羽子板の魂・上
足皮すすむ
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※今回は番外編です。このnoteというアプリを使って少しずつ過去の作品を書き写し投稿してきましたが、この度書籍にしない完全新作を執筆しnote限定で投稿してみました。私の青春時代の全てを書き記しました。読み進めるうちにあなたも足皮少年に感情移入し、いずれは私のコピーとなる事でしょう。
足皮すすむ(2024年)
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『羽子板の魂・上』
「ワーセローイ!」
「ワーセローイ!」
ここはチー油学園高等学校。
威勢のいい声と共に土埃を巻き上げながら、小麦色の肌をした青年達が運動場で部活をやっている。その土埃はモクモクと立ち込めあまりの規模に火事と間違われ、近くの消防隊がけたたましいサイレンを鳴らしながら出動するほどだ。
「大丈夫ですかぁぁぁ!!!」
「もちろん大丈夫ですとも。だってほら…」
「ッタハッ!!なあんだチー高の健気わんぱく運動部員達か!ッタハッ!!」
陸上部、野球部、サッカー部…錚々たる部活がその運動場で行われていた。
そんな運動場の外に彼はいた。まだ少し大きめの制服に身を包み、チー高の運動部を見ている足皮少年だ。
先月まで中学生だった足皮少年は、やっとそのサイズがちょうどよくなった制服を箪笥(葡萄じゃないよ)へと仕舞い、また新しい大きな制服を誇らしげに着ていた。
そして来たる4月1日。
私が入学したその学校「チー油学園高等学校」。この日の為に育まれた桜の木には満開の桜が咲き、枝には大量の牛すじ肉がかけられ、青空の下桃色の花と茶色い肉が見事なグラデーションを作り上げている。
そして入学式やら色々と済ませた先にあるのは、どの部活に所属するか選ぶフェーズだ。
各部活の先輩方は皆それぞれ自分の部活に入ってもらえるよう新入生へアピールする。
「野球部どうだい!青春できるよ!」
「茶道部でともに煎じませんか?」
「応援部ーーーーーー!!!!エッサオイ!エッサオイ!エッサオイオイ!!!」
「イコ°プヘドズォ…」
私は様々な部活に舌鼓を打っていると、それを舌打ちと勘違いしたある男がこちらへやってきた。
「オイお前、どうやら迷っているな?どうだ羽子板なんて興味ねえか?最初はタダでいいよ。オレは副部長の…そうだな通称ナウだ。来いよ、ハイになれるズェ〜?」
「あ、すみません別に舌打ちをしていたわけではないので社会不適合者と勘違いしてクスリを売るようなセリフ回しで御部への勧誘をしようという作戦はよしてください。」
ーーこうして私は羽子板部への入部を決めた。
新学期が始まり色々な事があったがほとんどを忘れた。(私は天才が故に脳が特殊な構造をしているので勘弁していただきたい。)
とりあえず部活は、最後の授業が終わったあと17:00からぼちぼち始めまっか的な感じで始まる。
それまでは皆ケータイを触ったり着メロの自慢や前略プロフィールやそれにリンクしたREALの更新をしており、大丈夫かこの部活は…といった印象を受けた。
しかし17:00になった途端、それも分針が0を指したまさにその瞬間、部員達は一斉にサッと立ち上がり、部室の奥から各々羽子板と羽を持ってきた。
「さ、今日も始めるぞチュ。」
羽子板部部長の石黒が、その浅黒く所々薄皮が剥がれている、見るからに乾燥しやすい気持ち悪いビジュの唇をムチュムチュと唾液保湿しながら部員達を統括する。
「おら新人!出遅れんなよー!」
副部長の今(こん)が叱咤し、新入部員達もスクワットやランニングでウォーミングアップをはじめる。
そしてそれらがひと通り済むとまずはレギュラー陣の試合を見る事になった。
「えー、まずは3年生のモウプツ臭男vs3年生の五味苦味!!!」
最初の試合はどっかとのハーフでガタイがヤバいモウプツと、苦味と書いて"ぐみ"と呼ぶ、DQN父とぴえん系母の息子ゴミグミだ。
「うおおいきなりモウプツ先輩とグミ先輩かよ!」
「す、すげえぞいきなり新人にこんなもん見せたら、あまりの気迫に全員退部しちまうんじゃねえか?!」
そんな全部員が期待する中、ついに試合が始まった!!!!
