むきえび (後編)

(前編をお読みになってからこちらをお読みください。マジで。)


ポリスメンは少したじろいでから言う。
「お前…本当にもう脱獄ルートを考えちまったのか…?わ、わかった。それなら俺はお前のせいで無実の罪でここに入れられたわけだから、むしろお前は俺を連れて脱獄するべきだ。明日の朝だな、同行させろ。」
「よしそれなら準備がいくつかあるのでそれをさっさと終わらせるぞ。ここだと目立っちまうから森に入ろう。」
〆々とポリスメンは来た道を戻り森に再び入った。
ゼビーンはそれを、何か含みを持った目つきで見ながら誰かに糸電話をかけたーーー。

森に入った〆々とポリスメンは、木の何本かに印をつけていた。
それは〆々の歯のカルシウムで生成したスプーンで、幹に傷をつけているのだ。
ポリスメンが問う。
「しかしなあ、これが脱獄に繋がるとは到底思えないのだがなあ。」
「そう思うならこの島に残ってもいいぜ。ただし帰りのチケットはこれっきり。あとは寿命を全うするまでこの島に居続けなきゃならんけどな。」
「わかってるさ。ただ俺はお前を信用しきっていいものか、まだ思案してるところだ。」
「そうかい。」
2人は黙々と木の幹に印を付け終え、日が暮れた頃。
「よし、ようやく暗くなったな。それじゃ、さっきセッティングした紐を持ってくれ。
ポリスメンは幹の印の数々に沿って結ばれた紐の端を持ち、〆々に着いて海岸へ歩き出す。
「よし、俺が合図を出したらその紐を地球の反対側に到達させる勢いで思い切り引っ張ってくれ今だ!」
突然の合図にポリスメンの腎臓がフニョンとしちまったがなんとか耐えまくり、思い切り紐を引いた。すると大きな音を立てて森の木々がバタバタと倒れ始めた。
そしてそれらは紐の絡まり合いによってイカダの形になり、さらに紐を引く力のおかげでイカダが引き寄せられ、今目の前の海面にプカプカと浮いている。
ポリスメンが目を丸くして驚いた。
「す、すごい…森の木を一瞬で切り倒し加工してイカダにしちまうなんて…。」
「それだけじゃねえぜ。見てみな。」
〆々はそう言って森の方を指さすと、なんと今までなかったはずの看板が立っていた。そこには"じゃあな!うだつの上がらない社会不適合ウスノロ廃棄物ども!便沼〆々と手下の警官より。"と書かれていた。なんと余った端材で看板を立て、煽り文句までも書き記したというのだ。
「さ、これに乗って刑務所財団の船が去った方向へ漕ぎ出すぞ。」
〆々とポリスメンはイカダに乗った。しかし。
「あれ、動かない。おかしい、イカダが動かない。」
「…おい便沼、お前オール作ったか?」
「しまった…。」
イカダを作ったはいいが、この島には布地がなかったので帆が立っておらず、だからといって漕ぎ出す為のオールもなかった。
2人はただ海面にプカプカ浮かぶイカダみてえな木材の上に乗っているだけとなってしまった。
やがて先に訪れた村の住人達であろう数十人の人影が森の奥からこちらに向かってきた。
「お前ら待て!脱獄する気だな!しかもなんだあの看板は。俺達がうだつのナントカカントカだと!?とっ捕まえろ!」
\ワーーー/\ナーーーーー/
村民に捕まってしまった2人は、村の中にある監禁施設に入れられてしまった。
木材を頑丈に組み立てた、わずか4畳ほどの広さの小部屋に檻がついており、そこに2人共入れられた。檻の前に村民がおり、怒りの表情でこちらを見ている。そしてその村民達の中からゼビーンが出てきて言う。
「お前らの処遇は明日考えてやるとして、ひとまず今夜はここで寝ろ。飯は抜きだ!テレビも禁止!」
ゼビーンはどうやらこの村の長のようで、村人達にチヤホヤされながら遠くの方へ消えてしまった。
「さて、どうする便沼。」
「ここを抜け出す。」
「いやそうじゃねえ。まず謝罪だろ。お前のせいで終身刑喰らうわ刑務所の中の刑務所みたいな所に入れられるわで散々だ。」
「わかった、ここを抜け出す。」
「頼んだぞ。」
便沼の目は決意に燃えて重度の結膜炎を起こしていた。のちのインタビューで凄くかゆかったと供述している。

