朝夕冷える今日このごろ
汚れたスニーカー。
彼の第一印象はそんなところ。
健康で快活そうな、店員さんにもきちんと「ありがとうございます」とか「いただきます」とか言える、いい子だ。
ただ、ボロボロでやたらピカピカの二つ折りのお財布を、ぎゅっとポケットに突っ込んでいるところや、靴下がちらっと靴のふちから見えているところや、それから、あとは、その汚いスニーカーが、とにかく子どもっぽかった。
人の趣味なんて変わってゆくし、変に自分のおしゃれみたいなものを確立していないほうが扱いやすい。
なんてお姉さんぶってもみる。ため口を使われるくらいが心地良い年齢差。たまに「歳上だもんね」とか言っていじられるぐらいで、いい。それがいい。
きっとわたしの家は君の思ってるよりも、もっとずっと社会人のお姉さんの家よ。
パソコンこそないけれど、プリンターがあって観葉植物があって、そつなく統一されたナチュラルな雰囲気の、そんな家よ。
たのしくご飯を食べて、おしゃべりをして、同じ大学を出てるってだけで少し心を許せてしまうのだから、こりゃあいい。
「ねぇ、夜だから学校の広場の時計台、光ってるかなぁ?」
酔っぱらってるわけでもないのに、そういう無邪気なことを口走ってみる。
「見に行ってみる?」
ちょうどデザートもコーヒーも終わってしまったから、君ともう少し一緒にいるには何か口実が必要でしょう?
いつだってわたしは、そつがない。そつがない女でいたい。それは格好をつけているのとは違って。むずかしいのだけれど、予防線を張っているのとも違う。
そつがなく気遣いできて、やさしくて、きちんとしながら無邪気なひとだとも思われていたい。
いつだって他者評価を気にしている。
呼吸したり水を飲んだりするのと、ほとんど同じこと。
健康的で快活で、礼儀正しい君の前で、わたしはいったいどんな人でしょうか?
「ほら、やっぱり点いてたじゃん」
「夜は芝生もライトアップされてるんだね。わたしの時はなかったからなー」
他愛もない会話で、夜風にさらされながらバイバイした。
引きとめないでさらっと帰すあたりも、好感が持ててよかった。
ちゃんとすぐに「ありがとう」ってLINEをくれるところも、「今度はあの店に行こうよ」って予定を聞いてきてくれるところも、よかった。
今日はきっと、心地よく眠りにつける。最近はいそがしくって、仕事の夢ばかり見たりしてたから。こちらこそ、有り難うと言いたい。
また君と、今度はお酒でも飲みながら、ちょっと酔っ払ったりして、会いたいな。
なんて、まんざらでもない秋の入り口。
引っ張り出した長袖はしわくちゃで、みっともないけれど少し嬉しかった。
20201011
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