ヂマヌィム・オムホ
足皮すすむ・1999年
〜はじめに〜
洋食亭"bet-veht.(べとべと)"をご存じだろうか。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました足皮様。」
店に足を踏み入れた瞬間そう言って出迎えてくれたのはここのオーナーシェフ。いかなるときでも素晴らしい料理を振る舞ってくれるとあらゆる業界からも評判で、洋食界に於いて彼の名が話題にあがらない日はないとまで言われている。
出迎えてくれた彼の姿は今でも忘れられない。禿げ散らかり不潔で脂っぽい頭に、Tシャツ越しでもわかる情けないビール腹。露出している肌からは処理されていない薄汚い体毛がまばらに生えており、そのビジュアルは見ているだけで不愉快極まりない。そして大きく"へ"の字に曲がり紫灰色をした偏屈しか出てこなさそうなその唇には、粘り気のある泡唾が常に、両の口角に大量に溜まっている。さらに歯槽膿漏と口呼吸にタバコ、そしておそらく内臓系に深刻なダメージを負っている上に普段からほとんど水分を摂らないために完成してしまった口の激臭は、とてもじゃないが対面している時に鼻で呼吸できるようなものではない。だからといって口呼吸をしていても何故か変な味がするので、おそらく臭いというよりも毒物に近い成分を散布しているのであろう。
ある人曰く、その口臭を前にすると、臭豆腐にシュールストレミングを漬け込んだ物ですらいい香りに感じるらしく、なんでも3ブロック先に彼がいても分かるくらい強い臭いだそうな。それくらい不快で強烈な臭いを放っているのだ。
また細く釣り上がったなんの可愛げもない最低最悪ともいえるその目は、ただ単に視線を向けただけでも威圧感・喧嘩腰・殺意等の負の感情すら汲み取れるし、そのうえ彼の顔面のパーツにおいて"人並み以上だ"と言えるものは、言語道断間違いなく、未来永劫どんなふうに法則が変化しようとも、この先どんな文明が訪れてそこで生きていようとも、たとえ宇宙を構成する数列に変化が訪れたとしても、ない。
そして時折その禿げ上がった頭を掻きむしった爪を嗅いで頭皮脂のニオイを楽しんだあとに前歯でこそいで垢を食べ、ひとしきりそれを堪能したあと再び爪を嗅ぎ今度は唾のニオイを楽しむ。時折歯垢を爪で刮ぎチュピチュピと音を立てながら食べている事もある。味が気に食わないと首を傾げ、周りに誰がいようとも構わずぺッと吐き出す。
さらに常にイライラしており、前方から来た華奢な女性・子供・ひ弱そうな男性には自らタックルを仕掛けに行く。過去にそれが原因で警察の世話になったことがあるらしいが、彼曰く「昔は素行が悪く刑務所経験もある」と大袈裟な嘘をつく(誰ひとり信じてはいないが)。
しかしなぜか恰幅がよかったりコワモテの男性にはタックルを仕掛けには行かないのだ。タトゥーが入った女性にも自らいかない。
また自分より立場の弱い者(たとえば店員など)にはこれでもかという程高圧的で喧嘩腰な態度を取り、ほんの少しでも気に食わない事があると真っ先に大元の会社や上司にあたるであろう人物に通報をし謝罪させる。しかも彼曰く、土下座をしてようやく謝罪のはじまりだそうだ。
そんな鬱屈した人生を歩んでいる彼にも唯一趣味と言える事があった。それは風俗通いだ。嬢との営みを一通り楽しんだ後は説教タイムの始まりだそうで、この際に若い女に相手にされている・若い女に上からものを言っている自分に酔いしれるそうだ。また風俗云々は関係なく普段も若い女性と話すときだけは饒舌になり、機嫌がいいときは調子のいい事ばかり話すのだが、先述の悪臭や生理的嫌悪感を誘発する数々の要素のために、関わりのある全女性(いやむしろ地球に住まう全女性)から生理的に無理だと避けられている。無論地球に住まう全男性もまた彼を嫌っている。もちろん私もそのうちの1人だ。
彼を慕う者は過去にも未来にも誰ひとりおらず、彼女ができた事ももちろんない。しかしそんな寂しい人生にコンプレックスを抱いているので「老若様々な女を抱いてきた。それに普通にしてるだけなのになぜかモテてしまう。」と馬鹿でも即気付く大嘘をしょっちゅうつく。もちろんそんな戯言は全員に見抜かれているのだが。