七、チギョ
便沼は頑丈に組み立てられた木製の壁をひと通り見て、それから檻を観察して目を瞑った。
「何かわかったか?」
ポリスメンが尋ねると、〆々はひと呼吸おいてこう言った。
「おい、これ見てみろ、この檻。」
「檻がどうかしたか?」
「この隙間、ここに体をこう…横にして入り込むと…。」
なんと檻の隙間があまりに広く、また木独特の"しなり"のおかげで隙間を通れてしまった。
「あれぇぇぇ!?」
「この檻を作った人はおそらくドジ…こんなにしなりの良い木材を使うなんて、相当ドジだ。」
ポリスメンも後に続いて檻をすり抜け脱出し、村民に見つからぬよう抜き足差し足忍び足で再び森の中に入っていった。
そして先ほどの紐を使った木材加工と同じ容量でその場にベッドを2つ用意し、大イビキをかいて激眠った。

翌朝。
「おい便沼、あれなんだろう?」
〆々が顔を上げると、向こうのほうで狼煙が上がっている。
「あそこは最初の村とはまた別の方向だ…最初の村以外にも人がいてそこに食い物があるなら行ってみる価値はあるな…。」
「行くか、行こう。行こうよ便沼。脱獄は失敗したけど、それならそうで生きていかなきゃ死んじまう。」
2人は村の外側を大回りして狼煙の方向へと歩いていった。

しばらくすると小さな山の山間に辿り着いた。この島どうやら思っていたよりも広大らしい。そして先ほど見つけた狼煙の麓まで歩むと、ポツリと小さな小屋が一軒とその近くに焚き火、そしてその横にある椅子に腰掛けている老人がいた。
しかし火は焚かれておらず、なんと先ほどの狼煙はその老人が咥えている極太タバコから出た煙であった。
「モグォフ…ォゴオガ?ォンムォゴホフ、オモンゴヴェア」
「すみません、その口いっぱいのタバコを取ってから喋ってはいかがですか?」
老人は両手で極太タバコを掴み左右に揺らし、ようやく捻り出してからこう言った。
「ゲッッッホ!!ヴゥゥア"!ォ"ッ…ゲッホァゲホ!!ォ"ッォ"ッォ"ッ!!!ヴヴウゥゥゥゥェェェェエエエアアアアア"""!!!!!カーーッペ!」
「そうだ水…水を飲んでください!多少は治るかと思います!」
すると老人は腰掛けていたその手作りの椅子の後ろから水の入った小瓶を持ち上げた。
「それですそれです!その中の水を飲んで喉を潤してください!」
しかし老人はその小瓶にピッタリの筒状のものを差し込むと、なんとシーシャとして吸い出したではないか。
「プッカプッカプ〜」
「すみません、あのもう吸ってていいんで話を聞いていただけますかね。」
「プップカプ〜」
〆々とポリスメンと彼の腹内にいるサナダムシはこれまでのいきさつを老人に話した。
「かくかくしかじかそういう事でヤニカスのあなたの元にやってきた次第であります。」
すると老人は一呼吸おいて、深く息を吸い、こう言った。
「スゥッ……つまりゴホァア"!!ゴェッホッホッホ!!!ァ"ァ"ァ"ァ"エ"ッエ"ン!!ウァ"ッヲ"ンン"!!グゥァァァッホッホッホ!!!ゲホォォォォォォ(キィーーーーーーー⤴︎⤴︎)」
「すみません、まだあなたの名前すらお伺いしてませんでしたね。まずは名前だけでも結構です。教えてください。」
「スゥッ……私の名グゴォォォッホ!!!グェッグェッグェッ!!ああ痛い痛いゲェ"ッッヘェェェ"!!!ゥ"グォーーー!!!(キィーーーーーーー⤴︎⤴︎)」
ポリスメンが〆々に言う。
「これじゃあ埒が開かないよ。この老人の名前は俺達が決めよう。」
「私もそれが良いと思うわ。」
「サナエもそう言ってるし…サナエ、君が決めてくれ!」
ポリスメンが自らの腹をポムと叩き、突如登場したサナダムシのサナエに老人の名付けを任せる。
「そうね…豚老丸(ぶたふけまる)なんてどう?」
「なるほど牛若丸に因んで豚老丸…こりゃいいぞ!」
普段あまり笑わない〆々も、豚老丸爆誕のこの時ばかりは口角を目尻の真横まで上げていた。その笑顔は単に豚老丸の誕生を喜んだだけのものではない。彼は常に脱獄の事を考えている。そうつまり、〆々・ポリスメン・サナエ・豚老丸の4名での脱獄作戦を考えついたというのだ。

