読解力をつけるにはどうしたらいいか
予備校で受験指導に携わってきました。
その中で受験について思ったこと、教育について考えたことを書き出しています。
今回は「読解力」をテーマにしましま。
なにかと必要と言われる読解力ですが、どんな力でなぜ必要なのでしょう。
受験生の話ですが、『問題を解く思考力』でつまずく以前に、問題文や問題の要求が理解できずにつまずく受験生が多いです。
つまり読解力がないといえる状態だと思います。
成績を上げるためにひたすら知識を詰め込んで問題演習をしても、問題文が読めないのであれば成績は上がりません。
例外として、以前解いたものとまったく同じ問題が出題されれば、「答えを覚えていた」ということで得点できる可能性はありますが・・・。
これでは勉強の意味をなさないですよね。
かなり前ですが、、、
そんなことを考えているときショッキングな本を読みました。
(著)新井紀子氏「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」
そこでは
●AIは言葉の意味を理解しているわけではない
●ではAIにできないことを人間ならできるのか?
●日本の中高生の多くは教科書程度の文章を正確に理解できない
●AIに役割を奪われないために人間には読解力が必要
ということが述べられています。(私の個人的なまとめです)
本書の中でも紹介されている、新井氏が作成した基礎的読解力調査テスト(RST)の一部を紹介します。
こちらの問題、全国の中学生の正答率は38%、高校生の正答率は65%だったそうです。
答えは①です。
中学生で最も多かった回答は④(39%)だったそうです。
新井氏は、おそらく「愛称」という言葉を知らず、知らない言葉が出てくると読み飛ばしてしまうことが要因ではないかと述べています。
「Alexandraは女性の愛称である」ならば意味の通る文章になります。
もう1問紹介します。
以下の①と②の文が表す内容が「同じ」か「異なる」かを選ぶ問題です。(記載の仕方を改変しています)
答えは「異なる」です。
こちら、中学生の正答率は57%、高校生の正答率は71%だったそうです。
約6~7割が正解している!十分に高い正答率だ!となりますか?
そうではなく、約3~4割が間違えるんだ・・・という見方をすべきですよね。
この2題に対する私の意見は、一言一句を正確に読もうとせず、目につくキーワードだけで「読んだ気になる」受験者が多いのではないか、ということです。
そこには新井氏が述べるように、分からない言葉が含まれていることも要因かもしれません。
そしてまさにAIは、言葉の意味を理解しているのではなく、ワードを拾って判定しているのだそうです。
人間がAIに役割を奪われないためには読解力が必要なのですが、多くの子どもがこの教科書レベルの文章の意味を理解するための読解力がない。
こういった内容に衝撃を受けるとともに、冒頭で述べたような受験生のことを考えると、とても納得感がありました。
ちなみに読解力値と進学できる高校の偏差値との相関は極めて高いそうです。
教科書を読めるし、読めば理解できるんだから、そりゃそうだ!って感じです。
なぜなら周りは教科書が読めていないのだから。
では、読解力を上げるにはどうしたらいいのかですが、本書によると明確な方法(読解力の高い人はなぜ高いのか)は分からないということです。
読書習慣や勉強習慣とはほとんど相関関係がなかったそうです。
(著)佐藤優「読解力の強化書」の中で、佐藤氏は、どれだけ読んでいるかよりもどのように読んでいるかが大切だと述べています。
まずは論理的に読む。そのために接続詞を正しく使うということはすごく実用的だなと思いました。
さらに批判的に読む。批判的を否定的と勘違いしている人も多いですが、批判的に読むとは「多角的に、いろいろな捉え方で客観的に読む」ことだと私は思いました。
こういった内容を元に、また受験生を見てきた経験を元に、私なりに「何を意識すれば正しく読めるようになるのか」の見解をまとめたいと思います。
時には受験生に目の前で問題を問いてもらいながら、「なぜこの本文・問題文の意味が理解できなかったか」を一緒に考えてきました。
意識としては「ありのままをキャッチする」ことが大切だと思います。
誰が・どんな状況(場面)で・何をして・どうなった?
こういった情報を丁寧に地道に一つずつ拾っていく訓練することからスターとかなと思います。
一つひとつの語彙・単語・表現を読み飛ばさないように集中して、「ん?」となる所で立ち止まれるようにする。
その「ん?」は、やはり読み飛ばしてもいい情報なのか、それとも深掘りする必要があるのか・・・を考えます。
これは時間がかかるし、しんどいし、面倒くさいですが、地道に経験を積むしかないと思います。
自分に違和感のないわかりやすい断片的な情報(ワード)のみを拾って、自分の想像で補っていては、読み違えてしまいます。
まさに紹介した基礎的読解力調査テスト(RST)の2題で見られた間違いをしてしまいます。
そんな大学受験生が本当に多いのです。
目につくワードを拾って理解した気になってしまうということを考えると、よくある穴埋め形式のプリントを使った授業スタイルも一長一短だと思いました。
効率よく、また受験生がハードル低く勉強するには有効な気がします。
しかしその空欄付近の単語のみを覚えて、その知識を理解した気になってしまう受験生が多いのも事実です。
授業の在り方もよくよく考えないとなと思いました。
ちなみに、よく言われる「行間を読む」というのは、正直とても上級編だなと思います。
基本的な読み方の姿勢を身につけた上で、登場人物のバックグラウンド、時代背景、さらには筆者のバックグラウンドまでを理解した上で、「この文章のここの表現は、こういうことなのか」と読み解くことが行間を読むことだと思います。
教養も高いレベルが必要で、大半にとってなかなか難しいのではないでしょうか。
しかし人と人とのコミュニケーションでは、相手のこと(バックグラウンドなど)をよく理解した上で、「行間を読む」ことは普通に行われているとも言えます。
そういう意味でも、やはり読解力って大事だなと感じました。
ただ文章を読むという事だけでなく、コミュニケーションという点でも。
今回は以上です。
ありがとうございました。