「試合開始!ハッケヨーイドン!」
「うおおおおお!!いっけええええええ!!!」
パチン…パチン…パチン…パチン…パチン…パチン…アブネパチン…パチン…パチン…パチン…パチン…パチン…
「ああ落としたー!」
「よっしゃー!」
最初に1ポイント取ったのはモウプツだった。
モウプツはグミのオデコいっぱい墨汁で塗りつぶした。
そんなこんなでモウプツが勝利し、次の試合の副部長今シワ男vsムチムチしげみちはムチムチの勝利、そして部長の石黒もむ男vs完全なる外国人ポッサムコッツはポッサムコッツの不戦勝となった。
なんやかんやで6人のレギュラー部員と、その他準レギュラーとか雑用とかもろもろ数十名、そして新人として入った7,8人は、顧問である生先生生(ナマサキイクオ)先生のお話を伺った。
「بغض النظر عن مدى صعوبة الأمور، دعونا نبذل قصارى جهدنا دون الاستسلام وتقديم التشجيع」
「「「わかりました!!」」」
生先生生先生は部員を激励し、その後生先生生先生は生徒より先に帰った。
「مع السلامة」
私は先ほどのレギュラー陣の試合を見て居ても立っても居られなくなり、自分から試合を申し出た。
「石黒部長。オレ、試合してみたいッス。」
「よおしわかった、それなら苦味と戦ってみろムチィ。それに勝てたら半年後に行われる地区大会に一緒に出してやろうチュ。」
「グミ先輩と…わ、わかりました!よろしくお願いします!」
こうして苦味と私は向かい合わせになりコートに立った。
「ハッケヨーイドン!」
試合開始だ!
パチン、パチン…しばらくラリーが続くさなかその時!
「へへっ甘いぜ新人!俺の必殺技をくらってみろ!」
「いったい何が…!」
「ハリケーンたつまき!!!」
そう言うと苦味は羽子板を構えながらぐるぐると回り、その回転を利用して羽をついた。おそらく手首のスナップ等を鍛えた方が力も出るし狙いも定めやすいだろうが、偏差値の低いチー高生にそんな事は関係なかった。
「くっぬ…!すげえ重てえ…!」
たいして重くもないのに、"威力があるショットを受けちまったが、期待のデキる新人ことオレっちにゃ根性があるが故に返せちゃうぜ"感を演出した。俗に言う厨二病ってやつだ。
「ほほう新人!これを返すとはなかなかだ!」
「へへっ先輩!本気出していいっすよ!!!」
調子に乗った足皮少年は次の瞬間、とんでもないものを目の当たりにする。
「ほほう新人!そんじゃこいつを受けてみろ…!我が校が誇る伝統の技!その名も"ぜいにく"!!」
パッキューーーン!!!
