーブする! お願いだから茸はやめてくれ。私が悪かった! もうしない!」
頭を下げる鉄栄を見て、星来はマッシュルームの刑を取り下げてやった。
しかし五日後、四枚を貼ってハイハッピーになって吐く鉄栄を見て、星来は三日間茸づくしの刑をおみまいすることになる。