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冬ピリカショートショート   砂防ダム



冬の朝、何か外が明るい。あわてて出ると、向こう側は真っ白でした。
何か出来ると聞いていましたが、これは初めてです。

今まで、ずっと働いてきた私は、落ち着いて外の世界などを眺めることなどなかったのです。毎日仕事のことしか考えてなかった。
改めて見ると…、この風景は…
「あ~」少し残念で、ため息が出ます…。

人生を振り返ってみても、父は産まれる前すでに亡くなっており、姉は災害で亡くなったので、幼い頃の事は何も知りません。

災害のことについては、一言も話さなかった母。辛いことがあったのだろうと、私からも聞くことを躊躇していました。
ところが、今日は母として。いや、ここの女王として私たち姉妹含め、一族に大事な話しがあると呼び寄せられました。

皆を前に、ひときわ大きな女王は話します。
「昔、この地で災害があり私は多くの子を失った。それは悲惨なものだった。我々は多くの土や水に家ごと流されたのだ。それですめば助かったのだが、その後の重機とコンクリートに踏みつぶされた。

災害を生み出した人間は己の過ちを隠す為、この地に城壁を造った。これを見なさい。この風景が山に似合うだろうか?この白いコンクリートが。

人間は『この砂防ダムで、もう安心だ』と言うが城壁(砂防ダム)の向こう側のことを知らない。砂で埋まっているのだ。今年また、大雨が降れば城壁はただの階段となる。流れてきた水と土は上を通り過ぎるだけになる。
我が子達よここを去ろう。北へ行こう。私は残ったオスを食ってから飛ぶ」

すぐに働き蟻は列をなし北へ進みました。地盤の固い地を目指し進みます。
後日、女王蟻は数匹のか弱いオスを引き連れ北へ飛びました。地盤の固い団地でした。
 一方残されたオス達は巣に蓄えられた食料が尽きるまで、耐えるしかありませんでした。

女王蟻が飛んで来た団地の蟻たちは固い地に巣を作り始めた。
一方、大雨の降り始めた砂防ダム。

梅雨の末期のような雨となり警報センサーが灯りました、下に住んでいる人間はすぐに避難します。

もう危ない。

砂防ダムの土はいっぱいです。
小さな小石が転がります。
後…ほんのわずかの水で土砂が流れます。

残されたオス蟻たちも巣に水が入らないように必死です、皆でかたまって蓋になっています。ところが…、
「あーー!」
蓋代わりのオス達が流されてしまいました。濁流の中へ。

巣に少しずつ水が入っていきました。

トクトクトク…?
ん…?
止まった?

オス蟻たちは、もしもの為に巣を広げ、水の道を造っていたのです。

ふ~~う。

人間は皆助かり、ダムの裏側の砂の溜まりも撤去されました。
守ったオス達は…、見つかりません。

オス達は役に立って死ぬは本望です。

が…、交尾して灯り…食われるが、希望でした…。

蟻の世界では働き蟻はメスです。
オスは女王と交尾して灯り、メスに食われる。か…、備蓄食料。

その後女王蟻…、
探しに行って…灯らしてあげたらしい。



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