銃声のような音がしたその刹那、羽は地面にめり込み粉々になっていた。
「くっ…ぬっ…あっ…々っ…」
言葉が出ない足皮少年。後に聞いた話では、このチー油高校伝統の技ぜいにくは、技名こそ同じだが部員それぞれが異なるスタイルのショットを打つようで、苦味はその奇異な生い立ちからグレてしまったが故に"とにかく強く打つ"という反骨精神マシマシスタイルだそうだ。
「これがチー高羽子板部伝統の技だ。名前は同じだが個人個人で絶妙な違いがある。実に繊細だが大味でそれでいてしつこくない。お前ももしかしたらいつか、自分のぜいにくを手に入れられるかもな。」
「せ、先輩…やっぱすげえやチー高の羽子板部は…!」
とはいえ試合は私が圧勝だったので顔面が墨で真っ黒になったグミが偉そうに何を宣いたところでもはや惨め以外の何でもなかった。その上半年後の大会に出させてもらう事になったので、足皮少年の才能にレギュラー陣皆だいぶ期待していたと思いたいが、そもそも苦味はレギュラーの中でも最弱…しかも両親の高圧的な態度で仕方なくレギュラー入りさせてもらえただけのどうしようもないカス野郎だったので、正直勝ち確だったと言えばそんな感じだった。
大会に向けてラリーや基礎練に没頭する毎日を送っていたある日、石黒部長からこんな話をされた。
「足皮。これから俺がお前の才能を見込んで個別に特訓してやるチュム。」
「え!?いいんですか!?」
「ああいいともさチ。なぜかって?お前にぜいにくを伝授する為さンチ。」
それを聞いていた他の部員達がガヤガヤし出す。
(お、おい1年でぜいにく伝授って異例じゃねえか?)
(2年生でも難しい、3年生でやっと身につくようなものなのに…)
(あの足クサって新人、相当才能あるんだろうな。)
(なんたってあの石黒部長が個別に特訓して伝授をしてさしあげようと企画しいざ実行に移さんとするくらいだしな…)
それからの毎日、私はぜいにく伝授のための猛特訓を石黒部長に叩き込まれた。
まず歯を磨くときはブラシではなく頭を動かす。こうする事で首元の筋力がつくと同時に平衡感覚も養われる。もちろんグジュグジュぺも忘れちゃいけねえ。
そして通学は常に競歩。バスだ電車だは言語道断。スキップでの通学もよしんば許された。
授業は真面目に受けなくてはならず、シャーペンの分解すら絶対に許されなかった。
弁当の時間中も絶対に声を出してはならず、咳払いすらもゆるされなかった。
休み時間にポコペンで遊ぶとしても、「誰が最後に突っついた?ポコペン」の後にダンマリを決め込まなくてはならない。つまり未来永劫誰が最後に突っついたか分からず仕舞いの迷宮入りというわけだ。(これはチー高七不思議の一つにもなっている。)
このような厳しい特訓の毎日を送っていると気が滅入り暗黒の中を彷徨っているような感覚になるが、やがて一筋の光が見える。その光こそがぜいにくなのだ。
ーー足皮少年はなんとその日のうちに、たった40分足らずで自分のぜいにくを完成させたーー
そして数ヶ月後の大会当日。
『えー、これより羽子板部地区大会ズニョズニョトーナメントトリートメント大会トーナメント" を開始いたします!!優勝校には今大会オリジナルのブリトーを揉んだり握ったりする権利が与えられますし、特典として全国大会への参加切符もつけちゃいます!』
アナウンスが流れる会場。コートを取り囲むように各校の羽子板部員が座っている。
チー高生の集まるそこでは石黒部長が部員に激励を送る。
「いいかお前ら、常に平常心だニチィ。部活でやってきた事をそのままやればいいポプツ。変に目立とうとか成績残そうとかするなォチ!いいな、部活の延長だこれはミチチ。平常心と基礎の大切さを今一度各々確認しておくんだキャマニツ!!」
「「「はい部長!!!」」」
それに続いて顧問の生先生生先生も応援の言葉をかける。
「وبسبب تحفيز الجميع تمكنا من المشاركة في هذه المسابقة. دعونا نجعل اليوم يومًا ذا معنى بغض النظر عن النتيجة.」
「「「はい先生!!!」」」
第一試合。
チー油学園1年生・足皮すすむ君 vs ラー油高校2年生・ズパポじげじ君
「へへっ相手は1年か。このオレズパポが負けるわけねえぜ!!!」
「よろしくお願いします!」
『ハッケヨーイドン!!!』
パチン…パチン…パチン…パチン…
ズパポの繰り出すひやむぎのような打羽に、足皮少年は苦戦を強いられていた。
「どうだチー高の1年!オレの打球は!」
「まるでひやむぎのようだ…このままでは負ける…!そうだ!」
足皮少年は完成したてのぜいにくを放つ事にした。ギャラリーが沸き出す。
(な、なんだあの構えは!)