その日の夜、豚老丸の住む小屋で豚老丸お手製の夕食をご馳走になった。
「ゴッホォォ!!うぇー…苦しガガァッホォォォ!!オ"ェーーエエェエェエエ""!!!グゥァァァッ…夕飯ブォァァァッホォ!!!グオ…オェ"…夕飯ン"ナ"ァ"ァ"(ッスゥ…)グェ"ェ"ェ"エ"エ"エ"エ"フォ"ォ"ォ"ォ"ォ"オ"オ"オオ"オ"!!!!!」
ポリスメンは夕飯として出てきた米の入っていないいなりずしを見て大歓喜した。
「いやはやこれ僕の大好物ですよ、いなりずしの皮!!甘くて美味しいからデザートとしてもいけちゃうんですよね〜!」
〆々もひとくち食べ舌鼓を打つ。
「うん、これは本当に美味しい!どうしてこんなに美味しいのか考えてみたんだけど、発酵がキーになってる気がするよ。」
「僕もそう思うよ。豚老丸さんの咳に乗って飛沫した唾や痰がいなりずしに付着し、それが発酵して旨味成分であるグルタミン酸やアミノ酸がつくられた…豚老丸さんだからこそできる味だ…!サナエは僕が食べたやつが流れてくるのを待っててね。」
「ええ、私もう今から楽しみでわくわくしちまう!」
小屋での夕食は皆が笑い(咳きこみ)、非常に和やかなものとなった。一瞬ではあったが、皆が皆自分が終身刑である事を忘れられた。
そして翌日ーーー。
「さあ、今日決行だ。」
そう言いながら起き上がった〆々。ポリスメンと豚老丸もすでに起床しており、もちろんポリスメンの腹内にいるサナエも、流れてきた昨晩のいなりずしを食べながら朝の身支度と洒落込んでいたところだ。
そして皆が一斉に小屋を出て、村の方へと歩き出す。皆の目はまるで燃え盛る炎のような、そんな決意の目をしていた。
村を大回りで回避しながら、先日脱獄に失敗した時のイカダまで辿り着いた。
帆は相変わらずない。しかし〆々には考えがあった。
「よし、皆このイカダに乗ってくれ。」
そして豚老丸をイカダの一番後ろに座らせ、頭を掴んで海面に顔を沈めた。
「さあ豚老丸!今なら思い切り咳き込んでいいぜ!」
「グォォォボゴボゴボゴボゴ!!!ゴッブォォ"!ゴェ"ェ"ェ"ェ"ッボゴボゴ!!!ボゴッボゴゴゴゴォォ"!!!」
するとどういう事だろう、イカダが豚老丸の咳のおかげで進み出したではないか!
「よし、動いた!」
「動いたぞ!やった!でかしたぞ便沼!!」
「いいやでかしたのは豚老丸さ!そのまま咳き込み続けろヤニカス!」
このまま順調に島を離れられる!…と思ったのも束の間、奴らが現れた。そう、ゼビーン達村の人間だ。
「お前らー!また脱獄する気か!とっ捕まえろ!」
イカダはまだ浅瀬におり、村人に追いつかれてしまってはまた捕まってしまう。するとポリスメンの腹の中からサナエがポリスメンに向かって声をあげた。
「セミみち、下半身を出しなさい!」
「え!でもみんな見てるし…。」
「バカなこと言わないで!私に考えがあるの…。」
「でも恥ずかしいもんは恥ずかしい!僕の腹の中以外周りは男しかいないとはいえやっぱ気にしちまう!」
「んもう仕方ないわね…ええい!」
サナエはポリスメンのアヌスから半身出すと、ズボンとパンツをズリンと下ろした。
「ひゃいい!!」
「さあガニ股になりなさい。ここで捕まるわけにはいかないわ!」
