大学時代の添い寝フレンドに2年ぶりに会いに行った話【後編】
前編はコチラ
頑なに会わないと決めていたはずなのになんで会おうと決意してしまったのか。その理由は正直わからない。
A君の「会いたい」を本気で捉えてしまったわけでも「彼女とは最近うまくいっていない」を鵜呑みにしたわけでもない。そんなに自分は馬鹿じゃないと信じたい。
ノルマに追い込みをかけていた職場の初売り~決算が終わった初日だったので、心に余裕が戻ったのかな、ということにしている。
◇
会うことが決まったのは当日の朝だった。
もともとその日お互いが休みなことは把握していたが、私はその頃決まって職場からの電話があったり休日出勤ばかりの生活だったので、休みでも会おうという気分になれなかった。
ただ、前日に耳鳴りが酷くてまともに仕事ができず、見かねた上司に定時退社させられていた私は、この日職場からの電話のNGと休日出勤の回避に成功していた。
久しぶりに仕事に怯えなくていい休日。恋人とはその頃タイミングが合わず1か月くらい会えていなくて、その日も恋人は仕事だった。
耳鳴りはストレスから来ていたのか前日の夜にはすっかり治っていたし、天気もいい。ふとA君に会いたくなってしまった。
A君は前日の私の体調を知っているので「ゆっくり休んで」とか「無理しないで」って言葉しかくれなかったけど、私が「会いに行ってもいい?」と聞くと驚きながら了承してくれた。
A君のひとり暮らしのアパートまで、高速を使って1時間。
デパコスの春コスメを使っていつもよりちょっと時間をかけてメイクをして、髪を巻いて、どうせお出かけなんてしないのにな、なんて思いながらA君のおうちに向かう。
駐車場についてA君が迎えに来てくれるまでの数分間、心臓が動きすぎて疲れちゃうんじゃないかと思うくらいドキドキした。ああ、大学の時も久々にA君に呼ばれた日はこんな風に緊張してたな、なんて思い出して懐かしくなった。
◇
久々に会ったA君は全然変わっていなくて、研修の時はスポ狩りだった髪も伸びて、大学時代の見た目に戻っていた。
2年ぶりの感動の再開!なんて漫画みたいな展開ももちろんなく、ひらひらと片手をあげるだけの無言の挨拶をして、そのまま横並びで歩いた。アパートの階段に差し掛かってようやく「体調は?コレ(階段)登れる?」「うん、元気。」と会話をした。
アパートに入って、自炊の影のないキッチンと飲み干された炭酸飲料を見てどこか安心した。彼女でもないくせにすぐ女の影を探そうとしてしまうのは、大学時代からの悪い癖だ。
初めて入るA君のアパートは、大学時代より1部屋増えていた。「物置だから使ってないよ、見る?」と言われたけどやめておいた。
私が上着を脱ぐと自然とハンガーにかけてくれて、好きだな、と思った。
普通こういうときってどんな会話をするんだろう。「久しぶり」とか「変わってないね」とか言うんだろうか。
大学時代から会話が少ないのが普通だったから、その空気のまま何を話せばいいのかわからなくなってしまう。
すごく、緊張した。
地べたかベッドしか座る場所がなくて、ベッドに座った。A君も隣に座った。
何かボソボソ会話をした後にA君がゆっくり抱きしめてくれた。そのあとすぐにギョッとしたように手を離して、「何キロ落ちた?」って聞かれた。「10キロくらい」って答えた。ちょっと気分がよかった。
◇
正直、襲われるつもりで会いに行った。
しっかり身体のメンテナンスもしたし、可愛い下着もつけていたし、脱がされやすい服装を選んだ。もしかしたらまた年単位で会えなくなるかもしれないし、何ならもう一生会えないのかもしれないし、恋人がいるのはお互い様だし、落ちるとこまで落ちようって覚悟だった。
結局、何もなかった。
大学時代はセックスこそしないものの普通にキスはしていたのに、キスさえされなかった。
恋人がいるからなのかな、でもそんなに真面目ならそもそも家に上げないだろうし、ハグもしないよな。なんてモヤモヤしながら過ごした。
一緒にゲームをしながら映画を流し見していたんだけど、途中で眠くなって寝てしまった。意識が途切れる寸前にA君の手を握って、握り返してくれたことに安心して眠りについた。
1時間くらいして起きたらA君はまだゲームをしていて、でも片手をずっとつないでいてくれたのが嬉しかった。
夜ご飯は出かけるか宅配サービスを使うか悩んで、もう出るのは面倒くさくて宅配にした。届くまでもうひと眠りした。
並んで食事をして、お風呂沸いてるけど入る?って聞かれてなんとなく断った。そこで入るって選択していれば抱いてもらえたんだろうか。今はもうわからないけど。
A君はずっと横にいてくれて、映画を観たりゲーム機をいじったり私を見つめてみたりしていた。
髪の毛や頬を触ってきてくれたり抱きしめたりしてくれるのに、キス以上はしてきてくれないモヤモヤ。でも可愛くて控えめぶりたい私は自分からいくことなんてできなかった。大バカ者。
そのくせ、たぶん剥き出しになってしまった嫉妬心のせいで、あえて彼女の話をめちゃくちゃ聞いてしまった。あくまで私は貴方に興味ありませんよ?って顔して。かわい子ぶりたいのに可愛くない。
「んー(笑)」とか「あー(笑)」とか曖昧な言葉で濁すばかりのA君もA君だなって思うからお互い様だけど。
◇
そのうち夜も更けて、明日も仕事だし帰るねって時間になった。A君は駐車場までお見送りしてくれて、「またいつでもおいで」って言われて、私は帰路についた。
帰りの車の中で、深呼吸をした。
久々に会うA君はとっても懐かしくてやっぱり居心地のいい相手だったけど、緊張してうまく息ができていなかった気がした。コンビニで強めの炭酸飲料を買った。口の中がピリピリして、買ったことを後悔した。
2年ぶりに会ったA君のことが私はやっぱりとっても好きで、もしかして大学時代もずっと好きだったのかもな、って今さら気づいたりした。当時は別に大好きな男がいたからA君への好意なんてちっぽけなものだったと思うけど。
◇
2年間も会わなくて落ち着いたメンタルを数時間でぐしゃぐしゃにされて、一瞬でA君に全感情を持っていかれてしまった。A君もそうだったらいいな、と思うけど、どうせ私をちょっと大事にしているだけのキープとしか思っていなそうで嫌いだ。
あの日からそろそろ1ヶ月経つが、私とA君の関係は他人のままだし、連絡頻度も若干増えたくらいで、もちろん会っていない。
5月の休みが確定したら教えるね、なんて言っていたくせにまだ教えてくれないし、「他県で緊急事態宣言が出たからしばらくはさすがに会えないね」が本音なのか建て前なのか教えてほしい。
宣言解除になったら会ってくれるのか、なあ。
大学時代の添い寝フレンドに2年ぶりに会いに行ったら、こうして見事なメンヘラ女が誕生することになった。
私はたぶんまた嫌になってLINEを消して、でもそのうち連絡を取り始めて、いつかホイホイと会いに行って、メンタルをぐしゃぐしゃにするんだと思う。
おしまい。
全額をセブンイレブンの冷凍クレープに充てます。