(あんなの今まで見た事ねえぜ)
(ヤベエのが来るんじゃねえか…?)
足皮少年は伝授された通りに羽を打った!
々ヲ"!!
聞いたことのない音と共に、羽はズパポの眉間に突き刺さっていた。
ズパポはそのまま後ろに倒れ込み、墨ではなく絶え間なく流れ出る自らの血で顔を染めながら息耐えた。
『試合終了!ズパポじげじ君の棄権により、足皮すすむ君の勝利!』
チー油学園の皆が歓喜する。
(やったーーー!!でも相手の選手を亡き者にしちまったぞ…)
(さすがに死者が出ちゃ来年から我が校は大会に出られなくなっちまう…)
そんなガヤを後ろ目に、足皮少年はもう一発羽を打った。
々°々!!!
これまた聴いたことのない音と共に羽がズパポの左足薬指に当たり、そのまま体内へと吸収された。
すると死んだはずのズパポが息を吹き返した。
「スッファ〜!なんだなんだ、一瞬気絶してたのか?む?!なんだこのおびただしい赤色の墨は!しかも鉄臭いぞ!掃除だ掃除!掃除して次の試合を楽しもうズェ!!!」
なんと生き返った。つまり足皮少年のぜいにくは、相手を殺して不戦勝しその後生き返らせて事なきを得、書類送検をも回避する。といったものだったのだ。
「うむ、教えた通りに身につけたなゥツェ」
「さすがは石黒。チー高羽子板部でおまえの右に出るものはいない。」
「いや、シワ男よツィ。それはわからねえぜチミ。プチョクチョあの足皮って一年…ァチァおれの見立てでは部長になれるチペ。それにプ…」
「それに?」
「伝説の初代部長にも、ンムチョ匹敵するヤツかもしれないクチォ」
「へへっ馬鹿言え。あの方に敵うわけがない。」
「…さチィペ、次はお前の試合じゃないかロピォイ?シワ男よプチャア。」
第二試合。
チー油学園3年生・今シワ男君 vs ラー油高校3年生・メヌマメしょういちろう君
『試合開始!ハッケヨーイドン!!!』
先攻はチー高3年生・副部長のシワ男だ!
「目にもの見せてやりましょう。」
「ドヒィかかってこい!!!」
「ギェーーーーーー!!」
シワ男の、ジャングルに生息する鳥のような雄叫びと共に羽子板を振ったが、へたっぴなのでスカってしまった。
「いっけね!死ねぇい!!!ギェーーーーーー!!!!!」
スカッ
「ぎぇーーーーーー!!」
スカッ
「んぎぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
コツンポ♪
(よし、当たったぞ!)
しかし羽はネットを超えなかった。
「だめだーー!次こそ!ギェデェデェデェ!!!」
スカッ
…こうしてメヌマメが一回も羽に触れることなく、今シワ男は自らのザコっぷりのみで敗北した。
「チー高今シワ男君の奇妙なほどの才能皆無により、ラー高メヌマメしょうちいろう君の勝利!!!」
\ワーーーーーーーーオ!!!/
「ちくしょう!ちくしょう!」
シワ男はその苛立ちから自暴自棄になり、負けた者に塗る用の墨汁が入ったバケツに頭から突っ込み、正月の黒豆みたいになった。
第三試合(最終戦)
チー油学園2年生・ムチムチしげみち君 vs ラー油高校2年生・レッチョムまさこさん!!
