なぜ海外駐在員は帰国後に転職してしまうのか?
自己紹介
ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、営業職を経験したのちにアメリカの子会社に赴任。10年間超海外駐在しています。
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。
始めに
海外駐在員が日本に帰国後、転職を選ぶケースが少なくありません。
この現象の背後には様々な理由が存在しますが、私はその最大の理由は日本本社が海外駐在員のスキルセットや経験を正しく評価できないことにあると考えています。以下に、その詳細な理由を説明します。
そもそも駐在員の役割や業務内容を理解していない
実は日本本社は、海外駐在員がどのような役割や業務を担っているのかを正しく理解していないことが多いです。
私の所属する企業も海外駐在員はたかだか20名程ですが、海外事業部の事業部長ですら誰が何をしているのかすら理解していません。
そもそも駐在員の業務は、日本国内の業務を英語で行うだけではありません。
多くの駐在員は広範な役割を担い、異なるマネジメント手法や多くの意思決定プロセスを経験します。
現地のビジネス文化や市場環境に対応しながら、現地スタッフの管理やプロジェクトの遂行を行うことは、ビジネススキルの向上にとって非常に重要な経験となります。
ビジネスフェーズの違いによるスキル要件の不一致
日本と海外ではビジネスのフェーズが異なるため、求められるスキルセットも異なります。
そのため海外での経験が、日本の市場やビジネス環境ではあまり役立たないと見なされることがあります。例えば、急成長中の新興市場での経験や、多様な文化背景を持つチームのマネジメント経験は、グローバルな視点では非常に価値が高いものの、成熟市場である日本ではその価値が十分に認識されないことがあります。
結果として、海外での経験を持つ駐在員が日本本社での価値を相対的に低く見積もられることが起こり得ます。
職能給的な評価軸の限界
日本の多くの企業では、従業員の評価や配置を職能給的な評価軸に基づいて行います。この評価軸は、主に日本国内での等級や、業務経験、年功序列に依存する傾向があります。
海外という特殊なビジネス環境で、高い職位や意思決定権を持って業務を遂行してきた駐在員も、帰国後は日本本社の等級に基づいて帰任部署や役職が決定されることが多いです。
そのため、今まで担ってきた役割・職責との乖離が最大化してしまうと自分の経験やスキルが正当に評価されていないと感じてしまいます。
社内人脈の希薄化
役職にもよるかとは思いますが、海外駐在中に駐在員は日本本社での社内人脈を失うことが少なくありません。
日本の企業文化では、社内人脈が重要な役割を果たします。
駐在員が海外で貴重な経験を積んでいる間に、日本本社では新しい人脈が形成され、重要なポジションが国内事従事者によって埋められてしまいます。
本社の等級として部長クラスの待遇で海外駐在して日常的に本社とコミュニケーションを取っている上位職者だと、この人材構想から外れるということはないかもしれませんが、そこまで高くない等級だと駐在期間が長くなることは人材構想から外れるリスクにつながります。
海外人材に対する育成戦略の欠如
海外売上比率が高いグローバル企業であれば、海外人材に対する育成戦略が充実していることが多いですが、多くの企業では帰任後の海外人材育成戦略が不十分な場合が多いです。
そうなると、特殊な経験をしてきたにもかかわらず、結局は国内事業従事者と同じキャリアパスに戻ることとなります(実際には前述のように様々な社内資産を失うというハンデがある)。
まとめ
思い出してみるとアメリカへの赴任が決まった際、国内事業を担当する役員から「お前がそっち(海外事業)にいくとは思わなかったよ。」と言われました。
同じ会社でも「こっち(国内事業)」と「そっち(海外事業)」があり、全社の経営を担う役員の立場であってもそれくらいの区別意識があり、自分はメインストリームから外れてしまったのだと強烈に感じたのを覚えています。
海外駐在をするということは得難い経験を得られることは間違いないですが、それとは引き換えに社内資産を失うことも意味します。
海外駐在を希望するのであれば、それを覚悟する必要があります。
そして本人側から見ると、市場価値 > 社内価値となった時に転職という人材流出に至ってしまうのではないかと感じます。