「ひゃいい!!」
悲鳴を上げながらもガニ股になるポリスメンことセミみち。そしてその瞬間、頭脳派サナダムシのサナエが考えついた最高の攻撃が繰り出される。
ポリスメンは不可抗力にもそのケツからサナダムシのサナエを露出し、サナエは今しがた小腸から届いた若い便を丸めて弾にし、村人へ向けて投げつけたのだ!
「ひぃぃ!あいつウンコを自在に操ってるぞ!」
「キメェ!撤退!撤退だ!キメェので撤退だぁ!」
そのあまりの気持ち悪さと、一発ですら当たってはいけない事もあって村人達は撤退していった。
そして推進力の豚老丸、大砲のセミみちとそれを扱うサナエ、そしてキャプテンの〆々…。このイカダが一艘の海賊船となり、自由という秘宝を求めて大海原に繰り出したのだ!
さあ、あとはどこか大陸が見えてくるまでひたすら豚老丸に頑張ってもらうのみ。
ーーー島を出て数百kmは進んだだろう頃。豚老丸も休憩が必要だろうという事で、皆で休憩することにした。
「いやはやどうなるかと思ったけどなんとか抜け出せたな。」
「サナエが俺の腹の中からサポートしてくれたおかげさ。」
「ふふふ、礼には及ばないわ。また豚老丸さんのいなりずしをたべてくれればね!」
「…ハァハァ…ッグォッホ!!ッハァ、ッハァ…。」
咳のしすぎですっかり酸欠、見渡す限りの大海原とそれに負けないくらい青い空よりも青い顔をした豚老丸の体力回復にまだまだ時間がかかりそうだったので、もう数十分休むことにした。
しかしーーー。
「お前ら…やっと見つけたぜ…。」
後を追ってきたゼビーンがとうとう〆々達を見つけてしまった。しかもなんと手には吹き矢を持っている。
「少しでも逃げようとしたらこの吹き矢で脳天撃ち抜くからな。」
「クソ…しつこいぞゼビーン!なぜそこまでして俺達を連れ戻そうとする!」
「お前が俺の作った最高傑作の檻をその素材のしなりを利用して抜け出したばかりか、俺の最大のコンプレックスでもあるドジである部分をわざわざ口にしたからだ!末代まで呪ってやる…!」
「ゼビーンもうよせ!お前は…お前は確かにドジさ!ドジだし前科持ちだし、俺達と違って顔もかっこよくないから社会復帰したとてどこも相手にしちゃくれねえさ…。」
「なにぃ!?」
「けどなゼビーン、お前は大事な事を忘れてる。」
「大事な事?」
「そうだ、とても大事な事だ。何かわかるか?」
「…いいや、分からねえ…。」
「そうか、それじゃあ今すぐ自分の家にあるであろう自信のプロフィール帳やなんらかのメモ書きなんかを根こそぎ調べて思い出さないとな。」
「確かにそうだな…それじゃあ俺帰るよ。」
こうしてゼビーンは自作の木製ビート板に両手を掛け、バタ足で島の方へと帰っていった。
「強かった…が、勝ったぞ…。俺達やったんだ…!俺達勝ったんだよ!」
4名は大喜びし、これから待っているであろう本土での人生に胸ときめかせた。
「さ、豚老丸。そろそろどうだい?まだ先は長いから、ここいらでちょいと1000kmくらい進んでくれねえか?」
「グェッホ!」
咳こみながら親指でグッドサインをしてくれた豚老丸の頭を、〆々は掴むや否や再び海中へと沈めた。
そしてそれから2晩が過ぎたーーー。