「相手は女か…負けるわけねえぜ」
「あんまりナメてると痛い目見るわよ。わかる?見る側の目の問題ではなく、痛い目を見るの。いい?あなたの視界に私の目があると仮定すると、それは痛みを感じてるの。きっと充血してるでしょうね。つまり痛い目を見るすなわちあなたが見た物は痛い目であり、痛いのは私の目。つまり私が被害者。あらそれじゃおかしいじゃないのよ…」
そう言いながらレッチョムは非常に精度の良い羽を打ち込んだ。ムチムチは反応できず、1点、また1点と点をリードされてしまう。
しかし…
「な、なんてこと…あのムチムチとかいう男…微笑しているわ。次の1点を逃したら負けだというのになぜ余裕なのかしら…?」
石黒部長もそれを見てフッと笑う。
「我が校の切り札ムチムチ君ニィチ。彼を試合に出して負けた事は一度もないホッチ。なぜならブツ…」
ムチムチが声を上げる。
「すみません!トイレに行ってきてもいいですか!」
それを聞いたラー高の生徒たちがざわつく。
(オイあいつ、試合中なのにトイレだってよ…)
(負けるのが怖くて逃げるんじゃねえのか?)
(今更遅いさ。棄権とみなされてウチが勝つ…)
(へっ今のうちにお母さんに泣きつけってな)
ムチムチはトイレに行きしばらくすると帰ってきた。そしてレッチョムは驚くべき光景を目の当たりにした。
「な、なんてこと!?これまで塗り進めていたアイツの顔面の墨の上にファンデーションが乗っている…!?」
「フハハ!これでこれまでおまえが獲得した9点はなかった事になる…ですよねえ審判?」
『…あれ?顔に墨が塗られてたと思ったら真っ白だ…となると今までレッチョムさんが勝ち進めていたのは私の夢か?幻覚か?とにかく今こうして現実に起きている事が事実だ。つまり今から試合開始です。』
ラー高生もそれを見て混乱している。
(あれ?これまでレッチョムさんが勝ってたはずだけど、相手の顔には墨が見当たらない…)
(どういうことだ?集団催眠にでもかかっちまったのか?!)
(いやでも審判も言う通り、事実アイツの顔は真っ白だ。墨が塗られていないという事は、これまでオレ達が見てた順調な試合は儚き夢か幻なんだ。蜃気楼なんていう不思議な現象も地球では起こるし、この体育館でそういった摩訶不思議が起きてもなんらおかしくはない。おもしれぇな地球って。)
石黒部長は待ってましたと言わんばかりに説明を加える。
「我が校イチの卑怯者と呼ばれているムチムチ君チム。彼の得意技は今のように、途中退席してお色直しをし再び戻ってくる事で会場を混乱させ、もう一度試合を最初からやり直させるというものだヂャイ。」
苦味も説明を加える。
「そうして試合を長引かせ、長期戦になればなるほど相手は戦うのが馬鹿馬鹿しくなり諦める。つまりその時点で勝利が確定するのさ。ほんとアイツらしい卑怯な戦法だよ。」
それからムチムチvsレッチョムの試合は16時間半ぶっ続き、結局おびただしいクマを目元に従えたレッチョムちゃんが降参した。
「ハァ、ハァ、わかったわよ。アンタの勝ち。もう私疲れちゃった。」
『ラー油高校レッチョムまさこさんの降参により、チー油高校ムチムチしげみち君の勝利!!』
\ワーイワーイ!/
墨とファンデーションを何百重にも塗り重ねたムチムチの顔面は恍惚の笑みを浮かべながら、LEXUSと見まごう光沢を放っていた。
こうしてチー油学園高等学校羽子板部は地元地区大会を勝ち進めていき、ついに決勝戦だ。
「足皮プチョ!いいかこの試合に勝てば優勝ニチ…お前のレギュラーデビューに相応しい素晴らしい記録が残るなミィオチクェパラッペツェ!!」
「はい部長!!!」
(رجل إيشيجورو يحب جلد القدم هذا حقًا.)
