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あなたはネズミか人間か*大切なものはなんだと思うか

動物学者カロール・ウィリアムズ博士の1942年の蛾の実験は、
「死への羽ばたき」と呼ばれている。
蛾になる前のサナギを前後半分に切って、
切り口にプラスチックをかぶせた二体、
プラスチック菅で連結した一体、
それからそのままの完全体のサナギの、四体の観察だ。
プラスチックをかぶせたサナギは半身だけが成虫の形になったり、
変態しなかったり、プラスチック菅でつながれたサナギは変態して、
本能のまま飛び立とうとしたものの、
プラスチック菅でつながれていることも知らず、
腹部がちぎれて、飛べずにそのまま死んでしまった。


フレデリック大王のネグレクトの実験を初めて知った時は、
考えたこともなかったので、衝撃的だった。
「人間は血と環境とどちらが優先するのか」というようなことを、
ちょうどその頃、クローズドの掲示板で議論を読んでいたせいもある。
私の敬愛する二人の論客は、ひとりは環境だといい、
もうおひとりは迷いなく血だと答える。
どちらも正しく思えて、優劣を感じなかった。
産業革命後の欧州は捨て子が多くて、修道院で育てるわけだが、
ある時から修道士にマスクをさせ、見つめない、笑いかけない、
語りかけない、スキンシップをせずに人格を無視して育てたところ、
子供はみんな死んでしまったという話だ。
子供は「ふれあい」というい愛情表現がなければ育たない。


マウスの実験では「ユニバース25」と呼ばれる、
ジョン・バンパス・カルフーン博士の実験が、現代人には興味深いはずだ。計算上3840匹を収納できるだだっ広い施設に、
オス4匹、メス4匹のネズミを入れた。
外に行けないが、飢えもしないし、外敵もいない。
整えられた、実にユートピアのような環境だ。
ネズミ算式という言葉があるように、
最初の8匹から、315日目には620匹まで達した。
その後個体数の増加はゆるやかになり、600日目以降は減少に転じる。

ここまで辿るにはどのようなことが起きたかというと、
まず子供が傷を負うようになり、同性愛が増え、
メスが攻撃的になり、無抵抗な個体も増えていったのだ。
次にメスの繁殖活動の停止が起こる。
600日目以降にオスは完全な引きこもりになる。
そして死産率は100%になり、超高齢化社会となってゆく。

理想的な環境であったにも関わらず、1780日目でマウスたちは全滅した。

オスはなぜ引きこもりになったかというと、
メスには相手にされず、集団行動をするオスには攻撃されるためだ。
集団行動をするオスはといえば、エサを独占しようとし、
エサを食べにくる引きこもりのオスやメスを攻撃した。
凶暴で貪欲なオスの発現で、エサにありつくために
弱いオスは強いオスに日和り、メスは出産してもオスが守ってくれない。
そのためメスは攻撃的になり、さらに子供をも攻撃して巣から追い出す。
その追い出された子供はというと、
オスの攻撃から身を守るため引きこもりになっていく。
これらの育児放棄されたネズミの世代が親になれば、
子育ても行わず、社会性を教えてあげられない。
発情しても求愛の方法が分からない。
ストーカーのようにただメスを追い回し、
未成熟のメスや、オス同士で本能を満足させようとし始める。

すべてのネズミが引きこもりになった時に、
博士は彼らを「美しい人たち」と呼んだ。
暴力も闘争も交尾もなく、
ただ静かに毛づくろいのみで生きているからだ。
階級化が進むことで、弱者は社会性を失い、
強者はより暴力的になって子どもさえも殺す。

カルフーン博士はこの実験から、
人口の過密状態や個人の社会的役割の欠如が、
人々を無気力にして人間社会を崩壊させる可能性を語る。

都市部でさえも、すでに見えないところで高齢化社会を築きつつある。
何度東京一極集中の弊害が議論に乗っても、リセットされるということは、
「この社会を崩壊させた方がいい」という結果に向かうための、
単純かつ壮大な実験にも思えてしまう。
社会性がまったくなく、食べて、寝て、死ぬだけの世界を、
人間は本当に良しとしているのだろうか。

いまが、せめぎ合いの分水嶺なら、まだ間に合うはずだ。

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野原 綾
花の苗を買って、世界を美しくすることに頑張ります♡どうぞお楽しみに♡