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退職後、ギター・ピアノ始めました 「学生時代のMichelle」を弾いてみる
リハビリがてらギターを弾くようになったけども、何十年も離れると楽譜も読めなくなり、押さえる握力が無かったことはショックだった。どうしても動かない指に腹立てて、自分の指を折りそうなこともあった。
けども、またがむしゃらな学生時代に戻ってるような気もする。当時の事を思い出話として書いてみた。
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はじまり
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パチンコ屋を通り過ぎ大学へ向かう道に下駄を鳴らしてゆく奴がいる。
古墳時代じゃあるまいし、今どき下駄なんて履いてる奴など見たこともない。ただ誰かの真似して下駄なるものを履き大学に通ってみたいだけの奴なのだろう。変な奴。3人くらいは見たことある。
そんなんだから講義は後ろの席に座る。そして、そのうち配られてくる出欠の紙に学籍番号と名前を記入し、回収されていくのを見届けたら、トイレに行くふりをして席を外し教室を抜けた。カコカコ、カコカコ…。
「ん? 彼はもう学食へ行ったのかね」
教授も見届けていた。
なんで今日も下駄…。
昔は紙に名前書いて出欠をとる講義なんかがあったもんだから、こんなことする奴だった。
だからだ。ドイツ語テストの時、用紙を準備してる人を見て「あの人誰?」と隣の佐藤に聞く。
「教授やで、知らんの…!?」
さすがに呆れられた。
ギターを抱えて下駄を履く。
なんか勘違いしてたのだろう。
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教室を抜けると小さなグランドがあり、そこを突き抜け武道館へ…カランコラン…と向かう。下駄の乾いた音がいい。
右隅の湿気った階段を…カコッ、カコッ、、、。カッカッ…と降りれば地下にはクラブハウスが並ぶ。最後の一下駄で音もニオイも変わる地下だった。
コン。
湿っぽい音が反響する。
到着。
さて、とりあえず部室前で一服。
誰もいないのにカッコつけながらタバコに火をつけ、隙間からのぞく空を眺める。煙はもわっと広がるだけ。しばらくすると、急に決心したかのように短くなったタバコをつまんで一服し空にフーっ…と吐く。汚ない灰皿へ吸い殻を投げ込んだ。
あの丸い缶の灰皿、いったいなんの缶だったんだろう。汚すぎてわからない。
ギィーッと部室の鉄扉を開けると、、、誰もいない。 そう、いつもは誰かがいてなにかしら弾いてんだが…、そういえば今日は電気も音も漏れてなかった。
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そうだ、言ってなかった。ここはマンドリン倶楽部。当時はそこそこ流行ってた(?)んじゃないかと思うけども。そんなことはないか。こいつ本当はフォークをやろうとしてたのに合コンの話に釣られてマンドリン倶楽部に入ってしまったのだ。
地道に流行りつつあったはずのマンドリンだけども、どうも辛気くさい。演歌に使われるようになってからおかしくなった。だからクラシックギターも演歌になってしまったのだ。〇〇が演歌に使い始めたからだ。元はヨーロッパだろう。
いや、今さら文句言っても仕方ないが、こいつはなんとかして元のマンドリンやギター音楽にしようとしてたのだ。
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見渡すと、コンクリート臭のする部屋の奥にはウッドベースが3本が立てられている。手前は黒く小さな四角いケースのマンドリンとマンドラ。その横は大きなマンドセロ。右を見れば黒ケースのギターがずらりと並ぶ。壁際には汚いパイプ椅子と譜面台が片づけられた打ちっぱなしの部室である。無理やり入れば、たしか40人くらいは演奏出来たと思う。壁には先輩たちの定期演奏会の白黒パネルが並んでいた。
そんな決してきれいとは言えない部屋で、奴はギターを手にして椅子に座る。足を組む。音叉を膝で鳴らしてコーンと響くA音をくわえて調弦する。
入部したては調弦なんて何も知らなかった。
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奴の手にしたギターは1年の夏にバイト代を貯めて買った茶色のギターだ。
さて、まずは指を慣らすために音階を弾く。ただドレミ、、、と弾いていくだけなんだが、みんなで速さをやたら競うことがある。演奏に速さは必要だった。奴はやたらに速かった。そして指が馴れてくればとりあえずMichelleを弾く。
(あ〜っ、まだ上手く弾けない…)
ビートルズが好きだったので、ギター教本じゃなく別の譜面を見て一人よく弾いていた。それなりにアレンジするのも好きだった。
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最初に買ったギターは高くはないけども、表面が杉で出来ていたからやたらデカい音が出た。まるでフラメンコのように乾いた音で打ち鳴らしてるようだった。重厚な音ではなく軽く楽しい音。
だが、奴は重厚な音の出るギターが欲しくなってきた。少しでも上達すれば、学生にとっては高いけども生意気にドイツ松の白っぽいギターが欲しかったのだ。よくあることだった。
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その為には金がいる。さすがに親に「買って…」とは言えないので、長い夏休みのバイトで金を貯めようと決めた。
どこでバイトしようかと悩んだが、金になる力仕事がいいと、看板屋に決める。デカいスチール文字板を打ち作る仕事だった。
奴の現場はヤンキー上がりの兄さんがしきり、老けたおやっさんがもう一人。ここで1か月働くこととなる。
下駄の奴に出来るんだろうか。
つづく⏬️
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