『これより決勝戦、チー油学園高等学校 対 デビル医科歯科大附属高等学校の試合を開始します!』
\ワーーーーーーーーーーーー!!!!/
決勝戦ともなるととてつもない声援だ。対戦相手のデビ歯科大は応援部と吹奏楽部も駆けつけており、気迫だけで言うとチー高はぶっちゃけボロ負けッス!
第一試合。
チー高2年生モウプツ臭男君 vs デビ歯2年生ケッチィモッチィげぼみち君!!
シワ男が石黒に問う。
「初手にモウプツを出すとはお前らしくないな。」
「プチョクチィプチョ…へへっ…プチィメチョメチョッグリャリ」
『試合開始!ハッケヨーイドン!』
パチン…パチン…パチン…パチン…
ーーーデビル医科歯科大附属高等学校。かつて全日本高校羽子板部大会で13年連続準優勝したという伝説を残している強豪校である。その中でも第一試合のケチモチ(略)は肩のしなりがとんでもなく、音速とほぼ同じ速さの羽を打ち込む事ができるので、多くの他校生から非常に恐れられている。
しかしチー高のモウプツも黙っちゃいない。あの石黒が"敢えて"モウプツを第一試合に出したのには理由があったーーー。
1週間前…
「石黒部長、なんスか話って…」
「モウプツよクチ。ブヂ次の大会の決勝戦は間違いなくデビル歯科大が来るぞムニャギチ。」
「でしょうね。あのレベルの強豪校が地区大会決勝まで勝ち進めないなんて事、あり得ない。」
「そうニチッパ。こんな事言いたくはないがプ、我が校の優勝にも暗雲が立ちこめるビチャ…そこでだピチィィィ。モウプツ君、決勝戦でデビ歯科大と当たったら第一試合で君のぜいにくを解禁しようと思うギョプ。」
「え…でもあれは禁忌技として我が校でも二度と打ってはいけないと決められています。そんなショット、打てません。」
「ダメだヂュギボグァ。」
「…………わかりました。ただし、今回が最後の一回。その後は二度と打ちませんからね。」
「もちろポロピチッスェん構わん。ニョム。」
こうして石黒は、モウプツの持つ禁忌のぜいにくを解禁したのだーーー。
大会では相変わらずモウプツvsケチモチの激アツなラリーが繰り広げられていた。
「へへへ甘いぜチー高!」パチン!
「そう来たか、ならば…!」パチン!
「そう来ると思ったぜ!」パッチィン!
「くっああ…!!」
『フェザー フォーリンダウン!ケッチィモッチィげぼみち君1ポイント!!4 vs 9 ケッチィモッチィ君マッチポイント!』
第一試合、あと一点でデビ歯科大の勝利だが、石黒はモウプツにアイコンタクトを送った。
「👀プチィ」
「👀」
「さあチー高のモウプツさんよ、これでしめぇにしようや!!」パチィィン!!
とてつもない破裂音と共に鋭い打羽がモウプツへと飛んでいく。が…
「オレのぜいにくをくらえー!」チョコンヌ
「くっ…あっ…」
何とその瞬間、羽はモウプツの羽子板の上に乗っており、さらにモウプツ自身がなにやら騒ぎ出した。
「ビャーーーーーー!!!!」
(う、うるせえ!なんだあの声は!)
(鼓膜に大きな振動が…)
(なるべく遠くに逃げたい気分だ!)
(あれじゃあ近づく事なんてまずできっこねえ!)
