『日本人の評価軸を熟知している現地社員に騙される駐在員』:日本企業が陥る米国進出落とし穴 その4
自己紹介
ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、アメリカの子会社に赴任。そのままアメリカで転職し駐在12年目に突入!
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。
はじめに
日本企業が海外進出する際に直面する問題の一つに、現地社員の評価が挙げられます。 特に、日本人の評価軸を熟知した現地社員を駐在員が過度に評価することで、組織全体に悪影響を及ぼすケースがあります。
本記事では、12年間の米国駐在経験をもとに、この問題の背景とその対策について考察します。
日系企業に入社する現地社員の特徴
まず大前提として、悲しいかな業界トップクラスの人材は日系企業には入ってきません。そういう市場価値の高い人材は当然給与水準の高い米系企業に応募します。
日系企業に入社する人材は、大きく以下の4つのパターンに分類できます:
1)収入や昇進よりも安定を求めるタイプ
2)英語が苦手な現地日本人やハンデキャップを抱えるタイプ
3)日本文化が好きなタイプ
4)日本人の評価軸を熟知しているタイプ
日本人の評価軸を利用する現地社員のリスク
この中で特に厄介なのは、4)日本人の評価軸を熟知しているタイプです。
実力が伴っていれば何ら問題はありませんが、実力はないけど(ないからこそ)駐在員の評価軸ばかり意識して下記のような行動をとる場合があります。
・残業を厭わない(むしろ深夜早朝にメールしたりする)。
・職務範囲外のことでも指示に従う。
・報連相を徹底する。
・他部門にも協力する。
・自責思考である。
・本社からの出張者の前で駐在員を褒める。
これらの行動が駐在員の評価基準に合致し、現地社員として不自然に高評価を得ることがあります。
結果として、このタイプの社員が駐在員の推薦で昇格し、現地経営や親会社からも現地キーマン認定されてしまうと、組織や事業に悪影響を及ぼすリスクがあります。
問題の根本原因
この問題の背景には、日本の雇用文化であるメンバーシップ型の評価基準があります。日本では職務内容よりも組織への貢献度や勤勉さが評価される傾向があり、海外駐在員が現地社員を評価する際にも無意識のうちにその傾向で評価してしまいます。
解決策:駐在員と組織の対応
1. 駐在員のトレーニング
→まず駐在員が無意識に持つ「日本人的評価軸」を自覚させる
2. 評価基準の明確化/仕組み化
→業績評価とコンピテンシー評価(日本人的評価)双方を評価項目に入れる
3. 職歴・リファーラルチェックの徹底
日本人評価軸の持つポテンシャル
ただ強調したいのは、日本人の評価軸自体が悪いわけではないという点です。むしろ勤勉さや従順さ、報連相の徹底や自責思考は、どの国でもどの業界・職種においても有用な特性です。しかし、それが「実務能力と結びついているか」を評価する視点が欠けている場合、誤った登用につながるリスクを伴います。
結論
米国で成功している日系企業は、日本人的な評価軸だけではなく実力も鑑みた採用や評価軸を導入し、優秀な人材を採用し育成しています。人の数だけ評価軸があるので、バイアスがかかっていること自体が問題なのではありません。無自覚に偏った評価により人材登用が進んでしまうことが問題なのです。
日本人的評価軸を無意識的に行える人材は極めてポテンシャルが高い人材ともいえますので、楽して評価されるルートに流れない/流さないように評価制度を整え人材育成・登用の仕組みを整えることが寛容です。
駐在員が無意識の日本人的評価基準を認識し、そのバイアスに惑わされぬよう組織全体で公正な評価軸を確立することができれば、米国事業の成功にかなり近づくと感じます。