最近彼の歩行時の足取りに違和感があるのだが、なんでも股擦れが酷い為に年中膿んでおり、その痛みから歩き方が変になってしまうそうだ。その分泌された膿もヒマを見つけては(公共の場でも構わず)、趣味で履いている際どい女性用下着の中に手を入れ刮いで食べているそうで、最近はひと舐めするだけでインキンタムシの密度とそれらの潜伏期間が分かるようになってきたそうだ。
あと40代半ばにも関わらず乳離れできておらず、定期的に70歳近い母親のしなびたヘチマのような乳を吸わないと不安のあまり尿を漏らしてしまうそうだ。なので大人用オムツを履いており、それもまた母親に取り替えてもらっているらしい。
…長くなったが、そんなこだわり抜かれた至極の汚物である彼こそ、今回私が訪れた洋食亭"ベトベト"のオーナーシェフ(自称)(実際は店とは関係ないのに店員になりきってるキチゲエ)丸沼ヂボヒィ氏である。
ヂボヒィ氏は私がキャッサバの煮浸しを食べている最中、じつに気の利いた素晴らしい行動をしてくれた。
「フンフ〜ン♫調理の合間に水のピッチャーを持ってフロアのお散歩〜♫…ん、あ。」
そう言うと、ナチュラリーな動きでチョロチョロチョロと私の空いたグラスに水を注いでくれたのだ。これが先に私が注文した"本日のシェフの気まぐれおひや"の正体である。
べとべとの洋食はマズくはないが特段美味しくもない。本場のパクりを国産の材料でバイトに安く作らせているだけなので。
足皮すすむ・1999年
『ヂマヌィム・オムホ』
一、本調子マヌ
私の過去の書籍にも幾度となく登場しているラーメン店「ギブミーチョップスティックス」についてレビューサイトを見ていた所、興味深い事例に出会した。
どの口コミにも共通してとある名前が挙がっているのだ。
その名前とは「ヰヰヂマ」。"いいじま"と読むそうなのだが、なんでもかなり有名なラーメンブロガーらしい。
1日3食全てラーメンで、毎食後にブログに必ずレビューを書くそう。毎日ラーメンしか食べないとなると体にもガタが来ると思われがちだが、彼はそれをなんとか緩和する為にも基本的に空いた時間はジムで摂取したカロリーを相殺するための運動に勤しんでいるそうだ。
私は行きつけのラーメン店ギブチョプのレビューを、そんな有名なブロガーがどう評価しているのか気になり彼(デブ)のブログを拝読しに行った。
以下はその抜粋である。
『箸をよこせ!』
本日は四国のどっかにある三郎系ラーメン店ギブミーチョップスティックスにお邪魔しました!面白い屋号だ。変わり者アピールしてる奴程サムい!
噂に聞くところ、三郎系にしては珍しく替え玉が頼めるとか。(お腹IPPAIになっちまう。ゴミクズしね)
このブログには何度も書いていますが、私にとって替え玉の"か"は「介錯」・"えだま"は「枝豆」を現しています。つまり切腹をしている最中に、そのあまりの痛さ・辛さのために介錯を頼んだら、2粒の枝豆を口元に支給されただけでしたが頑張って絶命しました。という意味だと申しておるのです。
そんな私にとって替え玉は厳しい目で見るべき行為であり、私はこのやたら評判のいいラーメン店には敢えて真っ向から否定的な気持ちで挑んでみた。
この店はあまりに有名なので、同店舗内でジーンズのお直しをしていたりジュエリー屋を兼ねている点はもう皆さんもご存じであろう。なので今回は、最近新しく導入されたギブチョプオリジナルのビジネスモデルを紹介しようと思う。
まずひとつ目は壁だ。壁一面に太ったヤスデの死体がビッシリと貼り付けられており、ヤスデの向きによってできあがる凹凸が見事なアートを作り出している。光の反射で店名が浮かび上がるという工夫がされているのだ。うむ、面白い。
そして次に店内の電飾だ。ラーメン屋ではあるのだが、その雰囲気はバー風に仕上げられており、店内は薄暗い。しかしながら少数の電飾で明かりは担保されており、その電飾は店舗スタッフのアルバイトが常にスタンドを持ち上げているのだ。さらにそのまま動き回る事で光が揺らめき、目は疲れるものの二度と同じ景色にはならないという粋な計らいよ。