「な、なんなんだこいつ…!」
たじろぐケチモチ。そして石黒が説明を初める。
「モウプツは人間が一番嫌がる周波数の奇声を上げることができるスッペ。そして彼の羽子板の上に乗った羽…勘のいい皆様ならもうお分かりだろうョチピ。しかし説明しないわけにもいかないので説明するがヂ、そんな近寄りがたい状況を作り、手前の方に羽を落とすのさミョミョミョ!!!」
ケチモチは重たい足取りで何とか近づこうとするが、モウプツのあまりに不快なシャウトがそれを拒む。
「ビャーーーーーーー!!!」
そしてモウプツは羽子板の上に乗っている羽をチョイと前方へ落とす…。
『フェザーフォーリンダウン!!9vs5!』
\うおおモウプツすげえええ!/
\モウプツ先輩いいぞー!/
こんな調子でモウプツの激キモドン引き戦法はケチモチをドン引きさせ、ついにお互いマッチポイント…
「さああと一点でお前の負けだぞ?」
「クソ!どんな技を出そうとも全く歯が立たねえ…」
パチン…パチン…パチン…
「チクショー負けたー!!」
そう言ったのはなんと、声がガラガラに枯れてしまったモウプツ。つまり強そうな技を持っている割に喉がそんなに強くないがために負けてしまったのだ。
『10vs9でデビ歯科大ケチモチ君の勝利!』
\ナーーーーーーーーーーーーーース/
「負けちまいました…部長…」
「ああニャヂ…仕方ないので次の試合に期待しようバボルス」
第二試合。
チー油高校2年ポッサムコッツ君 vs デビ歯科大附属3年ギモーヴけん君!
謎多き男ポッサムコッツは部長の石黒に唯一勝てる実力者だ。
「ポッサムコッツよニチィッペ」
「ドはい?」
「がんばってくれたまえホリョリョビュー」
「ドはい!」
『試合開始!ハッケヨーイドン!』
パチン…パチン…パチン…パチン…パチン…
圧巻のラリーが続くさなか、ポッサムコッツがギモーヴに語りかける。
「ドついこの間のことです。私には3つ年下の妹がおりましてね、下校中に小石につまづいて転んだんです。それがたまたま肘をついて着地したものですから結構な擦り傷を負ってしまいましてね。その日のうちに病院で手当を受けましたら化膿することもなく無事にカサブタになり、今となってはその事を忘れてしまうくらいすっかり元気です。」
それを聞きながらラリーをしていてギモーヴは、突然羽子板を振らなくなったかと思いきや膝から崩れ落ちた。
「なんて…なんて話をするんですか…。涙でぼやけて何も見えねえ…。一時はどうなるかとヒヤヒヤしましたよ。手汗で羽子板を落とすのではないかと…でも最後はちゃんと無事でよかった本当によかった!!…しかしもうダメだ、これではこんなに涙が出ちまったら羽なんて見えたもんじゃない。審判、棄権します…。」
『デビ歯科大ギモーヴけん君の棄権により、チー高ポッサムコッツ君の勝利!』
\ナーーーーーーーーーーーーーース/
ギモーヴの棄権によりポッサムコッツは勝った。こういう男なんだポッサムコッツは。
第三試合。
チー油高校3年石黒もむ男君 vs デビ歯科大附属3年肉之内でぶ座右衛門君!
