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お題【顔】*私の遺伝子が求めるもの


肩まで伸びた髪が緩やかなくせ毛。

艶めいて、陽に当たると茶色を浮き上がらせる髪の色。

頬骨は、小さなサクランボを埋め込んだようなカーブを作る。

両手で挟み込みたくなる、細長い骨格のライン。

もう手のひらが覚えている、顎までの感触。

薄く張り付いた柔らかい肌に、剃り残しの髭がいつも何本か。

広い額にかかる頼りない髪をかき上げて、撫でつける仕草。

ポーカーフェイスが得意な淡い眉毛は、シックなふりして沈黙。

完璧なまでに美しいと思う、私好みの曲線を束ねた耳。

それで、左耳だけの小さな石のピアス。

足を組替えながら、最初の一音を口開く癖。

ハミングとお喋りが絶えず内蔵された、落ち着いたバリトンボイス。

胸の奥か、頭の中か、それとも子宮を撫でてくれるかのよう。

空気を震わせて、そよ風を含んだ音楽のように、私の耳を惑わす。



「君の声は、なんだか心地のいい音楽を聴いてるみたいだ」

突然、同じ思いの告白を聞く。

耳まで赤く染まるのを見て、
「ホントだよ」と念押ししながら、いたずらっぽく笑うあなた。

切れ長の一重瞼をゆっくり瞬きさせて、じっと私を見つめる。

わざとね。

真っ直ぐ見据えるその瞳は 静かな湖面のように乱れない。

軽くウィンクしたあとで、
いつもの丸いサングラスをその高い鼻に引っ掛けて戻す。

もう、騙されてなんかあげないのに。

そんなこと、耳元でささやかなくていいのよ。


すぼめると、まるでハートのような形の唇で、私にキスをねだる。

近づいた顔から、シガレットのチョコレートフレーバーが香る。

リップ音を器用に楽しんで、
「愛してるよ」と、チェロのような響きで恥ずかしげもなく。

私の遺伝子が、世界中で一番愛するその声の響き。

シニカルに見えるその笑顔を思い出して、泣きたくなってしまう。


万華鏡

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