昨今様々な味のラーメンがあるが、こうして店舗マネジメントにまで足を踏み入れている店はなかなかない。とはいえ結局のところ店舗の外側はどうだっていい。味だ。味が全て。
私はヲニヲニというオリジナルラーメンを注文し、それを食べた。美味い、美味すぎる。
あまりの味に感動したので、店舗裏のゴミ捨て場にあったゴミ袋を勝手に持ち去り、自宅でそれを広げて内容物を調査してみた。
スープを取るための骨…いや骨組みは、近くの建築現場と業務提携をし貰い受けたもので、"(ホネ)グミ"というだけあって通常の骨よりゼラチン質とコラーゲンたっぷり。それを、ただの水ではなくなんと明鏡止水を使って煮立てている。丸3日半と飛んで1分半炊くとスープができるようだ。
麺は自家製麺。小麦粉100%ではなく他にもいろいろな粉がブレンドされている。片栗粉、薄力粉、塩、脱脂粉乳、粉吹き芋の粉、ホコリ、フケ、冬の肘、…それらを明鏡止水で押し固め、いろいろ職人技をぶち捻りこんで、いろいろなことを経て麺になるんだぜ。
そして具材だが、もう見てわかる通り定番のチャーシューは本来の豚肉ではなくモチモチとしたハンバーグなのだ。これがまた絶品でポテトとよく合う。
ヤサイと呼ばれるもやしとキャベツ群には、仕上げのスパイスとして蛾の鱗粉がかけられてる。
非常においしかった。820ヰヰポイントをさしあげました!
彼のラーメンブログの記事の最後に必ず登場するヰヰポイント。これはヰヰヂマ氏独自のポイントシステムで、1000ヰヰポで1モンスーンを受け取れるのである。
ちなみにモンスーンというのは季節風という意味であるが、この場合はヰヰヂマ氏の吐息を首筋にかけられるという意味なのである。
二、チ
ある日私は、鼻歌を歌いながら商店街を闊歩していた。
すると何やら怪しいテントを発見した。入り口には『怪談師モリャヴニュのトークショー』とあった。
あの伝説的な怪談師モリャヴニュ氏の怪談を生で聞けるなんて、なんという光栄。
夏になればあらゆるメディアに引っ張りだこ、自身がパーソナリティをつとめるラジオ番組も視聴率85%を常に叩き出しており、ここ日本において怪談といえばモリャヴニュ氏といっても過言ではなかろう。
しかしなぜモリャヴニュ氏の話はこうまで恐怖度が高いのだろうか。真相を調べてみることにした私はその足でテントに入り、受付で会計を済ませて席についた。
やがてテント内は真っ暗になり、簡易的な椅子に腰掛けたモリャヴニュ氏の周辺の蝋燭がボウっと点火され、ぼんやりと薄暗い空間をつくりだした。
「いやはや、みなさん本日はお足元の悪いところようこそおいでくださいました。さて早速ですけど、この商店街に来るまでの道で何か気づきませんでしたか?あなた、どうです?」
客席にいた1人の女性が応える。
「いえ、なにも…」
「んー、そうでしょうね。けどね私ね、聞こえちゃったんですよ。声が。」
((((ドキビクリンコ))))
「その声ね、小さな小さなか細い声で"振り返るな"…って言ってましてね、けども私もうこの歳でしょう?耳が聞こえにくいのでつい、え?なに?って言いながら振り返っちゃったんです。そしたら真っ白い肌をした女が立ってまして、"いや振り返らないでほしかったんですけど…"って言いながらスゥ…っと消えちまったってわけ。根性ナシィィ!って、年甲斐もなく叫んじまいましたよ。」
観客は皆ドッとウケていた。椅子から転げ落ち、上空に向けた足先をクネクネ動かして、まるで漫画やアニメの1シーンかのようなウケ方をする者もいた。
モリャヴニュ氏の背筋が凍りくような怪談はまだ続く。
「よく、耳鳴りがするときは霊と目が合っている…なんていいますよね、実は私、昨日の夜耳鳴りが突然きましてね…」
((((ドキビクンドックンピクピクンドリンコ))))