なんと決勝戦はお互いの高校の部長同士の戦いとなった。
『これより決勝戦最終試合をはじめますハッケヨーイドン!』
「エイ!エイ!エイ!エイ!エイ!」
相手の肉之内はすごい気迫だ。
「チュパッポぜってーかつョレョレョレ!」
パチン…パチン…パチン…パチン…
ーーその試合をある男が見守りながらつぶやく。
「石黒のやつ…手首の癖は抜けてないようだな。」
それに気がついたシワ男が、その謎の男に近づく。
「来てくれてたんですね…スッペエさん!」
「ああ。チー高が決勝で負けるところを見にな。」
「またまた冗談を…スッペエさんほどこの部活を愛した男はいませんよ。なんたって初代部長なんですから。」
「ああ。初代部長のスッペエちから。それがおれさ。」
「…え?いやええ知ってますよ。」
「いや読者の方々は知らないから、会話に設定を織り交ぜて説明したのさ。」
「さすがはスッペエさん。」
「しかし石黒の例の代償…まだ抜けていないんだな。」
「ええ、あれは彼が死ぬまでずっと背負っていかなくてはならないでしょう。」
「唇が年中極度に乾燥するという呪い…」
「しかも呪いがリップクリームを弾いてしまうため、いかなる時も自らの唾液で濡らしつづけなくてはならない…まるで生き地獄だ。」
「しかしそんな呪いの裏には羽子板が強くなるという特典がついてきたというわけだ。」
「この部活に所属する上ではとても大事な呪いだ。しかしそんな石黒ももうすぐ大学生になる。進学した大学に羽子板部がある保証はないが、この先の人生どうなっちまうのかという心の葛藤がありながらも今を全力で楽しみ部活に全力で勤しむ、そんな期間が今なのでしょう。」
やたら説明口調の2人を差し置いて、石黒は頑張っていた。そしてーーー
『ゲームセット!10vs0でチー高石黒君の勝ち!』
なんと無失点で肉之内に勝利したのだ。やはりとんでもない実力の持ち主だ。
そして石黒は勝利の喜びから、これまでで一番長い保湿音を鳴らした。
「チュッパポルシチッミチャックチャピピボシュリャリオムョツッチパスピャリモリャチシッポキチミシリウィパツォヴェマルィチキシッピチアシカワススムハフィクションウソッパチクチリシッピョリャリオゥオヲウォザビビキョォリッミャミプリェウリュリュムチィムチィムチィリリャピオッキチムアシカワススムハフィクションピリオリュゥピッツィリョリャゴムォツィプィリィニャヂ。」
それは1/F揺らぎの音波となって響き渡り、体育館にいる全員を包み込み、一時の平和と安寧が訪れた。
…のも束の間、優勝校であるチー高は表彰台の上でブリトーを揉みしだかなくてはならない。
シワ男が言う。
「石黒、お前にとって最後の地区大会だろ。お前が代表して揉みに行けよ。」
「いや待てニョヂ。そいつぁ次の全国大会までとっておくポブヅク。期待の新人足皮すすむ!おまえが揉みに行けモミモミ。」
「え!僕がですか!?」
「ああァァ。」
「石黒ナントカ部長…ありがとうございますッス!」
こうして足皮少年は見事表彰台の上で、今大会オリジナルブリトーを左手で揉んだ。
それを見ながらスッペエちから初代部長がぶちかます。
「あいつ、あの足クサって新人。デカくなるぜ。」
空は青々と澄み渡っていたのだろうが、体育館内なのでよく見えなかった。
ーーーそしてそれから半年が経過したーーー
地区大会優勝を果たしたチー高羽子板部の元に、日本学生羽子板協会から一通の手紙が届いた。
しかもなんと顔を黒く塗られた伝書鳩で送ってくるという粋な計らいだ。
"チー油学園高等学校羽子板部の皆様。あなた方はズニョズニョナントカ大会を優勝したので全国大会にも来い。日時:今度・場所:どっか(近いといいね)・優勝校には何かしらあげます。"
この手紙を見た石黒はプチョプチョ言いながら部室に走ってきた。
「おいお前たちブャ!!」
「部長、どうしたんスか?」
「これを見ろギャズォマリヒヒャァン!!」
部室内はUNOや昼寝で大変忙しかったが、その一報を皮切りに部員全員が息を飲み、生唾を飲み、酒も飲み、ゲータレードはあまり飲まなかったが、搾りたてグレフル汁は飲み干した。お腹いっぱいだ。
それに続いて生先生生先生が部室に入ってきた。
「تدرب بسرعة」
一言だけ言ってそのまま職員室へと消えていった。
足皮少年含む数名のレギュラー陣は…もう名前とかあんまり覚えてないがとにかくそいつら全員は、練習に取り掛かった。まずは練習のための体力作り、つまりさっさと帰って飯食って寝る事だ。
羽子板の魂・上 完。