八、そしてメニョム
「ああ、ついにあったぞ!」
地平線の彼方に大陸を見つけた〆々達。
「あと少しだ豚老丸!頑張ってくれ!」
しかし。
「グォッフォ…」
豚老丸が水面から顔を出してその場に倒れ込む。刑務島から実に3000km以上の距離を咳の推進力のみで進んできたため、老体の豚老丸には相当応えていたようだ。
その青ざめっぷりといったら、ブルーマングループよりもはるかに青い、むしろ"黒に近い紺色"まで青く変色していた。しかも海水を吸ってブヨブヨになっており、名前も聞いたことないような森の奥に住む民族が彼らのしきたりとして神に捧げる果実のような見た目だなと思った、と〆々はのちのインタビューで語っている。
「ちくしょうあと少しなのに…ここで飢え死ぬわけにはいかないってのに…。」
すっかり紺色になった豚老丸を休ませている間、頭のいいサナエがまたもや名案を提案した。
「セミみち、脱ぎなさい。」
「ひゃいい!」
「そして海面にケツを浸しなさい。」
「ひゃいい!」
ポリスメンことセミみちがそのイボイボして汚らしいおしりを海面につける。
「私がセミみちの腹の中でとにかく便を発酵させるわ。するとガスが生まれる…。そのガスを噴出させて進むのよ!」
頭脳派サナダムシのサナエ、やはり天才である。海面に浸されたおしり。やがてそこからエンジンをかけ直したかのようにボコボコと泡が出てき、そして大きな音と共に飛沫をあげながらイカダは再び進み出した!
「よし、よし!行けるぞ!」
ポリスメンの尻から放たれるたくさんのオナラ。そしてそれによって上げられた大量の飛沫を浴びてビショビショになりながらも、希望を捨てずに目の前に見える大陸に向けて進んだ。
そして屁で進みながら4時間が経過した頃。
「はぁ、はぁ、私もうダメ!発酵させるエネルギーも残ってないわ…。」
それに対して〆々が言う。
「いやサナエ、大丈夫だ。見てみろ。」
「え?」
放屁のしすぎでぐったりしているポリスメンのおしりからニョムっと顔を出して〆々の指さす方向を見る。
「ああ、ああ!!」
なんともう島まで10メートルのところまできていたのだ!
「あとは泳いで岸まで行こう!」
4名はイカダを捨てて岸に上がった。岸に上がり、まず自分達がどこに降り立ったのかを知るために看板や標識を探す事にした。
「あ、あった!」
その看板には"寿司ネタ専門店ギャラガーはコチラ"と書かれており、住所を見るとどうやらポリスメンの地元からそう遠くないようだ。
「やった、やった!俺の地元も歩いて30分すれば着く!よし、一旦俺のアパートまで歩こう。帰ったらシャワーを浴びたい…。脱獄させてくれた礼に、あんたらもどうだ?シャワーと飯くらいなら出せるぜ。」
〆々と豚老丸はポリスメンの提案に乗り、セミみちとサナエが同棲しているアパートへ向かい、自由の一歩を踏み出した。
30分後。ついにポリスメンの住むアパート"鉈憎荘(なだそうそう)"に到着した。そして暴れるようにお邪魔し、順番にシャワーを浴び、カップ麺ではあるものの昼食をとった。
「いやあ、まさか本当に脱獄できるなんて…。便沼、でかしたぞ。」
「ほんと、私も一生あの不潔な島に居なきゃいけないの?!エステやネイルやグランピングだってできないじゃないのよ!ってヒステリック起こしかけたけど、紆余曲折を経てこうして鉈憎荘でカップ麺を激爆食いできてるんだから、もうアレよね。」
「ケッホ///(嬉)」
「いやあ、みんなの協力のおかげだよ。みんなの能力がなければここまで辿り着けなかったんだから。」
「へへへ…さて、これからどうする?」
「そうだな、このままここにいれば時期に操作が入るはずだから、散り散りになって誰も俺たちのことを知らない所で生きていくしかないだろうな。」
「そうだな…。」
しばし沈黙が続く。
「せっかく逃げ出して来れたんだ。余韻に浸ってる暇はない。食い終わったら早速このアパートを出て各々別方向にいかないとな。」
「ここでお別れって事ね。」
「世話になったな。いや本当に。」
「グェッホ…(悲)」
「バッキャロウ…泣くんじゃねえよ豚老丸…。」
4名はカップ麺を食べ終わると早々にアパートをあとにし、それぞれが行き先も告げずに散り散りになった。

