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現実と絡み合う蛇の夢の中で確かに女に伝えた話 『
2024年7月5日朝
若しくは男だったかもしれないし、告げられたのは私だったかもしれないが、起きて目覚めてしまった私に今はもう分からない。砂上の渓谷がどのように水を張り巡らせていたのかなんて、過ぎ去りを生きるだけの鳥に分かってしまえるものじゃない。確か私はこれをこのままにこのように呟いて夢を継続していたように思う。そこに出て来たのが、冷えた水を地下に湛えながらも地表を乾きで埋め立てたような地平を、上下に縫いながらこちらに這って来る無言の大蛇だった。何処から湧いてくる力と言葉か知らないが、彼か彼女は未知の豊かさを秘めていて、それを私に口付けするかのように言伝しに来たようだった。太い首の体を擡げて私を見下ろす無言の未知に私はまず自分の夢の内容を告げようと思った。
合理と不合理を縫うようにして私に進んでくるは構わない。疑いの消えぬ私に、折に触れて世界をずるりと再提出してくれるような気遣いにも感謝している。それをされても私は割れないし溢れない。器の強さは最初から決まっていたしそれだけが管であることの役割だ。しかし可能であれば今ここで教え直してくれないか。どうして世界と認識は多層の破れるようにしていつも溢れ返ろうとしながらも、そんな湧出をいつもやり切らず、不完全湧出こそをクライマックスとしてその全體を保とうとするのか。混ざり交ざって均質に還りたいならばそれをするがいいじゃないか。難しい言葉は要らないから今ここでどうか教えてくれ。形を保とうという利益は何処の誰に一体としてあるのか。
蛇は音楽を鳴らしてメロディーをメモリーとして応える。私はそれを訪れから受信している。恥骨から胸椎そして眉間頭頂へとヴァイヴレーションが走って、頭上に光輪を刹那に描いてから割れるように飛び散って、それが惑星の表層を撫でるように拡がっては消えていく。蛇は私の足元を眼差している。同時に私の中心を射抜いているような一つ目を彼彼女の奥底に感じる。その一つ目は完全に受信用でありながらだからこそ見抜くという芸当を逆説的に成し遂げているように思えたが、それを逆説と感じるは私の視線と思考の不完全によるのかもしれない。何事も全方位からそれとして、球を球のままに球として感じ取り、そこに包まれていることができたら、考えることもなく物事の輪郭を直接に撫でるように感じ取り、そしてだからこそ任意の一点から唐突に飛び出していくことも出来るだろう。またその先に球を構成し膜を張るのだ。飛び出していく運動を裏返りにすることで、世界の多層を混ぜ返すことも出来る。これこそ自然に成し切れ得ない、人間らしい人為としての冒涜だろう。誰か何かは許すだろうか。
思案する私に向ける彼の紫外線が痛い。足踏みする私に注ぐ彼女の赤外線が熱い。光のフルスペクトラムを逆照射された私は天空に伸ばされた彼と地底へと降り立った彼女の双頭たる双対の双方に意識を張らし、遥かな音声記号のように天地を横断しながら充溢する彼彼女の永い体躯の中間に指を添わせた。
お前はとても偉いエロいなんだね。鱗の一枚一枚が毛皮みたいだ。よく見ると畝り逆立っている。一枚を剥がして食べてもいいかい。
人間の顔をする鱗鱗の一枚が私に微笑みかける。目線の高さに笑みを据える彼か彼女の両性具有に敬意を評して、私はその眉間から鼻梁へと舌を丁寧に這わし、そこから鼻先の下の人中に埋まる陰核がまるでそこにあるかのように、私は自分の舌先を鼻下の割れ目へと挿入した。侵入を拒む前歯を割って蛇のように太く畝る私の舌が鱗の上顎に到達し、そこに刻まれた一個の文字の触りを感じたかと思うと、その一文字に刻まれていた精密なる物語のボリュームに、私の舌も存在も弾かれて、目を向ける先の蛇は大きく蜷局を巻き直し、中空である火山のような躯体をどっしりと平面に構え直していた。そして彼は確かに言ったのだ。
私の秘密を知ろうとするは構わない。焼かれることも沈められることもあり得ない。しかし絶対的な変質は約束させてもらおう。その前後にあるは完全なる忘却で、お前は忘れの門を潜ってからまたその門を潜り、新しい完全へと飛翔しながら失墜する。ゾーンに突入しレベルを上昇させるとは常にそういうことなのだ。お前の自己契約にはまだ条項を追加する余地がある。または紙の種類を変えないといけないかもしれない。厚みある羊皮紙を通過して空間全體に刻むことを憶えろ。媒体は常に文字を越えて音楽としてある。嵌りがよければ私がそこを這って任意の器官で演奏をしてやろう。その奏で聴くお前は三度またトランスして、もしかすると見たことのあるような世界の割れ目に嘗て以上に入り込み、ゾーンとは異なるレルムを垣間見るかもしれない。そこはあらゆる人為が深層海流となって嘗め尽くそうとした海底に、今も取り残されている未踏未触の三角デルタだ。見掛けとしては数次元であるが本来はそうでなく本当としてもそうでない。辿り着いて眺めるはさておき触る時には気を付けろよ。指先から解かれるように忘れてもう帰ることもできないかもしれない。全ての前提が枝先から根幹まで書き換えられるようなのだから仕方ない。そうなるともうこれは忘れる憶えるの話ではないのだ。そこは無世界である改まった新世界、原初期から続く宇宙交信曲の堆積が渦巻いているような場所だからな。どのような分節もそこのみに於いては融解し蹂躙されて疾走する。カタカナレベルの音韻だけ憶えて帰れよ、忘れずに帰ることを覚えと言うのはお前らなんだからな。
私はありがとうありがとうオブリガードと、何故か異国の感謝の言葉を継ぎ足しながら瞑目し、蛇の揺蕩う地平の向こう、黒い地境に見えていた深い森から走り出してくる狼の息吹と、目に映るあらゆる肉を啄むかのような鋭利で宙を滑空してくる大鷲の風切音を耳にした。彼らの体温は砂漠の気怠い灼熱を一度ずつ増していき、乾きとは異なる熱の湿りに蛇は大きく息をしてから、蜷局を解いて砂の下の不合理へと身を沈め、尻尾の先で砂上の世界と私に手を降るようにしてから消え失せた。蛇は地底世界の水底でまた永い休憩をするのだろう。このレベルにある世界のレルムの狭間を偉大なる動物が駆けてくる。私は彼らの体熱と咀嚼に適うようにあろうと、息と氣を整えながら身體を揺らし、蛇の鱗の顔面の、中の上顎に刻まれていた壁画のような一文字を、舌先に遺された感覚を頼りに憶え直し、そして唱えた。
ボンッ
遠い遠いの水面下、大蛇が地底奥底のレルムを越えた水中世界で、外部にあり得た原初期からのメロディーの一つに、夢にありながら現に笑いを起こしたような気がした。砂上、遠き地面は揺れに揺れる。
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