「その耳鳴り、なんか変なんです。ただの耳鳴りならツーーーっと段々と治っていきますが、治らないんです。しかも、その耳鳴りの奥に何か聞こえるんです。何かボソボソと…小さな声で…なんだろうなあとしばらく耳を澄ませておりましたら段々と分かってきましてね、今思えばどうやら"声が聞こえたらすぐ逃げろ"って言ってたらしいんです。…けどね、私同時進行で耳鳴りが酷いわけですからその時全く理解できませんでして"お前が催した耳鳴りのせいで聞こえん。もっかい言ってくれ。"と怒鳴り散らしたんです。すると少しずつ音量のツマミを弱→強にするかのごとく小出し小出しに言葉をいうんです。なんだって?そら豆ならキウイがなんだ?え?あなんだって?高速バス入りメロンの苗木揺らめくダブルナースバーガー?キッチョムほとばしるオデコ!ナウいキャンバスライフを送りたきゃメゾネット尻ピチにヨーグルトボムヂャイヂャヂャイ?よくわからん!大きな声で言ってくれ!!って怒鳴りましたらね、耳鳴りがスッと消えて"申し訳ございませんでした…"って言いながら私の目尻に捉えていた黒い影がスゥっと消えたんです。だから根性ナシのアホンダラ!!って年甲斐もなく叫んじまいましたよー。」
テント内全体が笑いの渦に巻き込まれた。
モリャヴニュ氏による、背筋が凍りすぎて氷柱を背負ってるみたいになってもおかしくはない怪談はまだまだつづく。
「私今日ね、身支度をしている時に鏡を見ていたんですね。そしたら私の真後ろ、真後ろですよ?なんと黒い影が現れたんです。」
((((ギクドキバヌンゴリゴリランランフニューーメリメリッゴキャ!!!バクバクドキドキリンバヌューーーンw))))
「けど私もうこんな歳で老眼もだいぶ進んでましてね、多分西陽に照らされた私の影ですねあれは。」
「「「「おいおーーーいばかだかよ!」」」」
ーーーこうして私の短い生涯は悲痛な叫びを上げながら幕を閉じた。
三、事実は小説よりプェなり
頭狂都知事といえばでお馴染みのレッチョムまさこ氏。彼女の能力は幼少の頃からほうぼうで注目されており、100年に1人の逸材とまで謳われたまさに秀才である事は読者の皆様もご存知だろう。
しかしながらそういったいわゆる『少し突飛した人』というのは、常識では計り知れない生活を送っている事がある。
私は学生時代の伝手で今回レッチョム氏の私生活に密着する事ができたので、彼女の1日をここに書き記してみようと思う。
ーーー頭狂都内某所。
私は待ち合わせに指定された駅前の古墳でレッチョム氏を待っていた。この古墳は歴史的建造物などではなく、レッチョム氏が死後埋葬されるためだけに建てられたもので、都民からすれば邪魔で仕方ないので仕方なく待ち合わせ場所になったのだ。
レッチョム氏は待ち合わせ時間だというのにまだ来ず、また連絡のひとつもないので心配していたところ、何やら聞き馴染みのある声が聞こえてきた。私の左鼓膜を震えさせたのだ。
しかし私は今その声に耳を傾けている場合ではない。何故ならレッチョム氏と待ち合わせの約束が最優先だからだ。もし左耳に聞こえてきたソレがあまりに私の興味をそそる内容であった場合、私はそれに注目してしまい待ち合わせというタスクの前にせり出てきてしまう。それではレッチョム氏に失礼極まりないというものだ。
ただでさえこの大都会頭狂は街の喧騒で気が散りそうだというのに、私の左耳はそんな喧騒の中からさらに気になる音を拾ってしまったのだ。
"オーイアシカワサンッオクレテスミマセン"という音だった。音の中に偶然にも私の苗字と同じ響きもあったが、そうやって私の興味を引きレッチョム氏との待ち合わせを後回しにさせようという作戦だろう。
その手に乗るもんかと思った私はカバンの中から耳栓を取り出して装着し、音という敵を排除した。
しかし次は何やら手のようなものが私の目の前を前後左右動いているではないか。女性的なスラリとした細長い指を、なんと贅沢にも5本携えた手のようなその物質は、私の気を引こうと私の視界に入っては消え、消えては入り、手首から上の向きを変えたりして私の待ち合わせタスクを後回しにしようと奮発してやがる。
私はまたもやカバンの中から耳栓を取り出して、今度は眼球に触れぬよう気をつけながら上下の瞼で挟んでギュッと目を瞑った。これで私の視界に邪魔者は入らなくなった。