九、バッキャロウたち
さて、彼らが脱獄不可能とされていた島を脱出し行方をくらませてから実に15年の月日が経った頃。
脱獄当時世間では大ニュースとなり大騒ぎされていたが、時効を迎える頃にはほとんどの人がその事を覚えていなかった。
そして4名は散り散りになってからは会うことはなく、それぞれの自由を掴み人生を歩み直した。
便沼〆々は悪鬼亡悪県で小さな雑貨屋で白い小物を売って生計を立てている。使っている素材はもちろん自身の歯のカルシウムだ。これが頑丈でしかも独特な白く濁ったカラリングが主婦層にウケ、ウィンスタグラムを中心に大きな話題を呼んでいる。今後の目標は百貨店やデパートにもシェアを広げ、"歯を主成分とした食器"を食器の新常識にする事だそうだ。
ポリスメンとサナエはめでたく結婚し、悪悪毛痢県に素敵な一軒家を建てたそうだ。今は2人の子供にも恵まれている。もちろんヒトとサナダムシのハーフだ。
豚老丸は頭狂の郊外にシーシャカフェ"吹煙都(ふけつ)"を開業した。第二の人生をという事で現役時代のノウハウを活かし頑張ったところ、なんとシーシャ界では異例の年商800億を誇る大企業となり、今では都会の一等地にオフィスビルを構えているほどにまで成長した。
彼らが刑務所に入る前、そして入ってから脱獄をした事実はもちろん許されざる罪ではあるが、能力の矛先を変えるだけでこうまで素晴らしい人生が待っているというのは火を見るより明らかである。
そして月日は流れ、便沼〆々は自らの雑貨屋をたたみ、70歳でこの世を去ったとされている。

今現在刑務所という所は本書に記したほど体罰的な規制はない。しかしながら罪を犯した者が入る場所として当時よりも重警備となっている。
檻がシャボン液の幕で作られている刑務所など、もはやこの世には存在しないのだ。
また本書は犯罪を擁護・推奨するものではない。

これが便沼〆々をはじめとする脱獄犯が、日本全国の刑務所を痕跡なく突破し、のちの刑務所の常識を変えたストーリーである。
何度も記載するが、本書は犯罪を擁護・推奨するものではない。
読者の方々には絶対犯罪を犯さないぞという強い思いを持ってほしい。
無論私の文庫本を万引きなどしようものならムチ打ちの刑だ。覚悟しておけ。

著・足皮すすむ
訳・足皮シェリー

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