つめたいクマ(SS小説)
日が昇ると、僕は目覚め、洞窟から顔をひょいと出す。
ご飯を探しに行かなきゃいけない。巣穴から一歩足を踏み出すと、足元の土が凍りついた。パリパリという音と共に、僕の一日は始まる。
僕はこの世に一頭だけの『つめたいクマ』だ。体は霜に覆われ、触れるもの全部が凍り付いてしまう。だから、他の生物と仲良くなれない。僕は一人ぼっちだ。
でも、そんなこと、四百年も過ごしていたら慣れてしまった。昔、人里に下りて人を凍らせたこともあったが、今はしていない。そんなことをしたら、もっと人に嫌われてしまう。これ以上嫌われたら、いつか狩られしまうだろう。
僕はこの山で、静かに余生を過ごすしかないのだ。
のしのし歩いていると川に出くわした。この川は鮭が取れることで有名だ。
だけど、僕は川に入れない。今この瞬間だって、水が少しずつ凍り始めている。パリパリ、パリパリと、薄っすら冷たい膜が張った。このまま入れば鮭はおろか、僕の脚ごと川が凍り付いてしまうだろう。
でも……でも……ちょっとだけ……、ちょっとだけなら、もしかしたら、凍らない、かも……。
「ダメだよ!」
「うわぁ!」
飛び上がって、振り返った。
「鬼熊くん!」
「前もそうやって川ごと凍らせちゃったじゃないか! そんなことをすると、周りの熊たちが困るって言ったよね!」
「ご、ごめんよ……。でも、でもどうしても、あのときの鮭がまた食べたくなっちゃって……」
「はぁ……そんなことだろうと思ったよ。はい」
鬼熊くんが何かを前足で押し出した。それは、二匹の鮭だった。
「あげるから、これで我慢して。欲しかったら、もっと取ってくるし」
「い、いいの!?」
「川が凍るくらいなら、こっちの方がマシだよ。それに、元はと言えば鮭の味を教えちゃったオレに責任があるわけだしね……」
「鬼熊くんっ……! ありがとう……!」
僕は目いっぱい鮭を食べた。鬼熊くんには何度も川に入ってもらってしまい、申し訳なかった。あんなにびしょ濡れにさせてしまって……。
……やっぱり、次は自分で取りに……。
「ダメ!!」
「ひぃっ! ごめんなさーい!」