しかし一難去ってまた一難。今度は私の左肩に直接小さな衝撃波が訪れた。ぽんぽんと2度、それを1セットとして数セット、リズムよく衝撃波を発してきている。頭に来た私はカバンから耳栓を取り出し、袖口から肩に詰め込んでその衝撃波から肩を守った。
これにて聴覚・視覚・触覚に於ける邪魔を全て排除する事ができ、ようやくレッチョム氏との待ち合わせに集中する事ができるようになった。
しかし…これで諦めるようなエネミーではなかった。
次にそいつは私がこれまでに装着した各所の耳栓を引っぺがそうとしてきてのだ。あらゆる感覚を閉ざしたとはいえなんとか咄嗟に避けられたが、次にどんな角度から引っぺがし攻撃が来るか分からない。であれば、攻撃は最大の防御。私は両手を広げてその場で体を軸に回転した。
これでエネミーは近づく事ができないはずだ。近づこうものなら2000年代のコギャルのような私の爪がエネミーの動脈を真っ二つに引き裂くだろう。
これこそ無敵。…だと思っていたが、まだ弱点は残っていた。嗅覚だ。私が回転する事で起こった小ぶりな竜巻による空気の流れに運ばれて、私の鼻奥の神経はとある匂いを感知していた。コスメスメルだ。
Lotfのコスメコーナー、その試供品の数々でメイクアップ☆した者のスメルが私の角栓たっぷり団子っ鼻にてスキャニングされた。
しかもそれはレッチョム氏の毎日のメイクアップルーティンと同じなのだ。つまりそういったスメルでレッチョム氏になりすまして、私の気を引こうという魂胆だろう。
だが、馬鹿め。私は片方の手でカバンから耳栓を取り出すと、それを両鼻に詰め込んだ。(もちろんその間もまだ回転し続けているので遠心力もかかって大変だったが、根性だけは誰にも負けないし、学力も誰にも負けない。あと収入面でも誰にも負けないし、優しさや時折見せる色っぽい表情なんかも誰にも負けない。)
鼻口にヘカトンケイルを召喚した私にとって、待ち合わせより優先したくなっちまう事なんて何もない。さあ、かかってこい!
…そう思った瞬間だ。まだ残っているではないか。ーーー味覚。顔と呼ばれる部位のやや下半分に位置し、上下に設けられた柔らかな肉壁を超えた先にある純白の門。それをも突破しようものならいやでも辿り着くであろう、不思議でおもしれえ物質舌。その舌の上にライドオンした物質から発せられる信号を検知し脳に伝えるまさにそれこそが、舌。そいつが感じるまさにそれこそ味、つまり味覚だ。
エネミーはそんな完全防備の設備を超えた先にある私のデリケートな舌にも気が散る事をしてきたのだ。それは前書きにも登場した丸沼ヂボヒィ氏による濃厚なキスだ。しかも、舌を入れてきやがる。
苦いとか甘いとか辛いとか、そういう所謂"味"はない。しかしながら確実に不潔で不快で不衛生な気持ちの悪い味のようなものがそこにはあった。
私は数秒と持たずに嘔吐してしまい、ヂボヒィ氏から唇を離した時には吐瀉物とヂボヒィ汁が混ざった、おそらく地球上で最も汚い液体が互いの唇の間で糸を引いていた。
私はなかなか嘔吐が止まらず、ついには鼻からも噴出してしまった。そこから涙腺を通って目にも到達してしまい、さらに私は先まで回転していた感性を抑え込む事ができず嘔吐しながらも回り続けているのだが、するとどうなるかは容易に想像がつくであろう。ボミットスプリンクラーの完成ってワケ。そんな大量の吐瀉物を撒き散らすもんだから服は溶けてしまった。
つまり何が言いたいかというと、これまで蓄積してきた耳栓たちが吐瀉物によって流れ落ちてしまったのだ。
しかしそんな不幸のさなか、なんと偶然にも目の前にレッチョム氏がいるではないか。
「いやあ足皮さん、散々でしたね。お待たせしまたし私です。」
「遅いじゃないですか、私もうこんな汚れちゃって…今日は一旦おひらきにして、後日改めて集まりなおしませんか?こんな見た目と臭いですし…」
「オレもそれがいいと思うぜ、お二人さん」
最後のヂボヒィ氏のひとことでそれは決まり、私とチョムレツは後日集まることにして、その日は皆でLNIEでしりとりをしながら帰った。
〜あとがき〜
ペヂィ。